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その十ニ
二時間ほどノーパン指導を受けたのちにすみれクンのお母さまは帰っていった。
きょうは沼口隊長が三回目のいわゆる探検からもどってくる日である。
ぼくは晩飯時に〈うなぎ食堂〉に行って、一杯やりながら沼口隊長の報告をきこうと思っている。
過去二回の探検では沼口隊長は田上雪子さん関連の情報を一つもつかんでこなかった。
あさ美お姉さんにそのことで相談してみると、
「あんないいかげんな人は更迭しちゃってもいいと思うな、お姉さんは。恩義なんて感じることないわよ。たまきくんは、かつ丼もずいぶんおごってるんだし」
と助言してくれた。まったくである。ぼくは最後通牒を告げる。
「船倉さん、あさ美お姉さんは、当時から自分の生写真を売って小遣い稼ぎしてたような女ですからね、用心したほうがいいですよ」
だがしかし沼口隊長は逆に昔売りつけられたその写真をチラつかせてくる。
その下着姿の生写真は、顔のところが変なひらひらしたお面みたいなやつで覆い隠されていた。ほんとうに若いときのあさ美お姉さんなのかは確信がもてない。
「でもほら、ブラジャーもパンティーもピンクでしょ。ここにホクロもあるし」
「そうッスよね。お姉さんのラッキーカラーですもんね。花柄系ですけど、ピピピ、ピンクですもんね」
けっきょくこのときのぼくは、
「まあまあ、私の気持ちですから。取っといてください」
と隊長からその生写真をいただくことによって処遇問題を保留というか、なんとなく三度目の探検の費用も確約してしまったのである。丸め込まれたのである。
五キロ走って入浴したのちに〈うなぎ食堂〉へおもむく。
「大将どうもぉ。隊長います? え」
意外にも沼口隊長はまだこちらにもどってきていなかった。
さすがに隊長も今回の探検では、本気になって田上雪子さんの行方を調べてくれているのだろう。
〈うなぎ食堂〉の大将は、エッシャーのレプリカが飾ってあるものすごい奥の部屋にぼくを案内した。そして注文をきいたのちにまたぞろ三畳間の襖を開け締めしながら厨房にもどっていく。
しばらくすると大将はもどってきた。客の一人がハンディ型カラオケ機の使い方をききにくる。大将はざっくりおしえていた。
「大将、あれ『マメカラ』ですか?」
「いや、あれはなんかマメカラのバッタもんっていうか、どこか異国のメーカーの製品なんです。正式には『チビカラ』っていうんですけどね。でもお客さんもみんなマメカラって呼んでるし、わたしもそのへんはてきとうに呼んでるんですよ。ただちょっと使い方が本家本元のマメカラとはちがいましてね。だからその対応をするのが、けっこう面倒ではあるんです」
大将はめずらしくビールを注いでくれた。そしてこの店に出ると噂される幽霊だか宇宙人だかの風評被害について、こぼしてくる。
「たいへんですね」
「旦那さん、わたし知ってますよ。旦那さんがマコンドーレグループのG=Mだってこと。お若いのに、たいへんなご出世ですねぇ」
「そんなことないですよ。あはははは」
「G=Mさんの貫禄で沼口君よりもっとずっと真面目でちゃんとしてるガードマンみたいなのをこの食堂に就けてくれませんかね。そうすれば、お客さんも安心すると思うんです。本気で怖がってるお客さんも増えてきてましてね」
「じっさいぼくも、アドバイザーからいわれてるよ。更迭したほうがいいって」
「アドバイザーみたいなブレーンもいるんですか。やっぱりG=Mくらいの役職になるとすごいんですね」
「まぁね。そのアドバイザー、あさ美っていうんだけどね、今度相談してみるよ」
「よろしくお願いします。何か、もっと召しあがりますか?」
「もう、これでじゅうぶんです」
「じゃあ、なにかお持ち帰りでどうぞ。お代はもちろん結構なんで」
「そそそ、そうですかそうですか。じゃあななな何にしようかな、かかかかつ丼かつどーんにしようかな……あっ、でも太っちゃうかな――やっぱりサンドイッチお願いします。たまごサンドイッチ。あしたの朝食にね、あはははは。あっ、でも、ハムとチーズときゅうりが入ってるやつもおいしいかもしれないな。でも甘い系を食べてみたくなっちゃったりしちゃうかもしれないな……でもそのときはココアをふーふーしながら飲めばいいかな……でもココアをふーふーしながら飲んじゃうと、ベビースター系みたいなやつが食べたくなっちゃうかもしれないな……」




