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その二十
すみれクンはマッサージのさい、なにゆえお嬢さんはパンティーをはいておられないのですかな、とメロコトン博士にきかれた。
だからすみれクンは、恥ずかしがりやさん改善講習や、わたくし船倉たまきの熱血的な指導法等を博士におしえた。
「ああ、やっぱりあの青年か」
「はい」
「じゃあこの手順書を渡して、かれに換金してもらいなさい」
メロコトンの爺様は、こんなとんでもないことを、ぼくにおっつけてきていたのである。
「メロコトンめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ぼくは、怒りで全身から湯気が立ち昇りそうになる。大爆発寸前である。
そんなわけで、すみれクンと午後五時過ぎにわかれると、すぐさまあさ美お姉さんに電話して、このあいだチラつかせてきた例のナニの一件で便宜を図ってもらうようお願いしたのである。
「じゃあK駅の西口で待ち合わせましょう」
「わかりました」
ところが、あさ美お姉さんはナニの一件で例のナニをナニしてくれるどころか、〈芳寿司〉という店を予約してぼくと飲む気になっていたのである。
これはあさ美お姉さんが悪いのではない。
先ほどお電話で爆発しそうなお気持ちを伝えたさい、
「とにかく今夜はおもいっきりハマグリが食べたいんですよ」
「どんなハマグリが食べたいの?」
「ものすごい、うまいやつ。絶品の、食べたら、とろけそうなやつ」
と隠語をもちいていたのである。さすがに単刀直入にはいえなかったのだ。
わたくし船倉たまきは自身の非を認めた。そして、
「今晩はあさ美お姉さんに負けないくらい飲みますよ」
と気持ちをきりかえることにした。酒で憂さを晴らすのも悪くないからである。
ハマグリの握りやいろいろな刺し身を肴にお互いビールやハイボールを二、三杯飲み、やがて日本酒に移行する。
あさ美お姉さんは、
「ねえ、たまきくん、その茶封筒なーに」
と徳利の熱さを指先で確認しつつきいてきた。
ぼくは、これは城が買えるくらいの値打ちがあるんですうんぬんと先ほどすみれクンからきいた話をする。お姉さんはキャキャッと笑った。
「懐かしいわね、松坂慶子のバニーガール」
「億の値打ちがあるらしいよ。ふざけやがって、あのインチキ博士め」
「ねえ、たまきくん、これはなに?」
「それは換金する場所に行くための手順書。ところどころ意味不明にして暗号っぽくみせていやがるんですね。ただてきとうにめちゃくちゃに書いたんだろうけど」
「でもこれ、暗号でカムフラージュしてあるけど、意味はだいたいわかるわよ、お姉さんは」
あさ美お姉さんは、この手順書はおもに「のりピー語」と「パピパピ語」をもちいて暗号化されていると断言していた。
のりピー語はむかし酒井法子が「マンモスおいピー」とか「よろぴくやっピー」などといっていたのをかすかにおぼえている。
しかしもう一つのパピパピ語なるものは、これまでいっさいきいたこともなかった。
あさ美お姉さんにまたぞろたまき少年は質問する。
「えっ、たまきくん、知らないの、パピパピ語」
「ぜんぜん知らないです」
「だって、ピーピーねえねがいつも使ってたじゃない」
「ピピピ、ピーピーねえねって、誰ですか?」
「ほらっ、わたし『こども電話相談室』のパーソナリティーやってたでしょ。その曜日はそのあとピーピーねえねの番組だったじゃない」
「じゃあなんでおれ、知らないんだろ――ああ『お笑いマンガ道場』観てたのかな、そのときのおれは……」
あさ美お姉さんの説明によると、ピーピーねえねは一世を風靡したあの大屋政子さんのキャラクターをパクッた感じのタレントである。
大屋政子さんはご存知の通り、なにかにつけ「おとうちゃんおとうちゃん」とおとうちゃんにたいする盲信ぶりを世に知らしめていたわけだが、こちらのピーピーねえねさんは、おとうちゃんではなく、パピパピ氏をそのように崇めていたのだ。
つまりそのパピパピ氏が会得した一種の宇宙語がパピパピ語らしいのである。
「宇宙語か……こっちにも、まいったな」
あさ美お姉さんはさらに酒が入ると、カバンからボールペンを取り出して、手順書の暗号部分を吹き出しながら訳してくれた。
「ああ……こっちの店の場所のところは、お姉さんもうまく訳せないな」




