35- 仮面の男
掲載が遅れてしまい、誠に申し訳ございません
【石場 香織子】
私たちは木下尚江の家にさらに1時間ほど留まったが、彼はその日、それ以上話すことを拒んだ――それは頑固さからではなく、もし私たちがこれ以上しつこく迫っていたら、身体的に崩れ落ちてしまいそうなほど、彼が完全に疲れ切っていたからだと、私は感じ取っていた。
驚いたことに、清隆はそれ以上詰め寄らなかった。彼は、仕事ではめったに見せないような気遣いを示し、私たちがまた来るから、直江さんは必要なだけ時間をかけていい――とだけ言った。もちろん、事務所から課された期限の範囲内での話だが、彼はそれを口には出さなかった。
私たちは雨にずぶ濡れになりながら吉祥寺へ戻った。二人とも無言で、今知った事実の重みにそれぞれ心を奪われていた。
望はいつものように玄関で待っていたが、その夜の彼女の顔には、私が今まで見たことのない表情が浮かんでいた――抑えきれない緊張、ほとんど警戒心さえ感じられるようなその様子は、彼女の普段の穏やかさとはあまりにも対照的だったため、私は玄関の敷居で足を止めた。
—「お二人ともずぶ濡れですね」と彼女は、平常を装おうとしながらも、完全にはそのふりを果たせていないような声で言った。「さあ、中に入って。風邪をひく前に。」
彼女は小柄だった――それは以前から知っていたことだが、その夜、明らかにあらかじめ用意しておいた温かいタオルを手に、私たちの周りを忙しく動き回る彼女の姿を見て、そのほっそりとしたシルエットがこれまでとは違った形で私の目に飛び込んできた。62歳。何十年もの奉仕で背中はわずかに丸まり、仕事は手を歪ませてしまったが、それでも驚くほど器用で、顔には刻まれた皺があるものの、その下には、若い頃はさぞかし際立っていたに違いない、昔ながらの美しさがまだ残っていた。
その夜、彼女は濃い青色の作業着の着物を着ていた。袖は擦り切れていたが、いつものように完璧に清潔だった。
—「のぞみ」と清隆は、廊下の真ん中で立ち止まり、まだ半分ほどしか広げていないタオルを手に持ちながら言った。「どうしたんだ?」
彼女は足を止め、その躊躇いから、話すべきかどうか本気で迷っているのがわかった。
—「今日の午後、一人の男がやってきました」と、彼女はようやく口を開いた。「お坊ちゃんをお尋ねになりました。礼儀正しく。あまりにも礼儀正しく。」
—「どんな人?」
—「えっと……これくらいの背丈。坊ちゃんがいつも容疑者の特徴として挙げるような、暗い色の西洋風のスーツを着ていました。」彼女はエプロンの上に両手をぎゅっと握りしめた。「名前は名乗りませんでした。ただ、また来るから、そして『中佐さまの捜査が順調に進んでいることを願っている』と言っていました。」 」
廊下に凍りつくような沈黙が漂った。
—「脅されたのか?」
—「脅されたのか?」と私は尋ねた。6年間、私の実の養家族よりも温かく迎え入れてくれたこの女性に、誰かが――たとえ間接的であっても――危害を加えようとしたかもしれないという考えに、冷たい怒りが胸に込み上げてきた。
—「いいえ」と望美は言ったが、その声はわずかに震えていた。「直接的には。でも、あの話し方は…香織子さま。私はこれまで、礼儀正しく話しながらも、不適切な言葉を一言も使わずに、あなたさまがどこで寝ているか、何を失う可能性があるかを正確に把握していることを、さりげなくほのめかすような男たちを何人も見てきました。」
私は清隆を見た。彼の表情は、捜査の最も深刻な局面でしか見たことのないような、硬いものになっていた。
—「奴らは、我々の捜査が進展していることを知っている」と彼は、私たちに向けるというより、むしろ自分自身に言い聞かせるように言った。「そして、我々にもそれを知らしめたいのだ。」
