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その三十六
「ありがとうございました」
と畳屋さんを見送ったのちに、すみれクンのお母さまに連絡する。お母さまはすぐこちらに来てくれた。
ぼくはカセットを差し込んだままのファミコン互換機とインスタントコーヒーの空き瓶に入っている銭形平次の投げつけ用一文銭をまず渡す。
それから、
「ノーパンでおられることは重々承知しましたので、こちらのほうも、どうか――」
と夏におあずかりしたパンティーの詰め合わせの箱もお返しした。
「センセ、これは受け取れません」
だがしかし今回もお母さまは詰め合わせの受け取りを固く拒んでいた。このやりとりは、これまで何度もおこなわれているのである。
エロもの関連をほぼ処分したいま、最後に残っている〝菊池さんにみられて困るもの〟は、こちらの味の素のギフト用の箱だけなのである。
前回詰め合わせの受け取りを拒否したとき、お母さまは、
「わたしが捧げたパンティーは処分していただいて結構です。ですが、わたしがそれを受け取ることは倫理上できません」
といっていた。
だから先日大掛かりな断捨離を敢行したさい、ぼくはおもいきって捨ててしまおうかとも思ったのである。
しかしこのいわゆる捧げ物には簡単には処分できない神聖ななにかがあった。マンモスな何かである。
そんなわけで、けっきょくぼくはこのように詰め合わせの箱を現在も所有しているのである。
お寺だとか神社みたいなところで〝お焚き上げ〟のようなことをしてもらえば、とりあえずおなじ処分でも体裁がよい。もはやこのパンティーにかんしては供養してもらう道しか残されていないのかもしれない。
まあそれはともかく、すみれクンのお母さまによると、娘のすみれクンはこのたび、メロコトン博士の正式な後継者(?)に任命されたらしい。
生涯独身だったメロコトン博士は例の屋敷もすみれクンに託すのだという。
「弁護士みたいな方がこられて、わたしも緊張しました」
「すみれさんがメロコトン博士の研究を引き継ぐわけなんですか」
「ええ、そうなんです」
博士がこれだけすみれクンに信頼を置いているということは、よもやノーパンマッサージだけが要因ではないはずだ。
そういえば、ピーチタルト帝国で生活しはじめたころ、すみれクンと電話でこういう会話を交わしたことがある。
「博士からの伝言です。『気分はピンク・シャワー』をうたう回数に計算ミスがあるそうです」
「おれの勘だけどさぁ、たぶん『気分はピンク・シャワー』自体が間違っているんだよ」
「曲がちがうってこと?」
「うん――やっこさんにいっときな。船倉博士がそういうヒントをくれたって」
おそらくこちらのほうの研究も弟子のすみれクンに任せることにしたのだろう。「気分はピンク・シャワー」ではなく「気分はレッド・シャワー」をうたえば良いのだが、わたくし桃軍師は、これについてはしばらくうっちゃっておくことにする。
メロコトン博士はここのところ体調がわるくてリハビリ施設にも通っていない。すみれクンのお母さまがいうには、それはチューチューアイスの食べ過ぎが原因らしい。
博士はどうもチューチューしにくいチューチューアイスを探していたみたいだ。メロコトンの爺様もまったくのインチキではないようである。
味の素の箱を開けたすみれクンのお母さまは、先生に寄贈した自身のパンティーを箱から出していた。
お母さまはやがて花柄のものすごくはき込んでいるパンティーがないことに気づく。
お母さまは問い詰めてきた。
「いや、そんな使い方はしてないですよ」
「じゃあ、どうしてないの?」




