37- 現地にて
【勝清隆】
1891年(明治24年)12月23日(水) — 市ヶ谷、第二局
駐屯地に所属する法医の有賀医師は、口数の少ない人物として知られていたが、私の机の上に置かれた彼の報告書は、その臨床的な簡潔さによってその評判を裏付けるものだった――まさに僕が求めていたものだった。
—「弾丸は1発」と、彼は前置きもなく切り出し、自ら注釈を書き込んだ頭蓋骨の図を私たちの前に広げた。「後頭部から侵入し、右側にわずかにずれている。前頭部から貫通し、脳組織の相当な部分を巻き込んでいた。即死だ――被験者は、すべてが終わってしまうまで衝撃を感知することさえなかっただろう。」
僕の隣に立っていた大地は、わずかに顔をしかめたが、図から目をそらすことはなかった。
—「口径は?」と僕が尋ねた。
—「弾頭を摘出しました」と有賀は言い、変形した金属片が入った小さな袋をテーブルの上に置いた。「村田式、口径11ミリ――我々の歩兵部隊の標準弾薬です。とはいえ、この種の弾薬は公式ルート以外でも広く流通しているため、それだけでは何も分かりません。」
図面に身を乗り出していた十部くんは、すでに鉛筆で線を引いており、有賀が示した弾の侵入点と脱出点から射角を再計算していた。
—「弾道の角度から判断すると、高所からの射撃だったようです」と彼女は言った。「ただし、極端に高い場所ではなく――最高地点というよりは、1階建ての倉庫の屋根や高い窓といった場所でしょう。」
—「それは、現地で我々が確認した内容と一致しています」と僕は言った。「周辺の屋根はどれも、この高さを超えていませんでした。」
—「距離については」と有賀が続けた。「弾頭の変形と貫通深度から推定できます。70メートルから100メートル程度と見ています。夜間、薄暗い状況下での射撃としては、この距離は経験の浅い射手によるものとは到底考えられません」
—「夜間に、たった一発で、修正射撃もなしに70メートルか」と大地は、思わず敬意を込めた口調で繰り返した。「それだと……231尺になる! これは軍用の精密射撃だ。銃を手に入れただけの港のチンピラなんかじゃない。」
—「まさに僕の評価通りだ」と有賀は言った。「参考になれば付け加えるが、弾痕の位置――先ほど指摘した通り、わずかにずれている――から判断すると、被弾の瞬間、被験者はごくわずかに頭をひねっていたようだ。つまり、射手は最後の最後で照準を調整したか、あるいはその動きを驚くべき精度で予測していたということになる。」
僕は図面を手に取り、黙ってそれをじっくりと眺めながら、この情報をあの夜の自分の記憶と頭の中で重ね合わせていた――加瀬は、僕たちが探していた名前の最初の音節を発したまさにその瞬間、僕がちゃんと聞こえているか確かめるかのように、わずかに頭を僕の方へ向けていたのだ。
—「狙撃手は、相手がどの言葉を口にするかを分かっていた」と僕はゆっくりと口にした。その結論の重みが部屋の中に広がっていくのを感じながら。「犯人は、ただやみくもに撃ったわけでも、単に加瀬が話していたから撃ったわけでもない。その名前が口に出されるまさにその瞬間に合わせて狙いを定めたのだ――つまり、犯人は単に加瀬がそのホームに物理的にいるという事実だけでなく、会話の内容を理解できるほど、会話を注意深く追っていたということだ。」
十部は顔を上げた。普段は無表情なその顔に、新たな不安が浮かんでいた。
—「どういうことですか、中佐どの? 我々はその場所から70メートル以上離れていました。中佐どのご自身も確認されたはずです。夜間で、風や波の音がある中、その距離からささやき声の会話など、誰にも聞き取れるはずがありません。」
—「もし、もっと近くで誰かが盗み聞きしていたなら話は別だ」と大地はゆっくりと言った。「そして、何らかの方法で、銃を構えていた者に情報を伝えていたとしたら。」
