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婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


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34/50

第34話 あなたの商会まで巻き込みたくない

 紹介先へ連絡する前に、アドリアンへ面会を頼んだ。

 夕方、客のいない売り場で話す。


「私を助けることで、損をしてほしくないのです」


 彼は椅子へ座った。


「損が出る可能性はあります。紹介したからといって、話がきれいに収まる保証もありません」


 私は驚いた。

 心配しないで、と言われると思っていた。


「ただ、それを判断するのは私です。あなたが必要としない援助なら、しません」

「必要です。でも」

「なら、範囲を決めましょう」


 契約の照合は専門の人へ。

 費用は見積もりをもらってから、私が決める。

 商会は仕入れを続けるが、私の代わりに噂へ反論はしない。

 判断の材料を集めるところまで、協力してもらう。


 紙に書くと、不安の形が少し見えた。

 全部を任せるか、全部を抱えるか。その二つだけではなかった。


「あなたは、私が失敗するかもしれないと思っている?」


 アドリアンは少し考えた。


「店を経営していれば、失敗はするでしょう。私もします」

「それでも、お金を貸してくださったのね」

「失敗した時に、確認して直す方だと思ったからです」


 私は、最初の黒字の夜を思い出した。

 褒められるのは、成功した時だけだと思っていた。


「では、私は何をお返しすれば」


 尋ねると、アドリアンは首を振った。


「今日の相談に、別の借りをつけないでください。費用が発生する仕事は、最初にお伝えします」


 助けを受けるたび、好意まで返さなければならないと思っていた。それが怖くて、必要な頼み事も小さくしていた。

 私は費用の説明と、人としての親切を、同じ袋へ入れなくてよいのだと知った。

 彼へ礼を言い、紹介先へ伝えてほしい内容を書いた。自分ができる仕事は、自分で持っていく。


 彼が帰った後、マルタに相談した。

 母の友人へ連絡したい。父と大商会の資料も確認したい。

 店の仕事を、数日だけ調整してほしい。


「言ってくれて、ありがとう」


 マルタはそれだけ答えた。

 私を気遣って隠した彼女も、今は私の質問を待ってくれている。


 私はソランジュ宛ての手紙を封じた。

 最後の一文は、何度も書き直した。


『母の名を守るためだけでなく、あなたのお話を伺いたいのです』

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