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その十六
影武者話に興奮していた三原さんは、近所のスーパーに甲類焼酎と割るならハイサワーを買い足しに行っていた。
だから翌朝のぼくは、二日酔い気味になってしまっていたのである。クルマの運転は無理である。
すみれクンのお母さまに事情を話す。
「あまり長時間だと、わたしクルマ酔いしちゃうから、逆によかったわ」
「すみません」
そんなわけで〈たうえ温泉旅館〉へは電車で行く。片道四時間弱である。
旅館のもより駅に着くと送迎車が待っていた。運転手さんは混浴をおすすめしてくる。
しかし一種の商用で訪れているのに混浴の湯をのっけから堪能するのは、さすがにG=Mであっても気が引けた。
だからチェックインしたのちのぼくは、とりあえず男湯のほうで英気を養うことにしたのである。
温泉を堪能したあと部屋でごろごろしていたら眠ってしまった。目覚めると、もう晩飯時になっていた。
ぼくはあわててすみれクンのお母さまの部屋をノックする。
部屋にも食堂にもすみれクンのお母さまはいなかった。
お母さまは「娯楽コーナー」というところで、射的みたいなことをしていたのである。
「すいません。寝ちゃってました。ご飯まだでしょ」
「はい」
「じゃあ食堂行きましょう」
「それが、部屋で食べるように、もう予約してあるんです」
お母さまが予約をしてしまったのは、つぎのようなことがあったからである。
すみれクンのお母さまはチェックインののち、まずは館内をうろうろした。
そのとき従業員の一人が「社長、社長」と呼んでいるところにたまたま遭遇する。
「あっ、雪子さんのお兄さんかしら」
と思ったお母さまは、おもいきって妹さんのことをたずねた。
「いきなりですか。すごいですね」
「ノーパン健康法に『チャンスはいきなりやってくる』というようなことが記されているんです。ですから、今だ! と思って」
お母さまにいきなりそうたずねられた田上雪子さんのお兄さんは、廊下の横っちょに移動したのちに旅館の一室に長年ひきこもっている妹さんの存在をおもむろに認める。
お母さまは雪子さんにお会いしたいと陳情する。
「じつは、いま遠征中なんです、妹は」
しかしお兄さんはもじもじしながらひそひそ声でこうこたえた。
「なんかひきこもってるのに遠征なんていうと、嘘ついてるみたいだけど……」
とさらにもじもじしていた社長はお母さまが再度お願いすると、
「わかりました。この遠征に詳しい従業員が一人おりますので、まあ従業員といっても親戚のおばちゃんなんですけど、とにかくそのおばちゃんに雪子のことを説明させますから」
と陳情をききいれてくれて、で、今晩そのおばちゃんと会食しながら雪子さんの近況を、ぼくたちはおききできるようなのである。
すみれクンのお母さまは温泉のほうもいきなり混浴に入っていた。
「露天は混浴しかなかったものですから――でも景色も良くて気持ちよかったですよ」
とつぎはぼくも混浴を選ぶよううながしてくる。
会食の時間をたずねてみると、きょうそのおばちゃんが遅番のシフトだった関係で夜の九時とけっこう遅めになっていた。
だからぼくはさっそく今度は混浴に入ってみる。
露天風呂に先客は一人もいなかった。実質貸し切りである。広い露天の混浴風呂をぼくは存分に堪能する。で、そろそろ上がろうかなと思っていると、すみれクンのお母さまがバスタオルをからだに巻いてこちらに慎重な足取りでちかづいてきた。
「月がきれいですね」
「ああ、そうですねぇ」
ぼくは誰か客は来ないかと出入り口方面ばかりをチェックしていたので、月を見る暇はじつをいうとなかった。まあそれはともかくとして、すみれクンのお母さまは日々取り組んでいる例のノーパン講習を課外授業(?)という名目で今晩もおこないたいらしく、課題をあたえるようセンセにせがんできた。
とはいえ、いつもあのアパートの一室でやらせているさまざまな体勢をよもやこの場で取らせるわけにもいかない。転んだりつまずいたりでもしたら、たいへんだからである。
ぼくはしばしかんがえたすえに、センセのひざの上での前座り後座りをそれぞれ五分ほどおこなう、という課題を教え子にあたえた。これなら安全である。
後座りの課題を最初におこなったすみれクンのお母さまは前座りに体勢を変えてセンセと相対するかたちになると、さすがになかなか目を合わせようとはしなかった。
それでも、どうにかどちらの課題もクリアする。最後はノーパン認定をして終わりである。
しかし通常はいわゆる目視で確かめているノーパンの有無をこんな薄暗いなかで認定できるわけもなかった。
例外的に今回センセは指触確認をもちいて判定を下す。
しかしセンセは指触確認ははじめてである、けっこう手間取ってしまった。そんなわけで、長々と執拗に確認しつづけていたのである。




