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その十三
いろいろ迷ったが、けっきょく親子丼にする。朝はたいていご飯なのである。
翌朝レンジであたためる。
汁物は先日義姉からもらったインスタントのトマトポタージュで間に合わせることにした。しかし親子丼との相性はいまいちであった。
「このあいだ川上さんがつくってくれたハマグリのお吸い物でもあったら、いちばん良かったんだけれどな……」
ホットココアをふーふー飲んだあとに洗い物をしていると、その川上さんから電話がかかってきた。
だからぼくは、
「おはよう。いまちょうど、川上さんのハマグリのあれ、かんがえてたんだよ」
と先の朝食のことを話す。
「朝から、そんなイヤらしいこと想像してたんですか?」
川上さんは早合点していた。
「どんな感じでしたか? わたしのハマグリ」
ぼくは親子丼にはハマグリのお吸い物うんぬんと弁明する。
しかし問い合わせに応じているうちに、百パーセント一瞬たりとも川上さんのハマグリを想像しなかったとも断言できないな、という疑念も生じてきてしまう。
そんなわけで最終的には、応答中に想像した感じや、これまでに想像したさいの感触などを、具体的かつ執拗に述べたのである。
「川上さんがハム友さんの話をしてるときも、なんだかんだいっておれ、網タイツ越しの例のナニを想像してるかもしれないですね」
「あっ、そうだ。そのハム友さんから、いい情報を仕入れたんです。そのために電話したんだっけ。つい夢中になっちゃった」
ハム友さんはどういうルートからなのかは定かではないけれども、われわれにとって、とても有益な情報をこのたびも提供してくれた。
「その温泉旅館、いまでも普通に営業してるみたいなんです。だから単純にまずは利用客として、たずねてみればいいんじゃないかしら」
ハム友さん情報によると、田上雪子さんの実家は○○村で温泉旅館を経営している。ちなみにこの旅館は西暦七一二年だか七一三年だかくらいに創業されたらしい。超老舗である。
跡を継いだ長男さんは芸能界を引退してひどく落ち込んでいた妹の雪子さんを、当初あたたかく迎え入れた。しかし雪子さんはその後ずっとこの旅館の一室にひきこもってしまって、それはいま現在も継続されているみたいなのだ。
川上さんにお礼をいったあとすぐさま内府とすみれクンのお母さまに連絡する。
話はすぐまとまり、明朝この〈たうえ温泉旅館〉に向けて、いよいよ出発することとなった。
これにかこつけて、例の論文のチェック(葡萄という漢字の書きミス探し)は、明日の準備がいろいろたいへんだからというのを理由に免除してもらうことにする。悪知恵の発動である。
山城さんにその旨を電話で伝える。
「なんかメロコトン博士、サナトリウムにマッサージ師がいないから、だれか派遣してくれって、美智枝さんに頼んでるみたいなんですよ」
「あはははは。あいかわらず、わがままだな」
「だからそれを美智枝さんに指名されたら、そのときは船倉さんが代わってくださいよね」
「え……」
「船倉さんが○○村に行っているあいだ、わたしがここでの作業を船倉さんの分もやっときますから」




