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婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


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22/50

第22話 予約帳を閉じる決断

 週末の注文を全部受けると、前夜の仕込みは深夜まで続く。

 翌朝は四時から火を入れ、配達は二人必要だった。

 私は、どう分けても足りない時間を見つめた。


「私が夜の分をやるわ」


 言った瞬間、マルタが鉛筆を置く。


「最初に、何を約束した?」


 店長が倒れない店。

 自分で紙に書いた言葉だった。


 ニナが未確定の予約を並べた。


「受け取り日を動かせる方には聞きます。無理なら、お断りします」

「せっかく来てくださったのに」

「間に合わない約束をする方が、困らせます」


 私は一件目の客に、自分で説明した。

 店の規模では、この日はもう作れない。翌日なら受けられる。

 女性は残念そうにして、別の店へ行った。


 扉が閉まる音が痛かった。

 それでも、次の客にも同じことを言った。

 その人は翌日に変更してくれた。


 予約帳に上限の線を引く。

 誰かの期待を断つ線のように見えていたものが、少しずつ、約束を守る線に見えた。


 断った一件のことを、私は何度も思い出した。ニナに、もう少し工夫できたのではと尋ねる。

 彼女は製造表を戻してきた。


「増やすなら、何を減らしますか」


 その質問には答えられなかった。従業員の睡眠も、既に約束した客の品質も、減らしたくない。

 なら、断るしかない。胸の痛みが消えなくても、判断が間違っているとは限らない。

 私は空いた欄へ、次の週に同じ問い合わせが来た時の案を書いた。断った痛みを、次に受けられる準備へ変えたかった。


 土曜日、注文を時間どおり渡せた。

 ひと箱、カードの名前を間違えかけたが、二人で確認して気づいた。

 眠っていなければ、見落としたかもしれない。


 閉店後、ポールが作業表を眺めて言った。


「俺、先週から、ずっと最後に帰っていますね」


 私は表を見た。

 配達が増えると、片づけを彼へ頼んでいた。頼む時は十分のつもりでも、毎日重なっていた。


「気づかなかった。ごめんなさい」

「頼まれると、引き受けますから。ただ、これを続けるなら、順番を決めませんか」


 彼は責めなかった。

 だからこそ、笑って済ませてはいけなかった。


 私は明日の打ち合わせを予定へ入れた。

 売り上げが伸びた後にも、守るべき約束は減らない。

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