沈黙が訪れた。私たち一人ひとりが、この仮説が意味するところを噛みしめていた。
—「その場に、あの夜、我々が特定できなかったもう一人の男がいたということか」と、僕はようやく口を開いた。「もっと近くに位置し、会話を聞き取ることができ、我々が気づかなかった合図――身振りや一瞬の光、あるいは私がまだ知らない『冷血』の技法さえも――で、狙撃手と連絡を取り合っていたのだ。」
— 「つまり」と十部は言った。「我々が対峙している組織には、少なくとも2人の高度に訓練された人物がおり、ほぼ軍隊並みの精度で連携し、混乱の最中でも決して発見されることなく、標的を絞った暗殺を実行できるということだ。」
—「これは、相続の秘密をめぐって不和が生じた単なる家族の問題ではない」と僕は、彼らに向けてというよりむしろ自分自身に向けて言った。「これは、自分が想像していたものをはるかに超える資源と訓練を備えた、組織化され、規律正しい組織なのだ。」 」
このやり取りを、目の前で臨床的事実が、その意味の全容を必ずしも把握できない結論へと変化していくのを常に見慣れた男特有の無表情で聞いていた有賀は、鞄を閉じた。
— 「この報告書をお渡ししておきます、中佐どの。追加の分析が必要であれば――被験者の血液も採取しています。万が一、残留するレイの痕跡を調べたい場合のために。」
—「やってください」と自分は言った。「この遺体が抱える秘密を、永久に土に還してしまう前に、そこから得られる限りの情報をすべて知りたいのです。あと、もう一つだけ、先生。」
—「何でしょうか、中佐どの?」
—「もしかすると、何らかの形で『霊血』が射撃の照準調整に関与していた可能性はありますか?」
有賀先生は思案げに口ひげを掻いた。
— 「自分の『真眼』は鈍っているかもしれませんが、中佐どの、弾丸からはレイの痕跡は一切感じられません。あとはご判断にお任せします。これで失礼します。」
有賀は一礼して部屋を出ていった。そうして、大地、十部、そして僕は、ある報告書と向き合うことになった。その報告書は、ある問題を解決するどころか、むしろ新たな、そしてさらに不穏な疑問を投げかけたばかりだった。
—「『連携している二人』」と、大地が沈黙を破って言った。「少なくとも二人。吉祥寺でノゾミさんを脅した人物や、榎本邸で見失った人影を含めれば、もっと多いかもしれない。」
—「つまり」と俺は、まるでその動作が、すでに俺の中に浮かび上がっていた結論を遅らせられるかのように、わざとゆっくりとそのファイルを閉じた。「俺たちが追っているのは、もはや一人の男でも、孤立した少数の共謀者たちでもない。我々が追っているのは、真夜中に痕跡を一切残さずに静かな暗殺を遂行できるほど、規律正しい組織そのものだ。」
十部はいつものように正確に測定器具を片付けたが、自分が彼女と知り合って以来初めて、その手が完璧に安定していないことに気づいた。
—「中佐どの。もしこのネットワークが、この報告書が示唆するほど規律正しいものなら」と彼女は言った。「それなら、先日、僕の住居の近くで見かけた不審な人物も、おそらく単なる偶然の一致ではなかったでしょう。」
僕は彼女を見つめた。すると、彼女の瞳の中に、ここ数日、自分でも心の中で問い続けていたが、声に出して口にする勇気がなかったのと同じ、冷徹な疑問が浮かんでいるのを見た。この組織は、一体正確に何人の仲間を、いつから監視し続けているのか。
—「じゃあ、昨日決めたことを実行しよう」と俺は言った。「誰も一人で帰らない。そして今日から、もう一つルールを追加する。事前に自分たちで確認していない場所では、機密情報を誰とも共有してはならない。もしこのネットワークが、人けのないホームで70メートル先でささやかれた会話さえ聞き取れるのなら、壁だけで守られるなんてことは、もう二度と当然だとは思いたくない。」
