第19話 勇者さまの行列
その朝、グラナートの大通りは、人でぎっしりだった。
「勇者さまだ!」
「勇者さまが来たぞー!」
ラッパの音が響いて、北の門から、ぴかぴかの鎧を着た騎士たちが、馬に乗って入ってきた。先頭の旗には、ルーンベルク王国の紋章。獅子と剣の模様だ。
その騎士たちに囲まれるようにして、白い馬に乗った三人がいた。
天城レン。桜井ミオ。神崎ユウト。
一か月半ぶりに見るクラスメイトだった。
三人とも学生服はもう着ていなかった。天城は金色に輝く鎧を着て、腰には大きな剣をさしている。桜井は白と金のローブ。神崎は金の飾りのついた杖を持っていた。
「勇者さまは、城の騎士団と魔物狩りをして、もうレベル20をこえたんだってよ」
「たった一か月半でか!」
まわりの人たちの話し声が聞こえた。俺のレベルは今、21。追い出されたハズレ職と、ほとんど同じだ。
でも、数字が同じでも中身はまるでちがう。剣聖の天城はレベルが一つ上がるたびに力が八つか九つ増える。レベル20なら、力はたぶん二百近い。俺は16だ。
通りの人たちが手を振ったり、花を投げたりしている。神崎は調子に乗って手を振りかえしていた。桜井はちょっと恥ずかしそうに小さく手を振っていた。天城はまっすぐ前を見たまま、表情を動かさなかった。
「すごーい。きらきら」
ルゥが俺の横でつま先立ちをしていた。
「あの三人が、勇者さま?」
「うん。……一応、同じ学校の同級生」
「えっ、カイ兄の知り合い!?」
「知り合いってほどでもないけど」
ノエルが行列の騎士たちをじっと見ていた。
「王国騎士団の第一部隊です。あの先頭の人が騎士団長のグラハムさま」
先頭の馬に乗っているのは、白髪まじりのいかつい顔のおじさんだった。背筋がぴんと伸びていて、いかにも偉い人という感じがする。
「知ってるの?」
「……父が、昔いた部隊です」
ノエルはそれだけ言って、目をそらした。
俺は行列の装備を見ていた。
騎士たちの鎧。勇者たちの武器。どれも、金色に光っている。
〔金の長剣 +0〕
〔金の全身鎧 +0〕
〔金の聖杖 +0〕
全部、金だ。俺たちがまだ一度も手に入れたことのない、ひとつ上のランク。
でも、どれも、+0だった。
騎士団長のグラハムの剣も天城の鎧も一つ残らず、+0。
しかも、なじみがほとんどない。星一つか、ゼロ。新品同然だった。
「なんで、強化してないんだろう」
思わず口に出すと、近くにいたおばさんが、あきれたように言った。
「あんた、知らないのかい。王国の騎士さまはね、強化なんてしないんだよ。王さまの教えさ。『+3をこえる強化は、神の領域をおかす行い』ってね」
「+3まではいいんですよね。でも、+1すらしてない」
「そりゃ、王家の宝物庫から出してきた、最高級の装備だもの。石を当てるなんて、もったいないし、失礼ってもんだよ。金の装備はそのままで十分強いんだから」
おばさんは誇らしそうに行列を見送った。
そのままで十分強い、か。
たしかに金は銀よりずっと強い。でも、俺の感覚だと、金の+0と、銀の+3は、たぶん同じくらいだ。銀の+4なら、たぶん金の+0より上。
王国のいちばん強い人たちが、俺の手の中の+4の銀の剣と、同じくらいか、それより弱い装備で戦っている。
なんだか、変な感じだった。
その日の午後、ギルドはその話題でもちきりだった。
「勇者さまたちは、五日後に第十層の主に挑戦するそうです」
マリーさんが教えてくれた。
「訓練をかねて、だそうですよ。騎士団長さまと、騎士さまが十人ついていくんですって」
「第十層の主って、どんなやつなんですか」
ノエルが聞いた。
「ゴルドスカラブ。黄金骸甲虫、ともいいます。金色の殻をした、馬車くらいの大きさの甲虫です」
マリーさんはギルドの資料を広げて見せてくれた。
「殻がものすごく硬くて、どんな剣もはじいてしまうんです。それに、第十層の主は、ひと月に一度くらい、倒されてもまた出てくるんですよ。だから、何度も挑戦されているんですけど、ここ半年は、誰も倒せていません」
「倒すと、何を落とすんですか?」
「ほとんどは硬貨と精錬石です。でも、ごくまれに……」
マリーさんは声をひそめた。
「金の防具を一式まとめて落とすことがあるそうです。兜、鎧、小手、すね当て。全部そろって」
ルゥの耳がぴーんと立った。
「い、一式!?」
「記録に残っているのは、十年間で二回だけですけどね」
十年で、二回。
でも、二回は、ある。
その夜、工房の作業台で俺は紙の束をめくっていた。ノエルとルゥもなんとなくいっしょに座っていた。
「カイ兄、ゴルドなんとか、倒しにいくの?」
「……勇者たちが先に挑戦するなら、俺たちの出る幕はないかもしれない」
「でも、行きたいんでしょ」
ノエルがくすっと笑った。
「顔に書いてあるよ」
「顔に?」
「うん。大牙猪のときと、同じ顔してる」
俺は自分のほっぺたをさわってみた。べつに、何も書いてない。
「とりあえず、見に行くだけ見に行こう。第十層まで下りて、主がどんなやつか、自分の目で確かめる。戦うかどうかはそれから決める」
「うん」
「はーい!」
そのとき、工房の扉がとんとんと鳴った。
こんな夜中に誰だろう。ガンツさんがハンマーを持ったまま扉を開けた。
そこに立っていたのは、白いフードを目深にかぶった、女の子だった。
「……あの夜分にすみません。こちらに鳴海カイくんがいるって聞いて」
フードの下からのぞいた顔に見覚えがあった。
「……桜井さん?」
桜井ミオがほっとしたようにフードを外した。
第19話 了




