第22話 予約帳を閉じる決断
週末の注文を全部受けると、前夜の仕込みは深夜まで続く。
翌朝は四時から火を入れ、配達は二人必要だった。
私は、どう分けても足りない時間を見つめた。
「私が夜の分をやるわ」
言った瞬間、マルタが鉛筆を置く。
「最初に、何を約束した?」
店長が倒れない店。
自分で紙に書いた言葉だった。
ニナが未確定の予約を並べた。
「受け取り日を動かせる方には聞きます。無理なら、お断りします」
「せっかく来てくださったのに」
「間に合わない約束をする方が、困らせます」
私は一件目の客に、自分で説明した。
店の規模では、この日はもう作れない。翌日なら受けられる。
女性は残念そうにして、別の店へ行った。
扉が閉まる音が痛かった。
それでも、次の客にも同じことを言った。
その人は翌日に変更してくれた。
予約帳に上限の線を引く。
誰かの期待を断つ線のように見えていたものが、少しずつ、約束を守る線に見えた。
断った一件のことを、私は何度も思い出した。ニナに、もう少し工夫できたのではと尋ねる。
彼女は製造表を戻してきた。
「増やすなら、何を減らしますか」
その質問には答えられなかった。従業員の睡眠も、既に約束した客の品質も、減らしたくない。
なら、断るしかない。胸の痛みが消えなくても、判断が間違っているとは限らない。
私は空いた欄へ、次の週に同じ問い合わせが来た時の案を書いた。断った痛みを、次に受けられる準備へ変えたかった。
土曜日、注文を時間どおり渡せた。
ひと箱、カードの名前を間違えかけたが、二人で確認して気づいた。
眠っていなければ、見落としたかもしれない。
閉店後、ポールが作業表を眺めて言った。
「俺、先週から、ずっと最後に帰っていますね」
私は表を見た。
配達が増えると、片づけを彼へ頼んでいた。頼む時は十分のつもりでも、毎日重なっていた。
「気づかなかった。ごめんなさい」
「頼まれると、引き受けますから。ただ、これを続けるなら、順番を決めませんか」
彼は責めなかった。
だからこそ、笑って済ませてはいけなかった。
私は明日の打ち合わせを予定へ入れた。
売り上げが伸びた後にも、守るべき約束は減らない。




