第10話 三人のパーティ
ノエルの足が治るまでの三日間、俺は一人で第一層と第二層を回った。
夕方にはルゥと会ってボロを買い取り、工房の屋根裏で解体する。ばらした鉄はガンツさんに渡して、欠片は袋にためていく。馬小屋代がいらなくなったぶん、お金のたまり方がぐんと速くなった。
四日目の朝、ノエルが工房にやってきた。
「おかげさまですっかり治りました」
ノエルは足をとんとんと鳴らしてみせた。包帯もとれている。
ちょうどそこへ、ルゥが麻袋をかついでやってきた。朝のうちに第一層で拾ったぶんを届けに来てくれたのだ。
「カイ兄、おはよ! ……あれ?」
ルゥはノエルを見て、ぴたっと止まった。尻尾がぴんと立つ。
「だ、だれ?」
「ノエル。この前、迷宮で知り合ったんだ。ノエル、この子がルゥ。俺にボロを売ってくれてる」
「はじめまして、ルゥちゃん。ノエル・ヴァルトです」
ノエルがしゃがんでルゥと目の高さを合わせて笑いかけた。ルゥはしばらくじっとノエルを見ていたけど、やがて鼻をひくひくさせた。
「……お姉ちゃん、鉄と、パンのにおいがする」
「えっ? あ、朝ごはんにパンを食べてきたから……」
「いいにおい」
ルゥの尻尾がゆらゆらゆれはじめた。どうやら、合格らしい。
三人で工房の作業台を囲んで俺は切り出した。
「二人に相談がある。三人で、パーティを組まないか」
ノエルとルゥが顔を見合わせた。
「俺は魔物の弱点は見えるけど、打たれ弱い。レベルは9になったけど、守りはまだ8しかないんだ。正面からぶつかったら、たぶんすぐ死ぬ。ノエルは盾で攻撃を受け止められる。ルゥは鼻がきくし、足も速い。三人で組めば、第五層くらいまでなら、十分戦えると思う」
「わたしは、賛成したいです。でも……」
ノエルが少し目をふせた。
「わたしは、エンチャントもしていない、鉄の盾しか持っていません。足手まといになるかもしれません」
「その盾、ちょっと見せてもらっていい?」
ノエルが傷だらけの鉄の盾を作業台に置いた。
〔鉄の盾 +0〕
なじみ ★★★★☆
ひずみ ☆☆☆☆☆
「この盾、すごく使い込まれてる。何百回も攻撃を受け止めてきた盾だ。俺の目には、そういうのが見える」
「見える……?」
「装備の中の線が、使い込むほどつやつやになるんだ。俺はそれを『なじみ』って呼んでる。で、ここからは俺の予想なんだけど」
俺は紙の切れはしを取り出した。この十日あまり、ルゥのボロを解体しながら、こっそり強化も試してきた。鉄の小手、鉄のすね当て、鉄の兜。なじみの多いもの少ないもの。ひずみが残っているとき、冷えているとき。
「なじみが多い装備ほど、強化が成功しやすい。それと、強化したあとの装備は熱を持つ。『ひずみ』って呼んでるんだけど、ひずみが残ってるうちに続けて強化すると、失敗しやすい」
ノエルの顔色がさっと変わった。
「続けて、強化すると……」
「まだ、はっきりとは言えない。試した数が少なすぎるから。でも、そういう傾向はある」
ノエルは何かを言いかけて、口を閉じた。一年前のことを思い出しているんだと思う。同じ日に四回続けて強化した、父親の剣のことを。
俺はあわてて続けた。
「と、とにかく。ノエルの盾はなじみが星四つもある。強化すれば、ちゃんと強くなる。+3までなら失敗はしない。やらせてもらえないか」
ノエルはしばらく黙って盾を見つめていた。
指がふるえていた。
「……+3までなら」
小さな声だった。
「失敗しないんですよね」
「しない。表のとおりなら、百パーセント。俺も、十回以上試して、一度も失敗してない」
「……お願い、します」
ノエルはぎゅっと目をつぶった。
俺は精錬石を一つ、盾の真ん中に当てた。
パチン。
盾がふわりと光った。
〔鉄の盾 +1〕
二つ目。パチン。
三つ目。パチン。
〔鉄の盾 +3〕
なじみ ★★★★☆
ひずみ ★★★☆☆
「終わったよ」
ノエルはそうっと片目を開けた。それから、両目を開けて、盾を見た。
傷だらけの表面が、うっすらと銀色の光をまとっていた。持ち上げたノエルが、あっと声を上げる。
「軽い……それになんだか、手に吸いつくみたいです」
「なじみが多いから、強化の効きもいいんだと思う」
ノエルは盾を胸に抱えるようにして、しばらく何も言わなかった。
「……ありがとうございます、カイさん」
声がちょっとだけふるえていた。
「一年ぶりです。自分の装備が光るのを見たの」
横で見ていたルゥが、ぱちぱちと手をたたいた。
「すごーい! ピカってした! ねえねえ、ルゥも仲間に入れてくれるの?」
「もちろん。ルゥには、迷宮の中で欠片のにおいを探してほしい。それと、ボロを運ぶ係。分け前は稼ぎを三人で等分」
「とうぶん?」
「三つに、同じだけ分けるってこと」
「ええっ、そんなにもらえるの!? トトとミミに毎日パン買ってあげられる!」
「ルゥ、レベルは?」
「えっとね……2!」
前にギルドの水晶板ではかってもらったらしい。ルゥはなぜかえへんと胸を張った。魔物とはほとんど戦わずに拾うだけだったから、レベルはほとんど上がっていないらしい。
「だいじょうぶ。レベルはあとからいくらでも上がる」
ルゥがぴょんぴょん飛びはねた。
奥の炉のほうでガンツさんがハンマーを止めて、こっちを見ていた。何も言わなかったけど、ひげの下の口もとが、ちょっとだけゆるんでいた気がした。
こうして、俺たちは三人のパーティになった。
Fランクの解体屋と、Eランクの盾剣士と、ランクなしの拾い屋。
ギルドでパーティ登録をすると、マリーさんは目をぱちくりさせた。
「パーティ名は、どうされますか?」
「……あとで考えます」
三人で顔を見合わせて、なんとなく笑った。
第10話 了