大地はうなずいたが、彼の表情から、普段彼を特徴づけていた軽やかさもまた、より硬く、より警戒心のある何かに取って代わられたことが見て取れた――この捜査の性質が今まさに変わり、もはや私たち誰も、これを単なる案件の一つとして扱うことはできなくなったという、無言の認識だった。
有賀が去った後、僕たちはずっと沈黙を保っていた。報告書が裏付けた事態の重大さを、それぞれが自分なりの方法で噛みしめていたのだ。
いつものように、その重苦しい空気を破ったのは大地だった――場違いな軽薄さからではなく、戦いに戻る前に、その場に一息つく時間が必要だと正確に感じ取る、彼ならではの才能があったからだ。
—「よし」と彼は言い、大きな音を立てて背筋を伸ばした。背中の関節がポキポキと鳴り、思わず顔をしかめた。「空腹のままじゃ解決できないよ。竜橋くんがすぐに食料を持って戻ってくるはずだ――橋のそばにある小さな食堂に寄ってくるよう頼んでおいた。あの、豚肉のマリネがちゃんと美味しい店だよ。あの食堂の味気ないお粥じゃなくて」
—「君は食べる事しか考えていないのね」と十部は言った。特に非難するわけでもなく、むしろ、大地の行動に対して抱く、あの中立的な好奇心を込めて。彼女は彼の行動を完全には理解できていなかったが、とっくに彼を批判することをやめていたのだ。
—「俺はいつも食べることばかり考えてるよ、十部くん。それは生まれつきの資質であって、欠点じゃない。空腹の状態で考える男は思考が鈍る。そして、この仕事において思考が鈍った男は、結局殺されるか、それ以上に、自分のミスで他人を死なせてしまうことになるんだ。」彼は私の方を向き、疲れの中にもいたずらっぽい笑みを浮かべた。「キヨくんなら、それをよく知っているだろう? カオルコさんが君の生活習慣を正してくれるまで、君が三日連続で食事を忘れているのを、何度見たことか。」
—「正確な数は、あえて数えたくないな。」
—「ほらね。」
その瞬間、まるで会話そのものに呼び出されたかのように、竜橋が部屋に入ってきた。手にした食料のバスケットから漂う香り――焼き豚、生姜、そしてほんのりとした醤油の焦げ香――が、有賀の報告書の冷徹な雰囲気の後には、部屋を心地よい温もりで瞬く間に満たした。
— 「おにぎりも余分に買ってきたよ」と彼は言い、頭蓋骨の図が置かれていた机の上にカゴを置いた。僕は、誰かが不用意にその二つのイメージを結びつけてしまわないよう、図を慎重に片付けた。「店の人には私だと気づかれた――どうやら頻繁に通っているらしく、顔を覚えていたようだ。この仕事では決して良いことではないが、…でも、今さら習慣を変えるには遅すぎる。」
僕たち数分間、黙って食事をした。それは、長い間一緒に仕事をしてきた者同士ならではの、もはや言葉で埋める必要を感じないような独特の沈黙だった――その沈黙を破ったのは、箸の音と、一度だけ、熱すぎる豚肉で舌を火傷してしまった大地の、こらえた悪態だけだった。
—「君はいつまで経っても変わらないね」と、十部くんは、ほとんど愛情を込めて言った。
—「俺の舌はタイタン並みに鈍く、忍耐力はスズメ並みだ。この組み合わせのせいで、子供の頃からずっと苦労しているんだ」
—「軍事学校時代の君を見たら驚いただろうね」と、俺は淡々と言った。「食堂で二回も配膳係をさせられて、他の人が気に入らない料理は、その分を横取りしてたよ。玉門宮殿下でさえ、その被害を免れなかったんだ。」
十部はめったに見せないような大笑いを見せ、その様子に私たち全員、竜橋でさえも思わず笑みを浮かべた。玉門宮様は天皇陛下の弟であり、友人でもある。
一方、大地は私が今放った冗談をあまり快く思わなかったようだ。
—「おいおい、ちょっと待てよ! 殿下が獲物や禁断の果実のように見つめていたのは俺じゃないだろ」と、彼は憤慨した様子で言った。
