第34話 あなたの商会まで巻き込みたくない
紹介先へ連絡する前に、アドリアンへ面会を頼んだ。
夕方、客のいない売り場で話す。
「私を助けることで、損をしてほしくないのです」
彼は椅子へ座った。
「損が出る可能性はあります。紹介したからといって、話がきれいに収まる保証もありません」
私は驚いた。
心配しないで、と言われると思っていた。
「ただ、それを判断するのは私です。あなたが必要としない援助なら、しません」
「必要です。でも」
「なら、範囲を決めましょう」
契約の照合は専門の人へ。
費用は見積もりをもらってから、私が決める。
商会は仕入れを続けるが、私の代わりに噂へ反論はしない。
判断の材料を集めるところまで、協力してもらう。
紙に書くと、不安の形が少し見えた。
全部を任せるか、全部を抱えるか。その二つだけではなかった。
「あなたは、私が失敗するかもしれないと思っている?」
アドリアンは少し考えた。
「店を経営していれば、失敗はするでしょう。私もします」
「それでも、お金を貸してくださったのね」
「失敗した時に、確認して直す方だと思ったからです」
私は、最初の黒字の夜を思い出した。
褒められるのは、成功した時だけだと思っていた。
「では、私は何をお返しすれば」
尋ねると、アドリアンは首を振った。
「今日の相談に、別の借りをつけないでください。費用が発生する仕事は、最初にお伝えします」
助けを受けるたび、好意まで返さなければならないと思っていた。それが怖くて、必要な頼み事も小さくしていた。
私は費用の説明と、人としての親切を、同じ袋へ入れなくてよいのだと知った。
彼へ礼を言い、紹介先へ伝えてほしい内容を書いた。自分ができる仕事は、自分で持っていく。
彼が帰った後、マルタに相談した。
母の友人へ連絡したい。父と大商会の資料も確認したい。
店の仕事を、数日だけ調整してほしい。
「言ってくれて、ありがとう」
マルタはそれだけ答えた。
私を気遣って隠した彼女も、今は私の質問を待ってくれている。
私はソランジュ宛ての手紙を封じた。
最後の一文は、何度も書き直した。
『母の名を守るためだけでなく、あなたのお話を伺いたいのです』