望美はうなずき、少し躊躇した後、私が彼女からこれほど率直に聞いたことのない言葉を付け加えた。
—「お坊ちゃん。わたくしはこの家に三十年以上仕えてまいりました。様々なことを目にして、名前を耳にし、あなたさまがまだその存在すら知らないような秘密を胸に秘めてきました。もしあの男が戻ってきたら、わたくしはただ手をこまねいて、誰かに自分のすべきことを決められるのを待っているようなことはしません。」
—「望—」
—「いいえ」と彼女は、私だけでなく彼をも驚かせるほどの断固とした口調で言った。「お坊ちゃん、この家では皆を守っているけれど、自分自身は守っていない。時には、わたくしさえも守っていない。わたくしがただご飯を炊くためだけにここにいるわけではない、と誰かが思い出させる時が来たのです。」
彼女は返事を待たずに台所へと去っていった。その結果、清隆と私は、それまで一度も真剣に考えたことのなかった真実と向き合うことになった。それは、瀬川望みもまた、私たちがあまりにも頻繁に、彼女の礼儀正しい沈黙の中に押し込めていた重荷と過去を抱えていたという事実だった。
—「正しいよ」と私は静かに言った。
—「わかってる。でも、口に出しちゃいけない」と清隆は、まるで恥じらいのような重みのある声で言った。「わかってるんだ。」
私は彼を見つめた。その最後の言葉に、それまでのどんな言葉よりもさらに驚かされていた。
—「なぜ言っちゃいけないの?」
—「だって、もし望みに『君は正しい』って言ったら、この家のためにさらに大きなリスクを冒してもいいって、望みに思わせてしまうからさ」と、彼は疲れたような声で言った。「それに、たとえほんの少しでも、僕が反対していると思い込ませておきたいんだ。それが、次にうちのドアを叩く黒いスーツの男に、自分が飛びついてしまうのを防いでくれる唯一の理由だろうから。」
彼の言うことは間違っていなかった。そして、彼が正しいという事実が、私は嫌だった。
【勝清隆】
1891年12月22日(火)――市ヶ谷、第二局
僕は夜明けとともに、他の局員たちが目を覚ます前に、吉田大地と十部雀を呼び出し、木下宅で得た情報を彼らに説明した。
まだ眠気眼の吉田 大地は、広い額に一筋の髪が垂れ下がったまま、がっしりとした体格に腕を組んで、普段とは異なる真剣な表情で私の話を聞いていた。一方、窓辺に立つ十部は、早朝にもかかわらずいつも通り完璧にフィットした制服を身にまとい、いつものように正確にメモを取っていた。
—「『ハタ』か」と、僕が話し終えると、大地は繰り返した。「何世代も前に消えた『秦氏』のことか」
—「その通りだ」
—「そして、木下尚江もその一員だ。」
—「生まれながらの一員だが、氏から遠く離れた場所で、別の名前を使って暮らすことを選んだ」と僕は言った。昨日、自分のリビングで打ちひしがれて倒れていた、あの打ちのめされた男のことを思い返しながら。「つまり、我々が相手としているのは、単なる一人の男や普通の犯罪組織ではなく、一族全体であり、そこには反逆者もいれば忠誠者もおり、明らかに、自分たちを脅かす者を黙らせる独自の手段も持っているということだ。」
十部はノートから顔を上げた。
—「昨日、瀬川望みさんを脅した男。あの人も、その一族の一員だと思いますか?」
—「あるいは、一族から送り込まれたのかもしれない。」僕はこめかみを揉みながら、ここ数日蓄積された疲労がこれまで以上に重くのしかかっているのを感じた。「つまり、我々の捜査はもはや遠くから監視されているだけではない。我々の地盤で、積極的に妨害されているということだ。」
大地は立ち上がり、窓辺まで歩いて行き、この時間はまだ誰もいない訓練場をしばらく眺めていた。