僕は即座に顔を赤らめたが、表情を変えることも、戸惑っている様子を見せることもなかった。
—「とんでもない!」
—「いや、違うよ」
—「違うよ!」
—「まあ、少なくとも君には香織子さんがいるじゃないか」
—「それ、どういう意味?」と、僕は普段よりずっと顔を赤らめながら尋ねた。
—「いや、何の意味もないよ」と、大地は平然とした様子で答えた。
今度は竜橋が大笑いし、続いて大地も僕をからかって大喜びした。僕は咳払いをした。
—「どうせ、香織子は僕に豚カツなんて絶対に食べさせてくれないし」と、僕は懐かしさも悲しみも感じることなく言った。
—「それはどうして?」と、大地と十部が同時に尋ねた。
—「ああ、そうだね」と竜橋が言った。「回教徒は豚肉を食べないんだ。ところで、中佐どの、先生は今でもベジタリアンなんですか?」
僕たち三人は驚いたが、中でも一番驚いたのは僕だった。竜橋は確かに2~3年前、香織子の教え子だったが、そんな細かいことまで知っているなんて……
—「いや、実は……僕、そんなこと知らなかったよ」
—「ああ……そうですか」と、竜橋はがっかりした様子もなく、茶碗の中で箸をくるくると回しながら答えた。
—「ねえ、竜橋くん……」私は今までとは全く違う感情を込めて言った。「香織子と長い付き合いの君なら、僕たちの関係を良くするために、どうすればいいと思う?」大地はむせそうになり、十部は食べ物を吐き出しそうになった。
—「――お二人の関係は良好だと思いますよ。確かに先生は少しぶっきらぼうなところがありますが、銀の心を持つ雌ライオンなら、それも不思議ではありません。でも、中佐どの、せめて先生の文化や出身についてもう少し学んでみてはいかがでしょうか。先生は私たちのことはすべて知っているのに、我々は先生のことを何も知らないなんて、ちょっと……不公平じゃないですか?」
場内は静まり返った。
空気中の緊張を感じ取った竜橋は、自分の食事を終えると、彼特有の、冗談から全くの真剣な話題へと、一見何のつなぎもなく切り替えるやり方で、会話をより深刻な話題へと導いた。
—「中佐どの。報告書によると、会話を盗聴するために、もっと近くに配置されたもう一人の男がいると示唆されているとおっしゃいましたね。」
—「ああ。」
—「それなら、埠頭に戻るべきだと思います。今度は真っ昼間に、15日の夜、我々が状況を正しく観察することを妨げたパニックや暗闇を排除して。有効な監視位置を系統立てて探し、その地域の住民――港湾労働者、商人、夜警――に話を聞くのです。彼らは何かを目撃していたかもしれませんが、その時点でその重要性を理解していなかったのかもしれません。」
認めざるを得なかったが、それはまさに、過労気味の法医学者の報告を待つのではなく、カセの死の翌日から僕が自ら命じるべきだった手順そのものだった。
—「その通りだ」と僕は言った。「今日の午後、行こう。4人全員で。」
12月の午後の青白い光に照らされた7番埠頭は、僕が記憶していた、緊張感に満ちた夜の光景とは全く異なっていた。
少し離れた場所に係留された貨物船から、港湾労働者たちが木箱を荷下ろししており、彼らの叫び声や滑車のきしむ音が、この場所を日常の活気で満たしていた。それは、まるで不謹慎であるかのように、11日前にここで一人の男が亡くなったという事実を完全に無視しているかのようだった。
—「ここが加瀬が立っていた場所だ」と俺は言った。石畳の特定の場所を指さしながら――本来なら目に見える痕跡をすべて消し去っているはずの風雨にもかかわらず、そこはまだわずかに色あせていた。「そして、俺はここにいた。」
十部は一歩離れ、スーツ姿の二人の男が飛び出してきた路地を淡々と遡っていった。一方、大地は、普段なら食べ物以外にはめったに向けないほどの注意力を注いで、周囲の屋根をじっと見渡していた。
