↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界突破の魔導エンチャント無双~最底辺の解体屋、虹色の神装備を拾い育てる~  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

第14話 とどいた一撃


 第三層はめちゃくちゃになっていた。


 通路の壁があちこち崩れて、地面には大きな蹄の跡が、いくつもえぐれていた。逃げおくれた冒険者が捨てていったのか、盾や剣がそこらじゅうに散らばっている。


「トトーっ! どこーっ!」


 ルゥが叫んだ。声が洞窟にわんわん響く。


「ルゥ、においでわかるか」


「待って……」


 ルゥは目を閉じて、鼻をひくひくさせた。耳が右に、左に、くるくる動く。


「……こっち! トトのにおい、する! それと……主のにおいもいっしょ!」


 走った。


 ルゥのあとをついて、曲がりくねった通路を抜ける。その先は見覚えのある場所だった。


 天井が低く、少し広くなった広間。右の壁ぎわには、崩れた岩の柱と、天井から落ちた岩のかたまりが、山になって積み上がっている。


 ノエルと初めて会った場所だ。俺が柱を倒した、あの広間。


 広間の真ん中に大牙猪がいた。


 鼻を地面にこすりつけるようにして、岩の山のまわりをぐるぐる回っている。岩の山のすき間に何かをさがしているみたいに。


「……あそこ」


 ルゥが指さした。岩の山のいちばん下のすき間。小さな影がぎゅっと体を丸めていた。


 五歳くらいの猫耳の男の子だった。


「トト!」


 ルゥが飛び出しかけるのをノエルがとっさに腕をつかんで止めた。


「待って、ルゥちゃん! 今出たら、ルゥちゃんまで……」


 大牙猪がぐるりとこっちを向いた。


 ブモオオオオッ!


 昨日の鳴き声より、ずっと怒っていた。頭を低くして、前足で地面をかく。突っ込んでくる気だ。


 考えろ。


 トトは岩のすき間にいる。大牙猪の体は大きすぎて、すき間には入れない。だから、周りをぐるぐる回っていたんだ。トトは今のところ安全だ。


 問題はどうやって大牙猪の首をこっちに向けさせるか。


 昨日はノエルが突進を横に流して、首が横を向いたところを突いた。でも、あれでは近すぎた。俺が吹き飛ばされたのは、あいつが首を振る余裕があったからだ。


 足もとを見た。


 崩れた柱の岩が広間のあちこちに転がっている。大きいのから、小さいのまで。ごろごろと、足の踏み場もないくらいに。


 あいつはこの上を突っ込んでくる。


「ノエル。突進を、正面で受けてくれ。流さなくていい。一瞬だけ、止めてくれればいい」


「正面で……?」


「足もとの岩であいつの前足がすべる。すべったら、頭が下がる。頭が下がったら、首のつけ根が、上を向く」


 ノエルは足もとの岩を見て、それから俺の顔を見た。


「……わかりました」


 迷いのない声だった。


「ルゥ。ノエルが受けとめたら、トトのところへ走れ。岩の山の裏側から」


「う、うん!」


 大牙猪が走り出した。


 地面がゆれる。岩がばらばらと跳ねる。灰色の山がまっすぐノエルに向かってくる。


 ノエルは盾を両手で構えて、腰を落とした。


 あと五メートル。三メートル。


 大牙猪の右の前足が、丸い岩を踏んだ。


 ずるっ、と、すべった。


 でかい体が前のめりにかたむく。頭ががくんと下がる。その勢いのまま、ノエルの盾にひたいから突っ込んだ。


 ごがあああん!


 ノエルの体が後ろに一メートルずり下がった。それでも倒れない。両足で、ふんばっている。


「カイ、さん……っ!」


 大牙猪の首のつけ根が、天井を向いていた。


 灰色の岩みたいな皮の奥に光る点がある。昨日、指二本分とどかなかった、あの点が。


 俺は倒れた柱の上を駆け上がって、跳んだ。


 真上から、銀の剣を両手で突き下ろす。


 ずぶり。


 昨日は止められた皮を剣が、ぬけた。


 手ごたえがまるでちがった。まるで、厚紙に針を通すみたいに刃がするすると奥へ進んでいく。皮の層を一枚、二枚、三枚。


 そして、切っ先が、光る点にとどいた。


 大牙猪の体がびくんと大きくふるえた。


 声は出なかった。


 家くらいの大きさの体が、足の先から順に光の粒になっていった。灰色の毛も白い牙もぜんぶがきらきらと宙にほどけていく。


 俺は支えを失って、地面に転げ落ちた。


 背中を打って、しばらく天井を見上げていた。洞窟の中に光の粒がゆっくりと舞っていた。雪みたいだった。


「……やった」


 声に出したら、急に実感がわいてきた。


「やった……のか?」


「やりました!」


 ノエルが盾を放り出して、俺のところへ駆け寄ってきた。


「やりましたよ、カイさん! とどきました!」


 ノエルの顔はくしゃくしゃだった。笑っているのか、泣いているのか、わからない顔だった。


 岩の山の向こうでルゥの泣き声が聞こえた。


「トト! トトぉ……! ばか、ばかぁ……!」


 ルゥが小さな男の子を抱きしめて、わんわん泣いていた。トトもいっしょに泣いていた。


 体の中にいっぺんに熱いものが流れこんできた。胸の奥の火がぼうっと大きくなる。冒険者証を見ると、数字が一気に跳ね上がっていた。


[鳴海カイ Lv16 解体屋 Fランク]


 四つも上がった。自分よりずっとレベルの高い魔物を倒すと、流れこんでくる力も大きいらしい。ノエルは17にルゥは10になっていた。


 大牙猪が消えたあとの地面には、ドロップ品が山のように積み重なっていた。


 ルーン硬貨がざっと三百枚。精錬石が三個も。それから、大人の腕くらいある白い牙が一本。


 そして、盾が一枚、転がっていた。


 月の光みたいに白く光る、丸い盾だった。


〔銀の盾 +0〕


 拾い上げて、俺はノエルにさし出した。


「これはノエルのだ」


「え……?」


「受けとめたのはノエルだろ」


 ノエルはしばらく盾と俺の顔を交互に見ていた。それから、両手で、そうっと受けとった。


「……はい」


 小さくうなずいたノエルの目から、一粒だけ、涙がこぼれた。




第14話 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。