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40- 勝家

【勝 清隆】

1891年(明治24年)12月25日(金)14時

僕は2年近く、実家に足を踏み入れていなかった――春のある晩餐会を、実のところ半分しか存在しなかった「仕事の緊急事態」を口実に、途中で早々に席を立ってからだった。

その日、新橋駅から赤坂までの馬車での道のりは、吉祥寺と私の幼少期を過ごした地区との距離はさほど遠くなかったにもかかわらず、妙に長く感じられた。まるで自分の体が、あらゆる手段を尽くして到着を遅らせようとしているかのようだった。

僕の向かいに座っていた香織子は、やがて馬車の窓に寄りかかってうたた寝をしてしまった。一晩中、自分の記憶を整理し続けた疲れが、彼女の鋭い好奇心さえも打ち負かしてしまったのだ。

彼女の眠る姿をしばらく眺めていた。規則正しい呼吸、膝の上に置かれたまだ少し胼胝の残った手。そして、自分でも驚くほどの切実さで、この午後が、僕たち数週間かけて築き上げてきた何かを壊すことのないようにと願っている自分に気づいた。

馬車が邸宅の大きな門をくぐる瞬間、彼女ははっと目を覚ました。その身を起こす様子は、単に昼寝から目覚めた女性というよりは、過ちを犯した兵士のような機敏さだった。

—「着いたの?」

—「もうすぐ。」

—「お父さま、トンブクトゥにお住まいなんですか、なんてこと!」

僕は彼女を面白そうにじっと見つめた。

—「トンブクトゥってどこ?」

—「大きな砂漠の向こう側よ。黒人の王様の首都で、その王はポケットを金でいっぱいにしているんだ。」

彼女は着物を直した――デロールム神父の家にいた頃、その機会のために逸子ねえさまが特別に送ってくれたものだった。深い青地に控えめな鶴の模様が施されたその着物は、姉が手紙で「身分を十分に示しつつ、本来持たない出自を装うことのないもの。それは無意味であるばかりか、香織子の知性に対する侮辱にもなるからだ」と説明していたものだった ――そして、社交の場という試練に臨むたびに彼女を特徴づける、あの静かな決意を込めた眼差しで私を見つめた。

確かに、そんな姿を見ると……以前、フランス公使館で着ていた、シンプルで地味なベージュのドレスやジャケットとは、まったく印象が違っていた。

—「よし」と彼女は言った。「だんなさまの朝に立ち向かいましょう。何しろ、勝家は決して敗北を認めないのですから。」

—「早とちりしないで。勝家という名には理由があるのよ。赤坂は毒蛇の巣窟よ、用心したほうがいいわ。」

—「そのとおり, アメーン。」


逸子ねぇさまは玄関で僕たちを待っていて、深緑色の洋装を身にまとったその姿は相変わらずで、家の他の者たちの堅苦しい礼儀正しさとは好対照をなすような熱意をもって、香織子へと駆け寄った。

—「やっと!」彼女は香織子を素早く抱きしめた。社交の場では、他の誰に対してもそんな仕草を見せたことはなかった。「父さまが教えてくれたのは、つい昨晩のことだったの。もう決心がつかないのかと思ってたわ」

—「お姉さま、ご存知だったんですか?」僕は思わず、わずかな苛立ちをにじませながら尋ねた。

—「私はいつもすべてを知っているのよ、弟よ。何年も前に、あなたが自らこの家族から身を引くことを決めて以来、それが私の役割だからね。」彼女は私を、悪意のない眼差しで見つめたが、その眼差しには、僕が普段なら避けて通りたいと思うような真実の重みが込められていた。

ほどなくして、母の民子(タミコ)が僕たちのもとへやって来た。歳月を経てもなお、その背筋の伸びた姿と西洋風の優雅さは健在だった――いつものヨーロッパ風のドレス、きっちりとしたお団子ヘア。

母は、僕の家族全員の血に流れているかのような診断的な眼差しで香織子を観察していたが、僕はいつものように、母が僕に対して保っている明確な距離感に気づいた――ほとんど気づかれないほどの半歩の距離、その温かさは逸子に対しては自然に向けられているのに、僕に対しては常に計算され、抑制されているように感じられた。まるで、あまりに多くを見せることを恐れているかのようだった。

