48
その四十八
ふ菓子国にある〈笠々寺〉におもむくのは楽である。
K市にある○○神社のお賽銭箱に四百五十円分の収入証紙を入れて、
「だるまさんが転んだ」
と振り向けばそこはもう〈笠々寺〉なのである。
「すごいね、中西さん」
「いちおう添乗員だもん」
通りかかった見習い風の人に、
「あのう、予約させていただいております、中西と船倉ですが――」
と声をかける。
その見習い風の人はすぐ住職を呼んできてくれた。
「あっ、遠いところ、お疲れ様でございます」
ぼちぼち愛想のよかった住職は〝お焚き上げ〟のやり方をまず説明してくれた。
「ほおほお――小さい声でもいいんですか?」
「気持ちがこもっていればいいですよ」
ぼちぼち愛想のよかった住職によると、燃え盛っている炎に処分するものを投入するさいにはいっぺんに投げ込むのではなく、ひとつひとつに、
「バイビー」
と声をかけながら燃やさなければならないらしい。
とりあえずぼくは茶色なのかグレーなのか、とにかくなんともいえない色で角度も中途半端なパンティーを最初に投げ込むことにする。
「バイビー」
中途半端なそのパンティーを無事供養したぼくは、つぎにベージュのやつを、
「バイビー」
と炎のなかへ放り込む。
となりでパンティーの箱をもってくれていた中西さんは、
「はい、たまきさん」
と三枚目を渡してきた。
ひらひら付きのネイビーのやつであった。角度はエグい。
これをすぐ供養してしまうのは、なんとなく惜しいような気もしてきた。いったん中西さんに返す。
燃え盛る炎のまわりには、たくさんの方々がそれぞれ供養するものに、
「バイビー」
と声をかけていた。
ちなみに先ほどの住職の説明だと、供養する人のことは「バイビープレイヤー」とお呼びするそうである。
まわりを見てみると、そのバイビープレイヤーのなかには着物だとか草履だとかを供養している人がいた。それから手紙類だとか人形系だとかをバイビーしている人もちらほら見受けられる。
ぼちぼち愛想のよい住職はまたべつの人にお焚き上げの説明をしていた。
その二人組の女子はお二人ともいわゆるバイビープレイヤーとしておのおの持参してきたものを供養するみたいだ。
説明を聞き終え、ぼくのとなりで、
「バイビー」
とぬいぐるみを炎のなかに投げ込みはじめた一人の女子は西施子さんであった。
なるほど西施子さんはクレヨンしんちゃんやドラえもんのグッズを集めすぎて処分に困っていた。だからはるばるふ菓子国までおもむいてきたのだろう。
「西さん」
「あら、パイドンさん」
「供養ですか?」
「はい」
「ずいぶんたくさん、ぬいぐるみもってるんですね」
「ええ……」
西施子さんは菊池さんに誘われてこのお焚き上げに参加した。
いっしょに来ていたその菊池さんは処分に困っていた例のヒポクラテス人形を、
「バイビー」
と助走をつけてかなり遠くまで投げ込んでいた。
「あれ? 船倉さん」
旦那に気がついた菊池さんは、ぼくがつぎに投げ入れようとしていた星模様のパンティーやそれを手渡していた中西さんを交互に見ると、とつぜん大声で泣き出した。
二人のお守り役を頼まれたらしい藤吉郎さんの家臣の方に誘導されて、どこかにさがっていく。
西施子さんも箱のパンティー群や中西さんを凝視していた。
「パイドンさん、これはもう、言い逃れもできませんね……」
ぼくは放心状態という趣で残りのパンティーを〝バイビー〟する。
西施子さんは、
「ちょっと菊池さんのこと見てきましょうか?」
と声をかけてきてくれた。
「お願いします」
しばらくすると西施子さんはもどってきた。
「もう会いたくないそうです。離婚するって、いってます」




