↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

12 解けた、その先

謎は解けても、

それで終わりとは限らない。


本当に知りたいことは、

その先にある。


「解けました」


 水絵が顔を上げ、そう言うと、花吉は「えっ!」と驚きの声を上げた。


「もう、分かったんですか?」


 水絵は頷く。

 算法を使わなくて済む分、源内のものよりはずっと楽だった。


「それでは、水絵先生に謎解きをしてもらおうか」


 にやにや笑いながら言う鏡之介を一睨みしてから、水絵は、花吉の前に文を広げてみせる。


「まず、この四つの絵ですが、これは判じ絵です」


「そうじゃないかと思ったんですが、それでも私にはさっぱり……」


 花吉が再び頭を掻く。


「判じ絵は、慣れればすぐ分かりますよ。まず七福神は神様、つまり『神』。これが田んぼの絵なのは、すぐ分かりますよね。だから『田』。ちょっとわかりにくいのは天狗なんですけど、天狗みたいな妖怪や化け物は『魔』…つまり『ま』と読ませるんです。最後のは、普通に『つり』」


「こういうことだな?」


 反古紙の裏に、何か書き付けていた鏡之介が、それを文に並べてみせる。


七福神→神

田  →田

天狗 →ま

つり →つり


「神田まつり?」


 花吉が首をかしげる。


「『浅葱屋』も『花菱屋』も、神田祭の時は大忙しですけど、それがなにか?」


「神田祭に意味があるかどうかは分かりませんけど、次の文を解く鍵になることは確かです」


「鍵?」


 花吉が再び首をかしげる。


「錠のかかった箱を開けるには鍵が必要なように、謎解きにも鍵が要るんですよ。この判じ物の鍵は『かんだまつり』」


 水絵は、「印、付けちゃっていいですか?」と断ってから、朱墨を用意する。


「この文は全部ひらがななので、『かんだまつり』もひらがなで考えます」


 と言いながら、「か」「ん」「だ」「ま」「つ」「り」に、赤い点を打った。


 か(・)おにおしろい

 きん(・)むくのおびどめをだ(・)すみせのどま(・)

 びわひとつ(・)おく

 とり(・)いはしゅいろか(・)しはこしあん(・)いろははなだ(・)

 おしろをま(・)もるつ(・)いでにやり(・)でさす


「ああ、そういうことか……」


 つぶやいたのは鏡之介。

 だが、花吉は相変わらず首をひねっている。


「印を付けた文字の次の文字を読んでみてください」


 水絵が言うと、花吉は指で印をさしながら、ひとつひとつ確かめるように読んでいった。


「ええと……お、む、す、び、お、い、し、い、お、も、い、で」


 花吉が、顔を上げる。


「おむすび、美味しい、思い出……ですか?」


「多分、それが答えです」


 水絵は言ったが、花吉は今ひとつ釈然としないようだった。


「おむすびが美味しかった思い出ってことだと思いますけど、それがどうだって言うんでしょう。私にはさっぱり分かりませんが」


 それは、水絵にも分からない。答えに困っていると、鏡之介が口を開いた。


「花吉さんには分からなくても、信之助さんには分かるかもしれねえ。これを持って行って、確かめてみちゃ、どうだい?」


「……わかりました。そうしてみます」


 花吉はそう言うと、文を懐にしまって寺子屋を後にしたが、腑に落ちてはいないようだった。


「……解き方、間違っていたんでしょうか?」


 花吉の姿が見えなくなってから、水絵は鏡之介に訊いた。


「いや。あれで正しいと俺は思う。『神田祭』にも何か意味があるとは思うが、おそらく、お琴さんと信之助さんの間にだけ通じる符丁なんじゃねえか?」


 鏡之介にそう言われて、水絵は少しだけほっとしたが、それでも、「間違っていたのかもしれない」という不安は拭えなかった。

 あの判じ物には、お琴の口に出しては言えない想いがつまっている気がする。そんな大切なものに、間違った答えを出したりしたら……。

 考えれば考えるほど不安になり、水絵はその日から、眠れなくなってしまった。

 そのせいで、寺子屋でもつまらないしくじりが多くなった。目の下の隈も気になるが、自分でもどうしようもない。

 そんな日が、五日ほど続いたある夕方。

 帰ろうとする水絵を呼び止めた鏡之介が、ひどく真剣な表情で言った。


「あの判じ物のことは、もう気にするな。誰もが解けなかったものをおまえは解いたんだ。それから後のことは、本人同士の問題だ」


「……でも、間違っていたとしたら……」


 水絵の声には、いつもの張りがない。

 すると、鏡之介がすっと立ち上がった。


「ついてこい」


「どこへ行くんですか?」


「花吉さんのところだ。だいたい、合っていたのかいないのか、すぐにでも知らせるのが、礼儀ってもんじゃねえのか? どうなっているのか、聞きに行くぞ」


「でも……」


 水絵がためらっていた時、当の花吉が眞性寺に駆け込んできた。


「み、水絵さん……あ、あ……」


 よほど急いで走ってきたのか、汗だくで、息も切れ切れ。それだけ言うと縁側に手を突き、しゃがみ込んでしまう。


 そんな花吉を、鏡之介は呆れたように眺めていたが、


「まあ、とにかく上がれ」


 と、本堂に招き入れた。


「お知らせが遅れまして、すみません」


 息が整うと、花吉はまずそう言い、深々と頭を下げた。


「おかげさまで、兄の縁談が調いました」


「え?」


 判じ物の謎解きから、何段も飛ばした結末に水絵が戸惑っていると、鏡之介が渋い顔で尋ねた。


「それで? 水絵の謎解きは合っていたのか?」


「はあ……多分」


「多分、かよ」


 鏡之介の皮肉な口調に、花吉が首をすくめる。


「鏡之介さん、顔が怖いです」


 水絵がたしなめると、鏡之介は気まずそうな顔で座り直し、


「とにかく、いきさつを聞こうか」


 と、少し落ち着いた声で言った。

 それで、ようやく花吉も安心したらしく、縁談がまとまるまでのいきさつを語った。


「あの日、水絵さんに解いてもらった判じ物の答えを兄に見せましたら、いきなり店を飛び出してしまいまして」


 信之助が行った先は、「花菱屋」だったらしい。そこで、お琴としばらく話をしていたらしいが、詳しい話はしてくれない。


「私が、『あの文の意味はどういうことなんですか』って聞いても、なんにも答えてくれないんで……。水絵さんにもどう言っていいか分からずに、失礼なことをしてしまって」


 すみませんでした、と再び頭を下げる。


「そんなに何度も謝らなくてもいいですよ。仕方なかったってことはわかったから」


 水絵はそう言ったのに、鏡之介は、まだ不機嫌そうだ。花吉はまた、小さく肩をすくめた。

 気まずい雰囲気をなんとかしようと、水絵は言った。


「それで、縁談がまとまったっていうのは?」


「私には詳しいことはわからねえんですが、今日になって、縁談がまとまったって知らせが来たので、急いで、水絵さんに知らせねえと思いまして」


 それで、走ってここまで来たという。


「これも、謎解きをしてくれた水絵さんのおかげです。ありがとうございました」


 そう礼を言ってから、花吉は帰って行った。


「結局『おむすび 美味しい 思い出』の意味は分からないままか」


 鏡之介の言葉に、水絵も頷く。


「気にはかかりますけれど……」


「若旦那に聞いても、答えちゃくれねえだろうな」


 そんな風に、二人は諦めたのだが――。


 その答えは、思わぬところから知らされることになる。


どうやら今回の答えは、

まだ半分だったようです。


残りは、もう少し先で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。