—「あそこだ」と彼はついに言い、我々の位置から約80メートル離れた、二つの倉庫の間の窪みを指さした。「裏側の作業用はしごからの入り口だ。ここから見えるのは、正確にどこを見ればいいのかを知っている人だけだ。」
我々ははしごを登った――その間、大地は錆びたはしごについて大声で文句を言い、これまで乗り越えてきた数々の困難を思えば、これほど馬鹿げていて皮肉な死を全員に招きかねないと脅していた――そしてその地点から、7番埠頭の景色が予想以上に鮮明に広がり、私は予想以上に背筋が凍った。
—「すべてが見える」と、竜橋は小声で言った。まるでその場所そのものが、敬意を込めた沈黙に値するかのように。「加瀬が立っていた正確な位置。君の姿。視力が良くて、唇の動きを読む練習を少ししていれば、会話のすべてがわかるだろう」
—「あるいは、十分に鍛えられた『神眼』があればね」と僕は言った。その言葉を口にした瞬間、その意味に気づいたのだ。「聞くためではなく――訓練だけでは到底及ばない精度で、遠くから唇の動きを読み取るためだ」
屋上に合流してきた十部は、法医学者の図面を精査したのと同じほど入念に、小さな足場の地面を調べた。
—「足跡です」と彼女は言った。「たった一人の人物が、しばらくの間じっとしていた――ここだけ他の場所より土が踏み固められている。これは、素通りしたのではなく、長時間同じ姿勢を保っていたことを示唆しています。」
—「どれくらいの間、と推定されますか?」
—「正確には言い難い。でも、土壇場での即興ではないほどには十分な時間だ。その人物は待つ必要があることを知っていて、それに応じて準備をしていた。」
我々は再び下へ降り、その後1時間ほど、その目立たない風貌にもかかわらず、最も用心深い人々でさえもなぜか不思議な信頼感を抱かせる竜橋の助けを借りて、この地区の商人や港湾労働者たちに聞き込みを行った。
彼らのほとんどは、不審な点に気づいていなかった――少なくとも、制服を着た警官に報告する価値があるとは考えなかったようだ。しかし、秘密保持が正直さよりも重んじられることもしばしばある港湾地区において、そのことは私にとって半ば予想通りのことだった。
しかし、我々の監視拠点があった倉庫からそう遠くない場所に店を構える、ある年老いた干し魚売りの女は、数分間、計算されたような躊躇を見せた後――それは本心からのためらいというより、交渉の準備だと我には見抜けた――ある細部を思い出して、私の注意を引いた。
—「ある男がいたのよ」と、竜橋がこっそりと彼女の掌に数枚の硬貨を滑り込ませると、彼女はそう言った。「数日前からこの辺りをうろついていて、7番埠頭の人の出入りを見張っていたけど、何も買ったり売ったりはしなかったわ。地味なスーツを着ていて、金持ちでもなければ貧乏でもなかった。特に印象に残ることはなかったけど…… 」彼女は目を細め、記憶を辿った。「いつも手袋をはめていたの。暖かい日でもね。その時は変だと思ったけど、港では変な人をたくさん見かけるから、結局何にも驚かなくなっちゃうのよ。」
—「手袋ですね」と我はその細部を特に注意深くメモしながら繰り返した。「他に何か覚えていますか? 顔や体格などは?」
—「ごく普通でした」と彼女は言った。その肩をすくめる仕草は、私がすでにこの組織の採用方法について疑い始めていたことを裏付けるものだった。つまり、他の基準の中でも特に、「決して目立たない」という能力で選ばれた男たちなのだ。「見終わる前に、もう忘れてしまうような顔ね。」
午後遅く、灰色の海面にすでに光が薄れ始めた頃、私たちは港を出発した。確かに答えよりも疑問の方が多かったが、同時に、その手法――単なる推論の力ではなく、忍耐強く体系的な「真の手法」――が、ゆっくりと、しかし確実に、依然として実を結んでいるという確信も新たにしていた。