—「キヨくん。」彼はすぐには振り返らなかった。彼の場合、それはたいてい、普段より慎重に言葉を選んでいることを意味していた。「事務所との契約期間はあと二週間だ。その大半をすでに費やしたが、木下を危険にさらさずに提示できる具体的な成果は得られていない。どうするつもりだ?」
認めざるを得なかったが、それは私自身がまだ満足のいく答えを見出せていない問いだった。
—「部分的な真実だ」と、僕はようやく口を開いた。「非公開の世襲制を基盤とする秘密組織で、禁断の魔法を売買し、秘密を守るために自らの構成員さえも暗殺する能力を持つ。調査を継続する正当な理由としては十分だが、機密保持に絶対の確信が持てない相手には、決して『ハタ』という名前を口にしてはならない。カルトだと言っておこう。」
—「もし事務所側がその名前を知りたがったら?」
—「それなら嘘をつく」と、自分でも驚くほどの冷たさで答えた。「なぜなら、この名前がこの執務室から漏れ出し、自分の管理外の誰かの耳に入ってしまう日が来れば、誰かが私たちの代わりにこの物語の結末を決めてしまう前に、何が本当に起きているのかを理解するチャンスをすべて失ってしまうと思うからです。」
十部はノートを閉じた。普段は表情を崩さない彼女の顔に、珍しく本物の不安が浮かんでいた。
—「中佐どの。他にも報告すべきことがあります」彼女はためらった。彼女にしては珍しいことだった。「昨夜帰宅した際、自分の住居の近くに誰かの気配を感じました。確証はありませんが――暗闇の中に人影があり、僕が近づくとすぐに消えてしまいました。しかし、吉祥寺で起きた出来事を考えると、職業上の慎重さゆえにこの件を黙っておくよりは、報告したほうがよいと思います。」
僕は、最も親しい二人の部下を見やった――その朝、がっしりとした体格の陰に、隠しきれない本物の不安をにじませていた大地、そして、普段は決して見せない恐怖の重みに、一瞬だけその几帳面な正確さが揺らいだ十部。
—「今日から」と俺は言った。「誰も一人で帰宅してはならない。君たちも、竜橋も、俺に同行している香織子もだ。あの家族は、俺たちがその事態に備える間もなく、一人ひとりの居場所を突き止められることを、今まさに示してくれたのだ。」
—「捜査はどうする?」と大地が尋ねた。「これでも、それでも続けるのか?」
僕は加瀬のことを考えた。人けのないホームで、彼が言いかけのままにしていたあの言葉のことを。そして、あまりにも長い間、一人で抱え続けてきた秘密の重みに押しつぶされそうになっている木下のことを考えた。そして、香織子のことも考えた。昨日の彼女の怒りの奥底には、もはや無視できない真実が潜んでいた。彼女を遠ざけて守ろうとすることは、彼女が一度は脱出したはずの閉ざされた環境を、ただ別の形で再現してしまうだけなのだ。
—「続けるよ」と僕は言った。「もっと慎重に。でも、続けるんだ。」
大地はうなずいたが、オフィスを出る前に、ドア枠に片手をかけ、敷居のところで立ち止まった。
—「キヨくん。最後にもう一つ。」彼はためらった。彼の場合、ためらうときは決して単純なことではない。「香織子さんに話すつもりか?誰かが、自分の家で香織子さんや望さんを脅したってことを?」
—「香織子『さん』、その場にいた。もう知ってるよ」
—「知ってることの話じゃない。これから、具体的にどうするつもりなのか、その話だ」大地は腕を組んだ。普段は軽やかな表情が、今だけは異様な重さを帯びていた。「『これからはもっと慎重に』なんて、ただのスローガンに過ぎないよ、キヨくん。計画じゃないんだ。」
僕はすぐに返答することができず、彼が部屋を去っていくのを見送った。その問いが、僕が望むよりもずっと長く、僕の頭上に重くのしかかり続けるだろうという、言葉にできない確信を抱きながら。




