↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/50

第29話 売れたのは、母の菓子だけではありません

 祭りの翌日は、予定どおり休みにした。

 私は二階で、売り上げと費用を整理する。

 包装の変更で節約できた分はあったが、急な確認に使った交通費も記録した。

 納入業者からは、誤処理のお詫びと、未配達分の返金が届いた。


 祭りの利益は残った。

 それ以上に、店を知らない人へ案内を渡せた。


 休み明け、テオの小石を求める客が来た。


「祭りのお菓子と、同じ人が作ったの?」


 ニナが彼を呼ぶ。

 テオは緊張しながら、三人で作ったことを説明した。


「僕が作ったのは、この小石です」

「では、それも食べてみたいわ」


 注文が一つ増えた。

 テオは厨房へ戻ると、配合表の自分の名を指で押さえた。


 林檎の灯りを毎日置いてほしいという客もいた。私はすぐ頷かず、今の仕込みへ入れられる曜日を考えた。

 週に二日から始めると説明すると、客はその日を覚えて帰った。

 テオが、毎日作れないのは惜しいと言う。マルタは、小石を買いに来る人の分も忘れないようにと答えた。

 新しい成功で、以前の約束を押し出してはいけない。私は製造表へ林檎の灯りを書き足し、定番の量は守った。店は増やすものだけでなく、残すものでも出来ていた。


 午後、ガスパールが来た。

 買収の話ではなかった。


「当商会の案内に、貴店のレシピを取得済みと読める説明があった件で、確認しています」


 私の背中が冷えた。


「その説明をしたのは?」

「セドリック殿です。詳しい照合に、別途ご協力いただく可能性があります」


 私は遺産分配書の写しを取り出した。

 ガスパールは受領した日付を記し、受取書を残す。


「売買の説明と、実際の権利に差があれば、当商会も看過できません」


 彼は帰っていった。

 向かいの建物へ入る背を見て、私はレシピ帳を抱え直した。


 その夜、最後の頁を開く。

 何も書かれていないと思っていた頁に、斜めの光を当てた。

 薄い貼り紙の端が、浮いている。

 古い糊が剥がれたところに、母とは違う字が見えた。


『エリーズと、私の』


 私はその先を読む前に、手を止めた。

 母の菓子は、母ひとりのものではなかったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。