↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に店を売られたので、従業員全員と向かいに新しい店を開きます  作者: 渋谷 爽月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/50

第21話 小さな箱に、名前を添えて

 アドリアンの祖父への箱には、甘い蜂蜜ケーキと、香草の薄焼きを入れた。

 同じものを好かなくても、同じ箱を囲める。

 カードには、彼が自分で言葉を書いた。


『日曜日、伺います。今度はお茶だけでも』


 私は読まないように目を逸らしたが、最後の行だけ見えてしまった。

 彼は封をする時、照れたように笑った。


 贈答箱の注文は、少しずつ入った。

 花屋から、出産祝い。仕立屋から、長く働いた職人への礼。

 ニナは贈る相手の好みを聞き、選べる組み合わせを三つに絞った。


「全部自由だと、選ぶ方も私たちも困りますから」


 最初は一箱を包むのに時間がかかった。

 紙を切りすぎて無駄にし、リボンを締めすぎて蓋を歪ませた。

 ニナは失敗した箱を、練習用として二階へ持っていく。

 翌朝、同じ長さに切った紐が机へ並んでいた。


 午後、小さな女の子が父親と来た。

 母親の誕生日に、自分で選びたいという。


「お母さんは、林檎が好き。でも、弟は蜂蜜が好き」

「では、両方入れましょうか」

「私のも、入れていい?」


 ニナは大きめの箱を勧めた。

 家族の人数を聞き、喧嘩にならない数にする。

 女の子はカードへ、覚えたばかりの文字を一字ずつ書いた。


 カードの代筆を頼んだ客は、最初、立派な言葉にしてほしいと言った。ニナが何を伝えたいか尋ねると、女性は照れながら、いつも助かっている、と答えた。


「そのままでも、伝わると思います」


 女性は少し考え、自分で書くと言った。書き損じた紙を、ニナは黙って交換する。

 私は厨房からそのやり取りを見ていた。菓子を売る店で、菓子以外の言葉が生まれている。味だけを磨けばいいと思っていた時には、気づかなかった仕事だった。


 閉店後、売れた箱を数える。

 同じ材料でも、注文の仕方が変わると、捨てる量が減った。

 先に必要数が分かるのは、厨房にもありがたい。


 アドリアンから、礼状が届いた。


『祖父は、薄焼きは私の分だと知ると、半分残して待っていました』


 私はその一文を、もう一度読んだ。

 甘いものを我慢して食べる少年は、今度は好きなものを分けてもらえたらしい。


 翌朝、予約の問い合わせが六件入った。

 ニナが喜んで帳面を開き、マルタが製造表を見た。

 彼女の指が、同じ日に集中した数字で止まる。


「店長。これは、受けてから考える数ではないよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。