それは新しいことではなかった。子供の頃の記憶をさかのぼっても、かつて一度もなかったことだ――非の打ちどころのない礼儀正しさ、決して厳しい言葉は口にしないが、他の人たちに対して見せるような自然さもない。

その理由の一部を、16歳の時に見つけてはいけないはずの書類を漁っていた時に、私は遅ればせながら理解した。彼女は、僕がその日になって初めて知ったことを、ずっと以前から知っていたのだ。そして、彼女が生涯守り続けなければならなかった沈黙は、彼女の中で、たとえ真実そのものが僕にとってもはや秘密でなくなった後も、決して捨て去ることのできなかった慎重さへと変わっていたのだ。

—「石場さん。」彼女は、丁度礼儀正しく見える程度に、軽く頭を下げた。「まさか、この方が息子の新しい、下賤な婚約者だなんて退席せざるを得なくてね。」

—「まあ、お母さま!」と、僕の代わりに逸子ねえさまが香織子を腕に抱きしめながら答えた。「初日から香織子ちゃんにそんなに厳しくしないでください。とても愛らしくてたまらないし、清隆にもぴったりじゃないですか?」

—「逸子。そんな子供じみたことはやめて。あの田舎娘が、どうして勝家の妻になれるというの。」

—「私がそうであるかどうかにかかわらず、奥様、失礼ながら、」と香織子は言い、その微笑みが潜在的な緊張をたちまち和らげた。「それが現実でございます。不都合を最小限に抑えて結婚を解消することもできるし、私はそれに反対はしないわ。だんなさまがどうお考えになるかは、わからないけれど。」

—「反対だ」と僕は冷たく答えた。

民子は明らかに驚いた様子で瞬きをし、それから短い笑いを漏らした。

—「お見事な返しですね。いいわ。」彼女は僕のほうを向き、声はいつもの無表情な調子に戻った。「お兄さまが、今日の体調が許せば、食事の前に皆さんに会いたいとおっしゃっています。冬の間接室におられます。」

彼女のそばには、僕がすぐには気づかなかった女性が立っていた――背が高く、金髪で、シンプルだがエレガントな西洋風のドレスを着ており、30代を過ぎているにもかかわらず顔立ちはまだ若々しく、他の家族に見られるような儀礼的な控えめさとは無縁の、温かい笑顔を浮かべていた。

—「クララさん」と僕は言い、一礼した。「今夜、ご出席されるとは存じませんでした。」

—「梅太郎だんなさまがどうしても来てほしいと強く頼んだんです」と彼女は、わずかにアメリカ的な抑揚が混じるものの、完璧な日本語で答えた。そして、香織子に心からの関心を込めて視線を向けた。「あなたが香織子さんですね。清隆さんは自分のことについてほとんど話さないので、あなたのことについては彼本人からではなく、一子さんから聞かされました――義兄の性格を知っている私にとっては、それも別に驚くことではありませんが。」

—「クララさんは僕の義姉です」と私は香織子に説明した。「梅太郎お兄さまと結婚しています。」

—「ごだんなさまがかつてそうだったように、私も聖公会信者なんです」とクララが付け加え、共犯者のようなウインクを送った。その仕草を見て、この大家族の中で、なぜ私が彼女を最も付き合いやすいと感じてきたのかを改めて思い出した。「石場さん、お話ししましょう。「石場さん、お話ししましょう。このサークルの皆さんが、私たちを見ただけでは想像もつかないほど、私たちには共通点があると思います。」

予告通り、冬の間用の応接室で兄を見つけた。兄は普通の座布団ではなく、寝具用の布団に腰を下ろし、すぐそばの火鉢の暖かさにもかかわらず、膝の上に分厚い毛布をかけていた。

小鹿(こじか)兄様――屋敷の使用人たちは、彼が決して正そうとしなかった幼い頃の古い習慣から、今でも「小六(ころく)様」と呼んでいた――は、ここ数ヶ月間私が見てきたのと同じ灰色の顔色をしていたが、僕たちが入ってくるのを見て見せたその笑顔は、僕の記憶にある通り、相変わらず誠実なものだった。

—「清隆。」彼は体を起こそうとしたが、僕は素早く手を振ってそれを止めた。

— 「私のために立ち上がらないで。」

—「弟とその婚約者のためなら、たとえ命が尽きようとも立ち上がるよ」と彼は言った。そのユーモアは、この単純な動作にどれほどの労力を要しているかを、半分しか隠せていなかった。彼は香織子の方を向いた。「石場さん。」

