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その二十七
帰りによく立ち寄るレンタルビデオ店には「びっくりピーチタルト新記録」のVHSが置いてある。
ぼくはそれを12巻まで鑑賞している。しかし13巻は今日も貸出中だった。残念である。
「いつもすみませんね、旦那」
「仕方ないですよ」
つぎは図書館に寄る。こちらも道すがらにある。
いつものように一時間ばかり資料を閲覧する。
なぜ菊池さんの待つ住まいにまっすぐ帰らないかというと、それはこの図書館に田上雪子さんのファンクラブ会報誌が全巻そろっているからである。
すみれクンのお母さまからのメールによると、三原監督は能瀬慶子の影武者だった田上雪子さんにますます入れ込んでいる(しめしめ)。
だからどうにか田上さんと接触して交渉をおこないたいのである。
田上雪子さんのファンクラブ会報誌は貸出はできず館内のみ閲覧可の資料だった。
だが、とくに問題はない。ここで地道に熟読していけばいいのである。
そんなわけで、いつもの丸テーブルの席にすわる。
「パイドンさん」
「はい」
反射的に顔をあげると、竹膳藤吉郎さんが分厚い図鑑をもちながらお辞儀をしてきた。
「ああ、しばらくです。藤吉郎さん帰ってきたんですか」
「いまさっき戻ってきました。また明日すぐ出向しますけど」
藤吉郎さんはジャクソン皇帝の例の骨董収集の買い付け役のようなことをされている方である。
范礼一さんがいうには、
「わたしが知っているかぎり、藤吉郎殿はピーチタルト一のやり手です」
とのことだった。
たしかに〈吉牛家〉の下働きから骨董省の大臣にまで出世するというのは、たいへんなことなのだろう。
ちなみに菊池さんが集めていた「はまぐりっち」を買い取ったのも藤吉郎さんなのである。宮廷での晩餐会で顔を合わせた二人は、
「あっ! 第三代骨董大臣さんだ」
「あっ! ちっちゃくてかわいい娘だ」
と双方おどろいていた。
「はまぐりっち」はガトーショコラの皇帝も狙っていたらしく、結果的には両国の関係をさらに悪化させてしまった。
「はまぐりっち出せよ」
「嫌だね」
「はまぐりっちのポーチだけでもいいから出せよ」
「出さねぇよ」
と物別れした結果、豚肉の供給も止められてしまったのである。
「軍師、これ見たことないですかね? 図鑑にも載ってないんですよ」
藤吉郎さんがみせてきた写真はコーラみたいなやつの小瓶であった。
「うーん、どっかで、みたことあるなぁ……」
写真をまじまじと見続けていると、だんだんその小瓶が〈たうえ温泉旅館〉の有料式冷蔵庫にあった地コーラのような気がしてきた。
「近々その温泉旅館に行くので、そのときもらってきますよ」
「いやぁ、助かります。いま天地真理の自転車探すのに苦戦してましてね」
藤吉郎さんに〈うなぎ食堂〉経由でピーチタルト帝国と母国とを行き来する手順の省略化をだめ元でお願いしてみる。
時空管理局にコネがある藤吉郎さんは、
「わかりました。そんなの朝飯前ですよ」
とあっさりこの陳情を引き受けてくれた。アテンションプリーズをくり返しうたうのは、けっこうキツいのである。
藤吉郎さんは時空管理局の人たちに、まめに接待している。その接待のさいによく使う店にこれから行きませんかと誘ってきた。
「どういう感じのお店なんですか?」
「もう、わかってるくせにィ。きれいな女子がいっぱいいる店ですよ」
「え!」
「パイドンさんも好きでしょ。なんだかんだいっても」
「でも……妻が待ってるから……」
「仕事だからっていえば大丈夫ですよ。わたしだって、いつもややちゃんにそういってるんですから」
藤吉郎さんに、
「そのスナックのママ、若いときのABBAのアグネッタによく似てるんですよ」
といわれて一瞬こころがグラついたけれど、それでもぼくは愛する菊池さんが待っている自宅に帰ろうとこの時点では思っていた。しかし、
「ひとみちゃんにも無関心なんて、向こうのどら息子、どうなってるんですかね」
と藤吉郎さんのお気に入りだというそのひとみちゃんの話をきいて、
「やっぱり行きます」
と気が変わった。というのは、このひとみさんというホステスは、四、五日ほどガトーショコラの大奥総合病院で研修(?)を受けて、早々に皇帝の息子よりお引取りを願われた女性だったからである。
おなじように考えている方もいらっしゃるかもしれないけれど、やはりぼくも田上雪子さんはこの大奥総合病院にスカウトされたのでは、と思っている。
だからじっさいにあちらの病院に滞在したことがある人にお話をうかがって、田上さん関連の糸口を見出そうとかんがえたわけだ。
「やーん、パパさん久しぶり~」
と藤吉郎さんに抱きついていたひとみさんに大奥体験談をさっそくきいてみる。
ひとみさんはノリがよかった。
「わたしピーチパイドンさんの役に立てるの。やーん、うれピー」
となにげにのりピー語も交えながら四、五日間の出来事をポッキーで水割りをくるくるやりつつ、つぎのように話してくれた。
ガトーショコラに到着した初日はいきなり健康診断を受けさせられた。それでもひとみさんは、
「わたし、からだにはマンモス自信あるの」
とノリノリでおこなった。すると翌日、皇帝の息子にその診断結果が伝わったのか、ひとみさんは指名を受けてデートをすることとなる。
「いまの皇帝が死んじゃったらつぎはあの息子が皇帝になるんでしょ。じゃあ妻になったら皇帝夫人になっちゃうんだ、ラッチーって開き直って、マンモスがんばらんちすることにしたの」
「そうやって胸の谷間をちらちら見せて誘惑したんだろ、わっはっはっはっはぁ」
「もちろん♪ パパさんほど、おっぱい好きでもなさそうだったけど、でもちょっとは見てたわよ、あの息子も」
胸の谷間のちら見せが功を奏したのかはわからないけれど、ひとみさんは翌日もデートの誘いを受けた。連続デートである。夢の皇帝夫人である。
ひとみさんは気の利くところも小出しにしておこうと思って、とりあえずマクドナルドでハッピーセットなるものを買った。
「ガトーショコラ帝国にマクドナルドあるんですね」
「うん。あとたしかドムドムバーガーもあったわ」
しかしどういうわけか皇帝の息子は、ひとみさんがマクドナルドの紙袋を手渡すと、それをどこかへ放り投げて自室にひきこもってしまったのだ。
その後ひとみさんにはいっさい声がかからなくなる。皇帝夫人への夢はやぶれたのであった。
それでもひとみさんは前向きだった。向こうのパピコはマンモス切り離しにくいから帰ってこられてうれピーと、藤吉郎さんに甘えている。
「たしか田上雪子さんも、あっちのチューチューアイスは訳あり品うんぬんといって、小春おばちゃんに買い出しを頼んでいたな……」
ぼくはパピコについて確認する。
「そんなに先端、切り離しにくいんですか?」
「うん。マンモスナンジャラピーって感じ」
そんなわけで、いよいよ「田上雪子さんはガトーショコラ帝国にエンセイしている」説は、真実味を帯びてきたということができるのであった。




