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その十五
あさ美お姉さんからメールが来ていた。
小柄系女子を紹介できる、ひいてはナニできる、というようなことをチラつかせている。
ぼくはそのお話に乗っかりそうになる。
しかし今日は明日の出向のための準備という名目でメロコトン屋敷での作業を免除してもらっているのだ。
あさ美お姉さんといつも落ち合う〈高まつ〉で飲んで、それが山城さんの耳に達したら、さすがに山城さんも激昂するだろう。
ぼくは大事を取って小柄な女子の写真をみせてもらうのはまた後日ということにしていただいた。
それに三原監督からもメールが届いていたのだ。
監督は、
「会って話したいことがあります」
と送ってきていた。
ちなみに三原さんとは、どちらかの部屋でコンビニの弁当やスーパーのお惣菜なんかをつまみに缶チューハイをグビグビやりながら話すことのほうが多いのである。
冷蔵庫にはたいしたものがなかったので、ぼくはもよりのスーパーでなにかつまみになるようなものを買ってこようと思った。
部屋を出ると、この船倉荘の二階の住人で(ぼくは一階の角部屋)、コンピューター関係の仕事をしている五十前後の通称スーマリさんが誰かが勝手に設置したおもてのベンチにすわっていた。
キッチンカーを待っているとのことだった。〈出不精屋〉のキッチンカーはすぐに来た。
ぼくはスーパーに行くのはやめて、この〈出不精屋〉で、のりタル弁当二つとジャンボシューマイ6Pパックを買うことにする。
「大家さん、ボクのとなりの部屋の住民、最近バタバタやってるんですけど、どうしたんですかね?」
「あそこは引っ越すんですよ。子どもさんまた生まれたから、さすがに手狭になったんでしょう」
「今度入居する人は決まってるんですか?」
「まだ決まってないみたいですよ」
「静かな人だったらいいなぁ。窓口の人にいっといてもらえませんか」
ぼくはスーマリさんに、
「わかりました。伝えておきますよ」
とてきとうにいって自室にもどった。
この船倉荘の住民にはぼくのことを先のスーマリ氏のように「大家さん」と呼ぶ人が何人かいる。
これは実父が大家であることからそう勘違いしているか、あるいは比較的のらくらしていることが多いので、こちらの存在をおもんぱかって、そのように呼んでいるのだと思われる。
三原さんはメールで伝えてきたとおり午後六時きっかりにアパートをたずねてきた。
監督は何種類かの乾き物と缶チューハイの6缶パックと割るならハイサワーのグレープフルーツのデカいやつを持参してきていた。
三原さんはそのほかにも、誰かからもらったらしい食品系の引換券もぼくに何枚か手渡してくる。
監督は仕事絡みで交流があるのか、ときどきこういうタダ券みたいなものをくれることがある。
あたためたジャンボシューマイ6Pパックをまずコタツテーブルに置く。
そしてまたすぐ台所にもどってのりタル弁当をレンジに入れる。
缶チューハイをグビグビッとやったのちにシューマイを頬張っていた三原さんはあたためたのりタル二つを持ってふたたび六畳間にもどろうとしたぼくと入れ替わるように台所に来て自分でグレープフルーツ割りをウチにキープしてあるご自身の甲類焼酎でつくっていた。
氷をカラカラさせながらゴクゴクそのグレフル割りを飲み、むずかしい顔をしてまた缶チューハイのほうをグビリとやる。
「あっ、これ、レモンの缶チューハイか……」
今度はのりタル弁当の海苔のうえに乗っている白身魚のフライをちょっとずらしてごはんをむしゃむしゃ食べる。
ぼくは缶チューハイを半分くらいグィーッと飲んだのちにまず漬物をおしとやかにかじって、で、それでギアが入ったみたいにフライを半分以上いきなり食べちゃって、ある程度空きスペースを確保してからご飯のほうを海苔がバーッと一気に剥がれないように箸で切れ目をしっかりつけたのちに味わった。
三原さんはまたとつぜん立ち上がって冷蔵庫からつぐみさんお手製の例の浅漬けをビンごともってくる。
それをあまっていた割り箸でのりタル弁当のフタのほうに適量移して食べていた。
「これ、うまいなぁ」
と浅漬けをもぐつきながらまたまた立ち上がった監督は再度台所に移動すると、今度は二人分のグレフル割りをつくってもどってきた。
「船倉さん、能瀬慶子って知ってますか?」
「知ってますよ」
「新キャン連は『ラブ・ウィンクス』を祭り上げる計画を立てていたのではなかったのです。能瀬慶子を祭り上げる計画を企てているのですよ」
三原さんは新キャン連の誰かから直接この情報を得たわけではないようだった。だからきっと試食おじさんにまたぞろそそのかされたのだろう。
しかし三原監督が能瀬慶子のほうに着目する対象を移してしまうと、ラブ・ウィンクスの新メンバー候補だった田上雪子さんの存在が価値のないものになってしまう。
監督の撮影チームを○○村に誘導できなくなってしまう。
ピンチである。絶体絶命である。ぼくは流れを変えるために、とりあえずジャンボシューマイをジャンボなのにひと口で頬張った。
もちろんジャンシューをそんなふうに食べちゃったら喉につまっちゃうので、レモンの缶チューハイとグレフル割りでその難を逃れる。
すると、そんな微妙なチャンポン飲みをしてあたまが錯乱しちゃったのか、ぼくはつぎのようなガセネタを三原監督に思わず吹き込んでしまったのである。
「三原さん、じつはね、田上雪子ちゃんは能瀬慶子の影武者だったんですよ」
「ええええええええええ!」
「われわれはとうにその情報はつかんでいるんです。そして新キャン連は、ここだけの話ですけど、ぜったいここだけの話ですよ」
「うんうん」
「能瀬慶子の影武者だった田上雪子を祭り上げようとしているんです。能瀬慶子ではなく、影武者のほうを『わあーかわいい』とかなんだとかいってチヤホヤして、キャンディー隊のお三方にヤキモチを焼かせる計画なんです。いままでキャンディー隊に賛美を送ってた奴らがね、能瀬慶子の影武者なんかをおだててたらさぁ、ランちゃんもスーちゃんもミキちゃんも、さすがにィ、さすがにこれにはねぇ、嫉妬しますよ絶対。あのデビル衣装、コロ付き収納ケースからひっぱりだしてきますよ」
「確かに……」