—「小鹿さま。お会いできて光栄です。どうか神様がご健康をお与えになりますように。」

この言葉は、香織子にとっては何気ないものだったが、勝家の人々、とりわけ小鹿兄さまの母である民子母上を少し動揺させた。医師たちによれば、小鹿兄さまの余命は長くはないと言われていたからだ。

兄様はそれを面白がり、まるで解放されたかのように、声を上げて大笑いした。

—「アルジェリアの方だと伺いました。実は私も仏国に留学していたんです、若い頃にはアルジェリアにも数ヶ月滞在したことがあります――オラン、それからアルジェです。植民地支配の下で暮らす人々にとっては厳しい国ではありますが、本当に素晴らしい国ですね。」

—「アルジェリアをご存じなんですか?」と香織子は、声に率直な驚きをにじませて言った。

—「少しね。ここの新聞が報じていることは、現実とはほとんど無関係だということは、十分わかっているよ。」彼は咳をした。短い咳だったが、ドアのそばに立っていた民子の顔に一瞬、影がよぎった。「それから、娘の伊代子には会ったか?」と彼は続けて尋ねた。まるで自分の病気に会話の主導権を握らせまいとするかのように、軽やかに話題を変えたのだ。

—「数ヶ月も会っていません」と、僕は少し恥ずかしそうに認めた。

—「娘子は4歳なのに、すでに閣僚の半数よりも機転が利くんだ。僕がもうここにいなくなって、君にそれを思い出させてあげられなくなる前に、もっと頻繁に会いに来るべきだよ。」

その、ほとんど軽妙な口調で放たれた言葉の後に訪れた沈黙が、部屋の中に重くのしかかった――この家族の中で、誰もがすでに知っている彼の健康状態について、誰も直接口にすることは決してなかった。それなのに、あのように気楽に言及されるのを耳にすると、深刻な告白をされた時よりも、私はさらに身が凍りついた。

—「行くよ」と、僕はただそう言った。

—「その言葉、信じておくよ。」彼は香織子に最後にもう一度微笑んだ。「二人とも、宴を楽しんでくれ。俺は、体力が持てば後で合流する。もし持たなかったら――」彼はさりげなく民子を指さした。「母さまが、頼まれても頼まれなくても、明日の朝、細部まで喜んで話してくれるだろうからな。」

….

晩餐会は18時を少し過ぎた頃に始まり、広々としたレセプションホールには徐々に30人ほどの来賓が集まってきた。その中には、個人的にではなく顔見知り程度の上級将校たち、夫人を伴った数人の外国の外交官、そして意外にも、側門からわずか2人の随行員だけを連れてひっそりと到着した玉門宮(たまかどのみや)道仁(みちひと)親王殿下がいた。

—「清隆」と、彼はいつものように疲れを帯びた優雅な仕草で私に近づきながら言った。「今夜、ご一家が宴会を開かれるとは知らなかったよ」

—「私も昨日まで知らなかったよ、殿下」私は深く頭を下げ、香織子もほんの少しだけそれに続いた。

彼は、目元まで届かないような微笑みを浮かべた――僕は、どうしても完全に切り離すことのできないプロとしての観察眼で、彼の顔に普段とは異なる青ざめと、杯に手を伸ばすその手に微かな震えがあることに気づいた。

—「お元気ですか、殿下?」

—「いつも通りだ」と彼は言った。その口調からは、「いつも通り」という状態が、彼にとって特に羨ましいものではないことがうかがえた。彼は私の隣に立つ香織子の方を向いた。「石場さんですね。ご挨拶申し上げます。ご観察力に優れていると評判ですね?」

—「腕を鈍らせないよう心がけております、殿下さま」と彼女は、いつものユーモアの片鱗を隠さない礼儀正しさで答えた。「私をこの方にご紹介ください」と僕に言った。

—「『殿下』という称号だけで、この方をご紹介するには十分でしょう、香織子」

—「そうですか?」彼女は純真で無邪気な口調で言った。「それって、殿下ってどういう意味なんですか?」

親王はこっそりと笑いをこらえ、僕は彼女の手を取り、涙を拭いてあげた。

その瞬間、逸子が僕たちのもとへやって来て、彼女特有の、決して失われることのない社交的な気配りで、紹介をしてくれた。

—「殿下、私の弟の婚約者、石場香織子をご紹介いたします。香織子、こちらは天皇陛下の弟、玉門宮道仁殿下でございます。」

道仁は、彼特有の、どこか疲れを帯びた優雅さをもって一礼し、世間的な好奇心とは一線を画す関心を持って香織子を見つめた。香織子は、その男の身分に全く動じず、私たち全員を驚かせたが、彼女はただ、皇太子から受けたお辞儀を返しただけだった。

