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その十四
実家に行き、義姉に遠出することを伝えておく。
昨夜天ぷらを揚げすぎたつぐみさんは、その残りをどうするか迷っていた。
「うどんがいいなぁ。天ぷらうどん」
とぼくはリクエストする。
「その温泉旅館までどうやって行くの? 電車?」
ぼくはマコンドーレの商用車を貸してもらえるんだ、とこたえる。
「だったら梅干しもっていったほうがいいわね」
「うん」
「また〈やがみ農園〉さん、送ってきてくれたのよ、梅干し」
「そうなんですか」
「よっぽどあのキャプチャ作業に感謝してるのね、純子さん」
「いや、最近CD貸したから、それで送ってきたんじゃないかな」
「何のCD?」
「『森中潤一郎独演会全集24枚セット』ですよ」
「公費で作ろうとしたやつ?」
「そうそう」
「なんであんなの……」
「ほら〈やがみ農園〉って、奥のほうに山みたいなのあるでしょ」
「うんうん」
「あそこでCD流すっていってたから、猿だかイノシシだかが出るのかもね。スピーカーもけっこう各所に設置してたし」
「それで梅干し、送ってきてくれたのね」
「まあキャプチャのほうもまだまだ感謝してほしいけどね。それくらいあれはたいへんでしたよ」
このときのキャプチャ作業はさすがに疲れた。しまいには変な幻覚なども見ちゃったほどである。
当時ぼくと山城さんはその邸宅を「VHS御殿」と呼び、屋敷のあるじを「ビデオ大将軍」とある意味あがめていた。
娘の純子さんは大将軍(実父)に、所有するすべてのビデオテープのデジタル化を命じられた。しかし純子さんは〈やがみ農園〉に嫁いでいるのである。そちらの仕事がある。とうぜん作業ははかどらない。で、例によって美智枝さんが助け舟を出して、われわれがその任務をおっつけられることとなったのである。
VHS御殿にあるビデオテープをすべてデジタル化するまでには二年弱ほどの歳月を要した。大仕事であった。
「なんとお礼をいったらいいか……」
と純子さんはよろこんでいた。そのビデオテープを、
「貴重な原本なんで大事にしてください」
「え……」
「こちらはデジタル化されたハードディスクの予備です。こちらも大切に保管してください。そして定期的に新しい外部ストレージに移してください」
「え……」
と報酬として全部贈与してくれたほど感謝していたのである。たいへんな迷惑である。踏んだり蹴ったりである。
山城さんのおじいちゃんは生前、実家のはなれで書道教室をやっていた。
だから、
「きちんとした保管場所をみつけるまでの間に合わせですから。すみませんね」
などと山城さんのご家族にペコペコしつつ、われわれはダンボールに梱包された大量のビデオテープをそのはなれに運んだ。
それでも、はなれにすべてのVHSテープを押し込むことはできなかった。
だから残りのダンボールはぼくのアパートと、あと何人かの幕臣に小分けにしておっつけたのである。
ぼくのアパートは3DKなのだが、そのうちの一部屋は現在もこのダンボールで塞がっている。踏んだり蹴ったりである。
つぐみさんは梅干しのほかに瓶詰めの野菜の浅漬けも義弟に分けてくれた。




