42
その四十二
きょうの午後はピーチタルトの住まいで范礼一さんと詰めた協議をした。ミニスターは六時過ぎに帰っていった。
協議中に山城さんからメールが来ていた。
「川上さんに、こっちに助っ人に来るよう、いってくださいよぉ」
と記されていた。
とりあえず川上さんに電話してみる。
「あら、しばらくですね、船倉さん」
「ごぶさたしてます」
川上さんはぼくに、
「もう晩酌はじめてるんでしょ」
といってきた。だからぼくは、
「きょうはマフィンをたくさん食べちゃったんで、まだお腹すいてないんですよ」
と伝える。
じっさい菊池さんが焼いてくれたマフィンをぼくは協議をしながら五、六個食べている。菊池さんが食べるたびに喜んでくれるからである。
説明するのが面倒なので、川上さんには菊池さんのことやピーチタルト帝国のことはおしえていない。だからかもしれないが、
「そんなにわたしのマフィンが食べたいんだぁ……」
と川上さんは感慨にふけているのだった。
「船倉さんて、ホントにいつもイヤらしいこと想像してるんですね」
「誤解ですよ」
しかし胸に手を合わせてしばしかんがえてみると、菊池さんが焼いてくれたマフィンを食べつつも川上さんのいわゆるマフィンを想像したり、あるいは具体的に食べたいと思ったりしていた可能性も否定できないな、という気もしてきた。
そんなわけでこのたびもぼくは想像していたことを大筋で認めたのである。
山城さんのお願いを伝えたのちに電話を切る。ちなみに山城さんがまたぞろ美智恵さんにおっつけられている雑用は遺品の処分である。
処分といえば范礼一さんの恋人の西施子さんは「クレヨンしんちゃん」のぬいぐるみを集めすぎてしまって処分に困っている。菊池さんは西施子さんと交流があるので、そんなことを知っているのだ。
菊池さん自身も、
「わたしも『ヒポクラテス人形』処分したいな……」
とこぼしていた。
まあ確かに捨てられないものというのはある。ぼくも古いエロ雑誌はシュレッダーで粉砕できたけれども守衛をやっていたとき患者様にもらった水晶玉だけはどうしても処分できなかった。なんでも一生懸命練習すれば、占いだかまじないだかに使えるようなのである。
そういえば、すみれクンは最近、なぜかリコーダーを一生懸命練習している。
すみれクンとは今度研究会をおこなう。研究会といってもじっさいはほとんど話をきいてあげるだけである。
メロコトン博士の後継者に任命されたすみれクンは、博士の論文からいくつか発見をしているらしいのだ。
すみれクンは博士が他界されたあと、それまで以上に研究に没頭している。
前回の研究会のさい、すみれクンは例の「気分はピンク・シャワー」のところを、
「もしかしたら越美晴の『五月の風』を四回うたえば、いいのかもしれない」
とちょっとだけ近い(?)ことを資料からあぶり出していた。
「あっ、そうだ、ねぇコーチ、博士の形見、届きましたか?」
「うん」
「お母さん、ベルトまで、コーチのところに持って行っちゃってませんか?」
「ベルトももらったよ。やたらデカいやつ」
「あれ、宇野さんという方に分ける形見なんです――お母さん、やっぱり間違えてたんだわ」
「宇野さんて誰だろね」
「リハビリ施設に行くとき、いつも送迎してくれた人みたいですよ」