—「石場さん。ここ数週間、あなたのことはよく耳にしていました――観菊会のことや、かろうじて回避されたあの事件のことなど。残念ながら、その晩は私はもうその場にいませんでした。体調の都合で、午前の式典の後、退席せざるを得なかったのであるいつも通りである。」

—「それはお気の毒でした、宮様」と香織子は言った。その誠実な口調に、親王は心地よい驚きを覚えたようだった。

—「お気遣いなく。私の健康については、あまり長く立ち止まって話したくはないのでございます」と、彼は目元まで届かない微笑みを浮かべて言った。「しかし、ようやく直接お会いできて嬉しく思います。」

—「こちらこそ光栄でございます。」

それから、逸子と香織子は立ち去り、僕と皇太子殿下が二人きりで話し合うことになった。

—「どうして、この国の人たちは痩せっぽちばかりなのかしら?」と香織子が言った。

—「えっ?」と、逸子は戸惑った様子で答えた。

—「だって、この国の人たちはみんな病弱で痩せっぽちじゃない。だんなさまは細い木みたい退席せざるを得なかったのでございますだし、弟の咲太さまは小枝みたいだし、親王様も痩せっぽちだし、お兄様のこじかさまなんて言うまでもないわ……じゃあ、ミカドはどんな姿なんだろうかしら」

—「天皇陛下はお腹が出ているわ」

—「あ、そうね! 少なくとも陛下は、自分の分をしっかり食べているわね」と、逸子はその言葉に笑った。

—「カオルコ……」と、彼女は笑いをこらえきれずに言った。

—「何?」

—「何でもない、本当に何でもないわ。そこが問題なのよ。」

それから私たちは席に着いた。


食事自体は、日本の伝統と西洋の影響が融合した一連の料理で構成されていた。それは、私の家族が、自らのルーツを完全に否定することなく、外国からの客を感心させるために常に培ってきた、あのハイブリッドなスタイルだった。

極上の鮮度の刺身に続き、フランス風のコンソメ、そして牛肉のマリネが運ばれてきたが、香織子はそれに手をつけず、そっとお皿の端に寄せ、代わりに添えられたご飯や野菜、魚に明らかな熱意を持って食に集中していた。

給仕たちが、その輝きと香りで、理屈の上ならどんな客をも喜ばせるはずの、ツヤツヤとした豚の甘辛煮を運んできたまさにその瞬間、僕は、香織子がさりげなく自分の皿をそらしながら、その仕草を隠すために隣の席の客と会話を始めたことに気づいた。

部屋の片隅から給仕を監督していた執事が、一瞬僕の視線と交差し、微かにうなずいた――彼が先ほど言及していた「細やかさ」の意味が、その瞬間に完全に理解できた。おそらく僕の父自身だろうが、誰かが香織子の食習慣を十分に把握し、問題となる料理が常に用意されているものの、決して押し付けられることのないよう配慮していたのだ。

日本酒が振る舞われる時が来て、テーブルの全員にたっぷりと注がれたとき、 薫子が差し出された杯を優雅な微笑みを浮かべて受け取り、ごく自然な仕草で唇に運ぶのを見た――しかし実際には一口も飲まず、ほとんど満杯のままの杯をテーブル中央に飾られた花束の陰にそっと置いた。その手さばきはあまりにも滑らかで、僕ほど注意深い観察者以外には、誰も気づかなかっただろう。

—「それ、すごく上手だね」と、僕は料理の合間に小声で彼女に囁いた。

—「日本での6年間ですよ、だんなさま、6年間。断ることを公然と示す方が嘘をつくよりも代償が大きい国では、断ったものを飲んでいるように見せる術をすぐに覚えるものですから。」

— 「本当にベジタリアンなの?」

— 「回教の儀式による屠殺を行わない国では、確かに私はベジタリアンよ。自分の手か、あるいはキリスト教徒の手で首を切られた肉しか食べないの。でも、肉が恋しいわ!」


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