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限界突破の魔導エンチャント無双~最底辺の解体屋、虹色の神装備を拾い育てる~  作者: みぎみみ


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第11話 初めてのロスト


 三人で迷宮に潜るようになって、二週間がたった。


 ノエルが前で盾を構え、俺が横から弱点を突き、ルゥが後ろから石を投げて気を引く。ゴブリンの群れも三人なら怖くなかった。第四層まで足を伸ばせるようになって、稼ぎも倍以上に増えた。


 そして夜は工房の屋根裏で俺は実験をつづけていた。


 ルゥの集めたボロの中から、まだ使えそうな鉄の装備を選んで強化する。+3までは必ず成功する。問題はその先だ。


 +4と+5は失敗しても一つ下がるだけで消えはしない。だから、どんどん試せる。試して、記録する。なじみの星の数、ひずみの星の数、成功したか、失敗したか。


 紙の切れはしはもう二十枚をこえていた。


 記録を並べてみると、はっきりとした傾向が見えてきた。


 ・ひずみが★0のとき、+4は、十四回やって十二回成功

 ・ひずみが★3のとき、+4は、十回やって三回しか成功しない

 ・なじみが★3以上の装備は、なじみ★0の装備より、あきらかに成功が多い


 公式の表では+4の成功率は七十パーセント。でも、ひずみのない装備なら、八十五パーセントくらいまで上がる。反対に、ひずみが三つもあれば、三十パーセントまで下がる。


 たぶん、あの表の数字は「平均」なんだ。みんながひずみのことを知らずに続けて強化したり、冷えてから強化したり、ごちゃまぜにやった結果の平均。


 ためしにこんなふうに考えてみた。


 なじみの星一つにつき、プラス三パーセントくらい。


 ひずみの星一つにつき、マイナス十パーセントくらい。


 完ぺきじゃない。でも、記録とだいたい合っていた。


 そして今夜、俺は+6を試すことにした。


 使うのは初めて強化したあの鉄の小盾だ。この二週間、迷宮で左手に持って使ってきた。なじみは★2。今は+5。ひずみは一晩置いたから★0。


 公式の表なら、+6の成功率は五十パーセント。失敗すれば、ロストだ。


 俺の計算だと、五十に、なじみの六を足して、五十六パーセント。


 半分より、ちょっとだけ上。


 鉄の小盾なんて、ボロ装備の一つだ。失くしてもルゥがまた拾ってきてくれる。だから、試すなら、今のうちだ。+6で失敗したらどうなるのか。ロストというのが、本当はどういうものなのか。それを、自分の目で見ておきたかった。


 精錬石を小盾に当てた。


 一瞬、光った。


 ――ピシッ。


 乾いた音がした。


 小盾の真ん中から、白いひびが走った。ひびはまるで木の枝が伸びるみたいにあっという間に盾ぜんたいに広がった。そして、盾のふちから、さらさらと崩れはじめた。


 灰だった。


 白っぽい灰が指のあいだからこぼれていく。持ち手の革ひもだけが、しばらく手の中に残って、それも最後には灰になった。


 あとには、何も残らなかった。


 作業台の上にひとにぎりの灰が、小さな山になっているだけだった。


「…………」


 しばらく、声が出なかった。


 鉄の小盾だ。ルゥのボロの一つだ。失くしても別にかまわない。そう思っていた。


 でも、この二週間、ゴブリンのナイフを何度もこの盾で受け止めた。第三層で横から飛んできた矢をぎりぎりではじいたこともあった。持ち手の革ひもは、俺の手の形にへこんでいた。


 それが一瞬で灰になった。


 胸の奥がすうっと冷たくなった。


「……これが、ロストか」


 ノエルの話を思い出した。父親の形見の剣が、手の中で灰になって、こぼれていった。


 ボロの小盾でさえ、こんな気持ちになる。父親の剣だったら。一年たっても自分の盾に+1すらできなくなるのは当たり前だと思った。


 四十四パーセントは、ちゃんと、起きることがある。


 確率っていうのはそういうものだ。わかっていたはずなのに手の中で灰になるまで本当にはわかっていなかった。


 灰を捨てようとして、手を伸ばしたときだった。


 作業台の上に置いていたナナシが、かたかたと、小さくふるえだした。


「……え?」


 灰の山がふわりと浮き上がった。


 まるで風に吹かれたみたいに白い灰が、細い帯になって宙を舞う。その帯はくるくると渦を巻きながら、ナナシの刃のほうへ吸い寄せられていった。


 錆びた刃の表面に灰がすうっと吸い込まれていく。


 最後のひとつぶまで吸い込むと、ナナシはぴたりと、ふるえるのをやめた。


 そして、刃の根元のあたりから、錆が一枚、ぱらりとはがれ落ちた。


 はがれたところだけ、刃がのぞいていた。


 ほんの爪の先くらいの小さな部分。でも、そこは錆びていなかった。鉄の色でも銀の色でもない。見る角度によって、青にも緑にも見える、ふしぎな色だった。


〔??? 名無しの短剣 +0〕

 限界 ――


 頭の中の文字は変わらなかった。


 でも、刃の奥に隠れている光の線が、ほんの少しだけ、見えやすくなった気がした。


「お前……灰を食ったのか?」


 ナナシはもちろん何も答えない。


 ガンツさんの言葉を思い出した。錆に見えるが錆じゃない。何かで封じてある。


 ロストした装備の灰を吸って、封じが一枚、はがれた。


 だとしたら、この短剣は、失われた装備を――。


 俺ははがれた錆のかけらを拾い上げて、紙の切れはしといっしょに袋にしまった。そして、新しい紙に今夜のことを書きつけた。


 ・鉄の小盾 +5→+6 失敗 ロスト(なじみ★2、ひずみ★0、予想五十六パーセント)

 ・灰を、ナナシが吸った。錆が一枚はがれた


 書き終えてから、しばらくのあいだ、はがれた部分のふしぎな色をながめていた。


 窓の外で迷宮のまわりの明かりが、一つ、また一つと消えていった。




第11話 了

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