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その七
三原監督にたのまれたことを山城さんに告げる。
「かまわないですけど、でもラブ・ウィンクスのポスターなんて貼ってあったかなぁ」
山城さんが懸念していたとおり、そのお宅にはラブ・ウィンクスのポスターもキャンディー隊のポスターも貼られていなかった。
どうも三原さんが観たものは、喫茶店でウエイトレスにオーダーの拒否をしている「マイボトルキャンペーン」のポスターだったらしい。見間違いだったのである。思い込みが強すぎると、こうなるのである。
山城さんは、ぼくが先日お願いした田上雪子ちゃんのレコードを一枚探し出してくれていた。雪子ちゃんのレコードは、ラブ・ウィンクスよりもさらに入手が困難らしい。さっそく山城邸をたずねる。
その曲をCD-Rに焼いてくれた山城さんは、レコードジャケットに記されていた田上さんのプロフィールも用済みの台本の裏にサインペンで書き出してくれていた。
「ん! ねえ山城さん、ちょちょちょ、ちょっと原本のほう、確認させてもらっていいですか」
それによると、田上雪子ちゃんの出身地は森中市長がお詫び行脚する予定になっている、あの○○村ということになっていた。
山城さんのパソコンを借りて、雪子ちゃんと、あとついでにラブ・ウィンクスのことを調べる。しかし、
「ねえ山城さん、田上雪子で検索してるのに、なんで畑中葉子関連ばかり出てくるんですかね?」
けっきょくたいした情報は得られなかった。
「じゃあ『トビッキリ奉仕センタープレミアムに』問い合わせてみたら、どうですか?」
なんでもこのトビッキリ奉仕センタープレミアムなるものは、テレビ局の一部のお偉いさんしかその電話番号を知らないほど特別なサービスらしい。
「トビッキリって、エウロパの天然水の、あのトビッキリファミリーのことですか?」
「そうですよ。だけどそんな神経質にならなくても平気ですよ。いってみれば、ただお問い合わせセンターのサブダイヤルみたいなところに電話するだけなんだから」
山城さんに手渡された番号に電話をかけてみると、
「エウロパの天然水にかんするお問い合わせは①を、その他のお問い合わせは③を」
というようなガイダンスがまず流れてきた。
「うーん、③かな? 田上雪子ちゃんにかんするお問い合わせは指定されてないから、これ、③を押しちゃって、いいんですよね、山城さん」
などとビクビクしながらすすんでいく。
「お繋ぎいたします」
やがてコール音が数回鳴る。
「もしもし♪」
生身の女性が電話に出た。いよいよである。
「わたくし川上と申します」
「田上雪子さんは、ラブ・ウィンクスより入手困難なんですよ。ですから、パソコンであれしても、なかなかわからなくてですね」
といきなりいってしまった。色気のある声音だったので、あせったのである。
川上さんは、お調べするのにお時間がかかってしまうかもしれませんので、いったんお電話をお切りになって、お待ちいただけませんか、ときいてきた。
「お願いします」
ぼくたちはハマグリの寿司を肴に一杯やりつつ待つ。
一時間後、川上さんから折り返しの電話がかかってきた。
川上さんはご自身のいわゆる〝ハム友〟さんから情報を入手していた。そのハム友情報は、
「田上さんは『スター降臨』という番組でグランドチャンピオンになったのちに『あぜ道をゆく花嫁』でレコードデビューします。しかしこの曲はまったく売れなかったようですね。その後もずっと低迷していたのですが、六曲目のシングル『後から前から』がようやくヒットします。つづく『もっと動いて』も人びとにたいへんな衝撃をあたえたようです」
という感じで畑中葉子の経歴と混同していた。それでも、
「ラブ・ウィンクスがメンバーチェンジをするさい、水面下では田上雪子さんがその第一候補になっていたらしいのですが、よりマイナー感を強めるだけでは、というレコード会社側の意見もあって、けっきょく立ち消えになっています。それから『気分はピンク・シャワー』の発表直後にマネージャーとの同棲が発覚してますね。沼口探険隊の一員だったという説もありますが、わたしのハム友がいうには、こちらはガセネタだということです」
と本当におどろくような情報もいくつかあった。
「ちなみに、その、ハム友っていうのは、やっぱりアマチュア無線とかの関係なんですかね?」
川上さんはこの質問にも親切にこたえてくれた。
なんでもハム友というのは、一種のヘンタイ仲間なのだという。
「網タイツをはくと、太股がちょっとハムみたいになるでしょ。だからそういう隠語をつかってるんです」
「寿司隠語は知ってますか?」
「はい、お寿司の隠語も知ってますよ。あらっ、いまハマグリのお寿司を食べてたんですか。うんうん、船倉様がほんとうに食べたいのは――まあイヤだわ♪」




