第6話 初めてのエンチャントと、はじかれた石
ルゥと組んで十日がたった。
毎朝、俺は第一層と第二層で魔物を狩る。夕方になると、ルゥが拾ってきたボロを買い取って、馬小屋で解体する。出てきた欠片のうち、半分はギルドの酒場で冒険者に売り、半分は取っておく。
十日で、手元の欠片は四十個をこえた。精錬石にすれば、四個分だ。レベルは5になった。力はまだ8しかない。
お金も少しずつたまってきた。古着屋でなめし革の上着とズボンを買った。学生服はもうぼろぼろでネズミにかじられた袖は、肘から先がなくなっていた。これで少しは冒険者っぽく見える。たぶん。
そして今日、ついに試してみることにした。
エンチャントだ。
ギルドの一階の掲示板に大きな表が貼ってある。「魔導エンチャント 公式成功率表」。新人は必ず見ておくようにと赤い字で書き添えてあった。
+1~+3 成功率 百パーセント
+4 成功率 七十パーセント(失敗すると強化値が一つ下がる)
+5 成功率 六十パーセント(失敗すると一つ下がる)
+6 成功率 五十パーセント(失敗すると**装備は消滅**)
+7 成功率 四十パーセント(消滅)
+8 成功率 三十パーセント(消滅)
+9 成功率 二十パーセント(消滅)
+10 成功率 十パーセント(消滅)
表の下には、こう書いてあった。
**※王国は+3をこえる強化をすすめません。それ以上は神の領域であり、身を滅ぼす賭けです。**
なるほど。+3までは安全。そこから先は失敗すると下がる。+6から上は失敗すると装備そのものが消える。これが「ロスト」というやつらしい。
酒場の冒険者たちの話を聞いていてもみんな+3か、せいぜい+4か+5で止めている。+6に挑戦するのは、よっぽどの金持ちか、よっぽどのバカだけだそうだ。
馬小屋に戻って、わらの上に座った。となりの仕切りの馬が、今日も俺をじっと見ている。
「見てろよ、先輩。記念すべき一回目だ」
最初はナナシで試すことにした。いつも使っている武器だし、強くなるなら、これがいちばんうれしい。
欠片を十個、手のひらに重ねる。すると、欠片どうしがじんわりと溶け合って、一つの丸い石になった。親指の先くらいの青く光る石。これが精錬石だ。
石をナナシの刃にそっと当てた。
――ばちっ。
「うわっ!」
石がはじき飛ばされた。
まるで磁石の同じ極どうしみたいにナナシにふれた瞬間、反発して飛んでいったのだ。わらの上に転がった石は、光を失っていなかった。消費はされていない。ただ、はじかれただけだ。
もう一度試しても同じだった。ばちっ、と音がして、石が飛ぶ。
〔??? 名無しの短剣 +0〕
限界 ――
頭の中の文字も変わらないままだ。
「お前、強化できないのかよ……」
ちょっとがっかりした。でも、同時に、やっぱり普通の短剣じゃないんだな、とも思った。はてなが三つもついているくらいだ。何か、条件があるのかもしれない。
気を取り直して、今度は鉄の小盾を取り出した。
ルゥが拾ってきたボロの中でいちばん状態がよかったものだ。へこみはあるけど、穴はあいていない。解体するのがもったいなくて、取っておいた。
〔鉄の小盾 +0〕
じっと見る。表面を走る光の線は、ところどころ、つやつやと輝いていた。とくに、持ち手のまわりと、敵の攻撃を受け止める真ん中のあたり。
たぶん、前の持ち主が使い込んでいた場所だ。何度も何度も攻撃を受けて、そこの線が、なんというか、なじんでいる。
石を、盾に当てた。
パチン。
小さく弾けるような音がして、盾がふわっと光った。
〔鉄の小盾 +1〕
「……おおっ」
思わず声が出た。盾の表面の線がさっきより少しだけ太くなっている。持ってみると、ほんの少し軽くなった気がした。
続けて、二回目。パチン。+2。
三回目。パチン。+3。
三回とも成功した。表のとおりだ。でも、三回目のあとで俺は妙なことに気づいた。
盾の線が赤っぽくなっている。
さっきまで青白かった光の線が、ぼんやりと赤みを帯びて、ゆらゆらゆれているのだ。さわってみると、ほんのり温かい。
「……熱を持ってる?」
ゲームでいえば、クールダウンみたいなものだろうか。続けて強化をすると、装備に熱がたまる。
もし、この熱いままの状態で+4に挑戦したら、どうなるんだろう。
試してみたい気持ちをぐっとこらえた。石はまだ一個分残っている。でも、失敗したら+2に下がるし、何より、この「熱」の意味がわからないまま試すのはただのばくちだ。
サバイバルの鉄則その四。**わからないことは、まず記録しろ**。
俺は古着屋でおまけにもらった紙の切れはしに今日のことを書きつけた。
・ナナシは石をはじく。理由はわからない
・鉄の小盾 +1、+2、+3、全部成功
・三回目のあと、線が赤くなって熱を持った
・使い込まれた場所の線は、つやがある
そして、自分の頭の中で二つの言葉をつくった。
使い込まれて、線がつやつやしている状態。これを「なじみ」と呼ぶことにする。
強化のあと、線が赤く熱を持っている状態。これは「ひずみ」だ。
名前をつけると、ふしぎなことが起きた。盾を見たとき、頭の中の文字が、少しだけ増えていたのだ。
〔鉄の小盾 +3〕
なじみ ★★☆☆☆
ひずみ ★★★☆☆
「……え」
星が出た。
俺がそう呼ぶと決めた瞬間、目のほうが、それに合わせて教えてくれるようになったらしい。解体屋の目は俺の考え方に合わせて、見え方を変えてくれるのかもしれない。
次の朝、目をさましてすぐに盾を見た。
〔鉄の小盾 +3〕
なじみ ★★☆☆☆
ひずみ ☆☆☆☆☆
ひずみがゼロになっていた。線の色も青白く戻っている。一晩で冷えたのだ。
となりの馬がぶるる、と鼻を鳴らした。
「先輩。これ、たぶん、すごいことだぞ」
俺は紙の切れはしにまた一行書き足した。
・ひずみは、一晩で消える
第6話 了




