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その四十九
パンティーの供養からもどる。
数日は何事もなく過ぎた。
外付けハードディスクからみつけてきた「沼口探検隊がゆく」のイカ宇宙人の回を観ていると、ダルトンから電話がかかってきた。
「親父からきいたんだけどさ、ホントかよ」
「うん……」
どうやらガトーショコラ帝国のほうにも、わたくしピーチパイドンと妻が離婚を前提に現在別居している、ということは伝わっているようだ。
「親父はパイドンの戦意が喪失していれば、ピーチタルトはいよいよおしまいだ、みたいにいってるぜ」
「親父様は誰からきいたんだろ?」
「モンブランの皇帝から」
「やっぱり」
「川上さんの件、ありがと」
「いえいえ」
さっそく范礼一さんに報告する。
「そうですか――いよいよ決戦ですね」
「そうですね」
とりあえず、宮廷で作戦会議を開くことにする。
中西さんに留守番をたのんだのちに〈うなぎ食堂〉経由でピーチタルトへおもむく。
宮廷にはジャクソン皇帝、皇帝夫人、ミニスター、そしてやり手の藤吉郎さんがぼくを待っていた。〈ハンバートハンバーガー〉宮廷店のバニラシェイクをチューチューやりつつ会議の席に着く。
皇帝夫人が、
「ねえパイドンくん、わたしとうとうモンブランに旅行に行くの。お土産なにがいい?」
といきなりきいてきた。マリリン様は人柱になる役を自ら買って出たのである。本人は遊び感覚なのだ。
とりあえず、ミニスターに確認してみる。
「もちろん流してありますよ」
つまりこの旅行の件は范礼一さんを通して西施子さんの耳にもすでに入っているのである。西施子さんはモンブランサイドにこの情報を流すだろう。
ダルトンの話だと、スパイダーマンのスープカップ通称〝ヒラグモ〟をこちらが差し出せば、ガトーショコラはかつてのように牛肉も豚肉も供給してくれるらしい。
「だったら、あげちまったらどうですか? 皇帝」
と藤吉郎さんが〈ハンバートハンバーガー〉のフライド・ポテトをむしゃむしゃやりつついった。しかし皇帝は、
「それがさ、じつはあれ、いまはモンブランがもってるんだ……」
としょんぼりしているのだった。
ジャクソン皇帝は最近モンブランの皇帝と賭け事をやって〝ヒラグモ〟を取られてしまったのだ。
ちなみに皇帝は「おニャン子カードゲーム」なるもので負けてしまったようである。
「でも、最初のほうは勝ってたんだぜ……」
ジャクソン様よりそのときの模様をお聞きする。
どうやらジャクソン様は最後に会員ナンバー三十二番のフォーカードを相手に出されて負けてしまったようだ。逆転負けである。
「おれのほうは会員ナンバー十九番のワンペアだったからさ……」
「十九番だったら、ワンペアでも、こっちのほうが強いですよ!」
ぼくは勝機を見出した。
「え、そうなの船倉くん?」
「はい! 十九番ですよね?」
「うん」
「十九番はおニャン子で最強ですよ。一枚あれば無敵ですよ。これはぜったいおれは譲れませんね」
「ホントかい!」
「あちらに非がありますよ。判定ミスですよ。モンブランのオヤジにヒラグモ返してもらいましょう」
「大義があるのなら、動けますね」
「完璧にありますよ、ミニスター。なにしろ十九番ですよ! どれだけ小柄だったか!」
通称〝ヒラグモ〟はほんらいこちらのものである。とうぜん返してもらうべきである。あるいは強引にでも取り返すべきである。
そんなわけでわれわれは、そういう方向で動くことにした。
西施子さんはふ菓子国での例の鉢合わせ事件以降ぼくにひんぱんに電話をくれる。昨晩も、
「ちゃんと食事してますか?」
「ええ……」
「またいい子みつければいいじゃないですか?」
「いますかね……」
「いるわよ。なんでもモンブランのほうには、小柄系女子が大勢いるそうよ」
と元気づけてくれたのである。
この会議中にも一度、ぼくのケータイがビービー振動していた。みんなに「静かにしているように」というゼスチャーをしたのちに電話に出る
「もっと景気のいいところで雇ってくれないかなぁ――ティラミスでもモンブランでも、どこでもいいけど」
とぼくはいってみた。ちょっと〝かま〟をかけてみたのである。
「ハローワークで見たんですけど、モンブラン帝国は有能な軍師を欲しがってるみたいですよ」
「ええええええええええええ、ホントですかぁぁぁぁぁ」
しめしめである。
まちがいなく西施子さんはモンブラン帝国のスパイだ。




