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その四
カツカレー会議の翌日は、早朝から姪っ子に拘束されていた。
「なんだ、そのDSボーイってのは? お父さん、ファミコンもってるだろ?」
「買ってくれるって、いったじゃん」
しかたなくぼくは大型ショッピングモール〈がぶりえる、がぶりえる!〉に姪を連れて行く。
モールの特設会場では、美の伝道師が「エウロパの天然水」をまたぞろ宣伝していた。観衆も熱狂している。
姪の智美はDSボーイのソフトを買ってあげると、すぐもよりのベンチにすわって、
「わっ、いきなりミサイルかよ」
とゲームをはじめていた。
ここに来るまでは、そのDSボーイとかいうもののいわゆる本体も買わなくてはならないと早合点していた。しかしソフトだけでよかったのである。たいへん得した気分であった。
そんなわけで、
「じゃあ、こんなところにすわっててもきまりがわるいから、ハンバーガー屋みたいなところに行こうぜ。なんでも、おごってやるよ」
と姪にさらに気前のいいところをみせつけてやることにする。
小学二年生の智美は、もう友だちとそんな話もしているのか、子どもがよろこぶようなファストフード店ではなく、奈良時代創業という説もある〈うなぎ食堂〉に行きたいとリクエストしてきた。
ちなみにこの食堂は、とくにうなぎ料理を売りにしているわけではなく、店のつくりが奥にずうっと長いので、そう名付けられたらしい。
「智美、そういうのを、うなぎの寝床っていうんだよ」
「知ってる。先生に教わった。わっ、いきなりかよ」
巨大ショッピングモールに実質ぐるりをかこまれているので、まったく日があたらない店の出入口を、
「ごめんください。ごめんなさい」
と開ける。
「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらです。せまいですから気をつけてくださいね」
と誘導され、ひたすらふすまを開け閉めする。つづきの三畳間には、本を読んだり、パソコンをパタパタやったりしている客がちらほらいた。ぼくはその一人ひとりにいちおう、
「すいませーん。またぎまーす」
などと声をかけながら、さらに奥にすすんだ。
「はい、こちらです。ごゆっくりどうぞ」
と座布団を用意してくれた三畳間には、懐中電灯の光をあてながら欄間のあたりをじっと凝視している客がいた。ぼくは、
「でも……」
と店主に口もとをわなわなさせて訴える。しかしこの懐中電灯の旦那は、この店の守衛さんだったのだ。ここのお代を払ってくれないので、しぶしぶ雇っているという。
「はい、チョコレートパフェふたつですね」
注文をきくと、店主はマメカラの使い方をききにきたお客といっしょにまた出入口のほうへもどっていった。
巨大ショッピングモールの建設のさいにも頑として立ち退かなかった〈うなぎ食堂〉は、一時期、幽霊だか宇宙人だかが出るという噂が高じて、あの『Kの森ワイドショー』でも大々的に取り上げられた。
智美がいうには、
「雅子ちゃんちは家族でここに来て、みんな宇宙人を見たんだって。あと朝礼のとき、校長先生も妖怪みたいなのを見たって、いってた」
と学校でもかなり話題になっていたようである。それで守衛を置いたのかもしれない。
ぼくのチョコレートパフェを見て、
「ちょっと待ってください! それは、マジックサクランボかもしれない!」
と勝手に毒味をしてくれていた守衛さんは、
「うん、だいじょうぶ――これはふつうのサクランボだ」
とつぶやくと、その種を自身の胸ポケットに、
「これ、わたしが食べちゃったものだから、いちおうマナーで……」
としまっていた。
やたらもったいぶってさわっていた胸ポケットのワッペンには「Kの森テレビ」とか「沼口探検隊」などと、なにげに記されてある。
「あっ!」
ぼくは思いだした。
「マジックサクランボって、むかし沼口探検隊が探検したとき、隊員のひとりがうっかり食べてしまったやつですよね!」
「そっ、そうです! お客さん、おぼえてくれてるんですかぁ」
「よく観てたんですよ。兄貴のやつはファミコンにうつつを抜かしてたんであれですけど、姉とぼくは熱中してたんです」
かつてはKの森テレビの看板番組だった『沼口探検隊がゆく』は、いまかんがえるとけっこう短命だったが、それでもかのウーパールーパーやホタテマンをも陵駕するほどの人気を博していた。
沼口探検隊の番組が打ち切りになってしまったのは、以前から取り沙汰されていたいわゆるやらせの有無をめぐって一隊員の内縁の妻が新聞社に告発したためだといわれている。
じっさい沼口隊長もマーシシマイの捕獲と悪食怪獣たべチッチの足跡にかんしては事実上それをやらせと認める発言も当時していたのである。
騒動を沈静化させるためか、
「南北ヨーロッパに留学して、探検の勉強をしてきます」
と沼口隊長は旅立っていった。われわれは探検隊を忘れていった。そして長い歳月がながれて隊長は現在〈うなぎ食堂〉の守衛をされているのである。
智美は、ゲームをしながら、チョコパフェを黙々と食べていた。
沼口隊長はまたぞろ懐中電灯の光をぼくのチョコレートパフェに当てている。
ぼくは物欲しそうにしていた沼口隊長に、
「あの、こちらも調べてもらって――」
と自分のチョコレートパフェを分けてあげた。
案の定隊長はチョコパフェを悪食怪獣たべチッチのように猛烈な勢いでたいらげる。
「うん、毒は入ってないようだな。ん! なんだ、これは!」
「隊長、これは店のおしながきです」




