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その四十四
「ごめんください。ごめんなさい」
と〈高まつ〉に入る。あさ美お姉さんはもうあがっていた。
ちびっちゃいコップをカチンと合わせたのちに、
「うん、うまい」
とまずはビールを飲む。
あさ美お姉さんはカバンから、
「これ、まえに約束したでしょ」
とご自身のいわゆる生写真を出してきた。
この生写真では、ひらひらのお面みたいなやつを取っ払っていた。確かに子どものころ見ていた若いお姉さんである。かなりかわいい。
写真はもう一枚あった。そちらのほうはお面ではなく、パンティーのほうを取っ払っていた。
「ね! 超かわいいでしょ」
パンティーを取っ払っている写真はあさ美お姉さんではない。先ほどおすすめしてきた例の子である。
そのマフィンは、なるほどたしかにかわいいといえば、かわいかった。
とはいえ、局部がこれだけドアップのお写真のみで危険な賭けに出るのは、あまりにも無謀である。そんなわけで今回の交渉は、
「だって、顔がわからないと……」
「マフィンそれ自体だけが好きなんだと思ってたわ、お姉さんは」
という感じでうやむやのまま、なんとなくお流れとなった。
「顔がわからないって、目の前にいるじゃない」
「ん? いまなんていったんですか?」
「なんでもない。ひとり言」
この料亭で去年の暮れごろからはたらいている子が、
「きょうはイカのお刺し身のおいしいのがありますよ」
と燗酒をたのんだときにおすすめしてきた。
「じゃあ、その刺し身もお願いします」
むかし「沼口探検隊がゆく」で、沼口隊長がイカみたいな宇宙人にさらわれた回があったことをふと思いだす。
あさ美お姉さんにそれを話すと、
「そういえば、沼口隊長、このあいだわたしの実家にたずねてきたみたいなの」
とイカの刺し身を食べながらいってきた。
なんでも隊長は、わたくし船倉たまきに、
「モンブランに警戒してください」
という伝言を残してまたどこかに去っていったらしい。
「相当くたくただったみたいよ。着ているものもヨレヨレだったんだって」
「オーバーだからな。ピクつき方も」
「心当たりある? モンブランに警戒って」
「ないこともないですけど……」
ぼくはモンブランを食べ過ぎると太るから要警戒ですよ、とてきとうにごまかす。
沼口隊長は昨年の暮れにも〈高まつ〉の庭に突如あらわれてシュークリーム帝国とシューアイス帝国とのいくさを想起させる情報をこちらに提供していた。
そして今回もモンブラン黒幕説を連想させる伝言をなぜかあさ美お姉さんの実家を経由してよこしてきている。
サボっていると決めつけていたけれど、もしかしたら隊長はじっさいにあちこちを探検しているのかもしれない。
あさ美お姉さんに、当時のことをうかがってみる。
「やっぱりあの探検もテレビ局のセットで撮影してたんですか?」
「うん、いい質問ね。あのね、ほとんどの回はテレビ局のセットとかエキストラの方を雇って探検してたんだけど、あのときはお姉さんの記憶ではそうじゃないの」
「ホントに探検したってことですか?」
「そう。いまでいったら〝ビンビン〟って、いうんだっけ?」
「〝ガチ〟じゃないですか?」
「あっ、そうそう〝ガチ〟だ。ガチで探検したのよ」
ガチということは、あのイカみたいな宇宙人も本物だったのだろうか……。
ぼくは深く考えるのはやめて〝超かわいい〟生写真をまたぞろ凝視した。




