第20話 値段で勝てないなら
最初に訪ねたのは、仕立屋だった。
試食を売りつけるつもりはないと伝え、忙しい時間を避けて質問する。
「菓子を買う時、困ることはありますか」
主人は針を置いた。
「贈る相手が、何を好きか分からない。高い箱を買って、食べられなかったことがある」
次は宿屋。
女将は日持ちを尋ねた。旅人が翌日持ち歩けるものがほしいという。
花屋は、カードに名前を書いてほしいと言った。
私は紙を埋めた。
甘さ。数量。持ち歩く時間。贈る目的。
菓子の味を聞きに来たつもりが、その前と後の話が増えた。
最後にアルノーさんの工房へ寄る。
奥さんが、小さな箱を出してくれた。
「娘から届いた箱なの。中身も好きだったけれど、この紙が嬉しくて」
底には手書きのカードがあった。
誕生日でも記念日でもない、短い近況。
私は母から届いた手紙を、まだ全部持っている。
訪問の途中で、断られた店もあった。忙しいからと短く返された時、私は思ったより傷ついた。
同行したポールが、時間を変えて聞くか、今回はやめるかと尋ねる。
「今日はやめましょう」
相談を聞いてもらうことも、相手の時間を使う。新しい店が困っているからといって、全員に助けてもらえるわけではない。
私は礼を言い、道の端へ移った。紙には、聞けた内容だけを書く。断られた理由を勝手に作らず、こちらが訪ねた時刻を残した。
売り込みにも、相手の都合を待つ技術が必要だった。
店へ戻り、ニナと箱を組んだ。
高価な飾りはつけない。小さな仕切りを入れ、二種類か三種類を選べるようにする。
カードは希望する人だけ。代筆も引き受けるが、その時間を料金へ入れた。
テオが小石を持ってきた。
「これも、入りますか」
「ええ。崩れにくいから、旅の贈り物に」
彼は箱へ一つ置き、向きを直した。
マルタは日持ちの違う商品を混ぜないよう、組み合わせを書き出す。
その夜、アドリアンへ相談した。
「箱の仕入れ先を知りませんか。数は、まだ少なくて」
「大量発注の方が単価は下がりますが、今は小口で買える店がよさそうですね」
彼は利益率のよい方を、一方的に勧めなかった。
私は訪問で聞いた話をした。
アドリアンはカードを眺める。
「商会でも、礼を伝える贈り物はよく使います」
「ご注文ですか?」
「まずは、私個人で。ひとつ、お願いできますか」
宛名を尋ねると、彼は少し迷った。
「祖父へ」
私は、甘い菓子を断れなかった少年の話を思い出した。




