29
その二十九
前回の調査では、ガトーショコラ帝国にトビッキリうんぬんという会社の存在は確認できなかった。しかしトビッキリの母体は藤吉郎さんの読み通りガトーショコラの巨大企業フェイスメタン社だったのだ。ただK市への進出は完全に諦めていて、トビッキリ法人も近々撤退するらしい。
ぼくが范礼一さんに頼んでいたことはまだ二つほどある。
その一つは本社の人がもっていったファミコンのカセットが何であったか、ということである。
これはもう「ピーピーねえねの冒険島」で間違いないようだ。
ガトーショコラでは「ピーピーねえねの冒険島」は法律により所持を固く禁じられているからである。
「向こうでは、もってるだけで罪なんですか?」
「所持は基本重罪です。国交断絶している国と国の出入国を時空管理局の人間が取り持った場合、電気アンマ二十年の刑なんですけど、『ピーピーねえねの冒険島』の所持も、それとほぼおなじ電気アンマ十八年ですからね」
「電気アンマを十八年も喰らいつづけていたら、どっちみち死んじまいますなぁ。わっはっはっはっはぁ」
もう一つは、おもちゃの硬貨についてである。
すみれクンのお母さまと洗濯機をおもちゃの硬貨で作動させた経験のある菊池さんは現物をみている。
「うん。ぜったい、これだと思う」
だから「銭形平次の変身セット」に入っている投げつけ用一文銭でこちらもほぼ間違いない。
この一文銭はティラミス帝国では、節分の日にナマハゲ然としたやつに投げつける習慣になっている。
范礼一さんは、
「ティラミスとは仲良くやってますからね」
とインスタントコーヒーの空き瓶にその投げつけ用一文銭を満杯に入れてぼくに手渡してくれた。
「すみません。助かります」
「しかし『ピーピーねえねの冒険島』を入手することはほぼ不可能ですね。ガトーショコラ当局なら没収したものをもってるでしょうけど、なにしろいまあそことは国交断絶中ですからね」
「K市にもどって探してみますよ。ウチの兄貴もファミコン好きだったから、もってるかもしれないし」
「パイドンさん、例の地コーラの瓶もお願いしますね。皇帝から電話かかってきたら、もうめっけましたって、いっちゃいますよ」
いま国交断絶しているガトーショコラへピーチタルトの国民が入ったら確実に電気アンマの刑を喰らう。しかもダブルアンマで二十年である。
時空管理局の人も、いくらこちらが接待しても、この件だけは取り合ってくれない。
しかしぼくがピーチタルトを通さず地元経由でガトーショコラにおもむくのであれば問題はないのだ。
とはいえ藤吉郎さんでもK市とガトーショコラの〝繋ぎ〟を受け持っている時空交換手にたいしてまではコネをもっていない。
だから、どうにかして自力で、ガトーショコラに行かなければならないのだ。
ぼくは今度の「雪子さん捜索冬の陣」では川上さんを先陣として起用しようと思っている。
というのは、まず大奥総合病院より有料式洗濯機経由でスカウトされることこそが重要だと、わたくしピーチパイドンはかんがえているからである。
なぜすみれクンのお母さまでなく川上さんを起用するかというと、それはすみれクンのお母さまは世継ぎを産むとなると年齢的に相当厳しいからである。
きっとあちらのスカウトは受胎できるか否かの問題を一番にかんがえているだろう。
このことは川上さんにはすでにざっと伝えてある。
ピーチタルトのことだとかガトーショコラの次期皇帝の世継ぎ問題だとかはとうぜん端折っているので、ぜんぜん辻褄の合わない話になっている。
だから川上さんは、わたくしG=Mが川上さんの下着をただ拝借したいだけだと捉えているようだ。




