第21話 小さな箱に、名前を添えて
アドリアンの祖父への箱には、甘い蜂蜜ケーキと、香草の薄焼きを入れた。
同じものを好かなくても、同じ箱を囲める。
カードには、彼が自分で言葉を書いた。
『日曜日、伺います。今度はお茶だけでも』
私は読まないように目を逸らしたが、最後の行だけ見えてしまった。
彼は封をする時、照れたように笑った。
贈答箱の注文は、少しずつ入った。
花屋から、出産祝い。仕立屋から、長く働いた職人への礼。
ニナは贈る相手の好みを聞き、選べる組み合わせを三つに絞った。
「全部自由だと、選ぶ方も私たちも困りますから」
最初は一箱を包むのに時間がかかった。
紙を切りすぎて無駄にし、リボンを締めすぎて蓋を歪ませた。
ニナは失敗した箱を、練習用として二階へ持っていく。
翌朝、同じ長さに切った紐が机へ並んでいた。
午後、小さな女の子が父親と来た。
母親の誕生日に、自分で選びたいという。
「お母さんは、林檎が好き。でも、弟は蜂蜜が好き」
「では、両方入れましょうか」
「私のも、入れていい?」
ニナは大きめの箱を勧めた。
家族の人数を聞き、喧嘩にならない数にする。
女の子はカードへ、覚えたばかりの文字を一字ずつ書いた。
カードの代筆を頼んだ客は、最初、立派な言葉にしてほしいと言った。ニナが何を伝えたいか尋ねると、女性は照れながら、いつも助かっている、と答えた。
「そのままでも、伝わると思います」
女性は少し考え、自分で書くと言った。書き損じた紙を、ニナは黙って交換する。
私は厨房からそのやり取りを見ていた。菓子を売る店で、菓子以外の言葉が生まれている。味だけを磨けばいいと思っていた時には、気づかなかった仕事だった。
閉店後、売れた箱を数える。
同じ材料でも、注文の仕方が変わると、捨てる量が減った。
先に必要数が分かるのは、厨房にもありがたい。
アドリアンから、礼状が届いた。
『祖父は、薄焼きは私の分だと知ると、半分残して待っていました』
私はその一文を、もう一度読んだ。
甘いものを我慢して食べる少年は、今度は好きなものを分けてもらえたらしい。
翌朝、予約の問い合わせが六件入った。
ニナが喜んで帳面を開き、マルタが製造表を見た。
彼女の指が、同じ日に集中した数字で止まる。
「店長。これは、受けてから考える数ではないよ」




