勝利への突撃
「へぇ、そいつはおもしろい、
かは知らないけど、じっとしているよりずっといいや」
第六騎士団は突撃が売りである。
それを可能にするのは統率と速度。
大量であろうと漂う黄砂は痛くなく、
投げ付けられた小石ひとつでケガをする。
つまりは指揮官のもと全員が、テキパキ乱れなく動くのが本質。
陣を引き払い移動を開始するのもまた、目を見張る速さであった。
しかし戦場は大渋滞を起こしている。
突っ切って目的地に向かうのは現実的ではない。
というか物理的に進めない。
進めていたら、とっくに前線に参加している。
「迂回しよう。これじゃあ明後日の日が暮れる」
しかも彼らは東方方面軍の第六騎士団。
ベルノ城に集められて数ヶ月にはなるが。
指揮官エッシェンバッハ含めて、御殿の方へ入れてもらえる身分のものはいない。
誰も土地勘がないのだ。
人混みで一歩先もロクに見えないなか、たどり着くのは不可能だろう。
せっかくのチャンス。
急ぎたいのは山々だが、迷子になっている場合ではない。
第六騎士団は一度、南西の方まで移動した。
「道を開けろ!」
「なんだキサマら、敵前逃亡か!」
「違う! 作戦行動だ!」
こちらも後ろがつかえて、しかも戦場や目的地から離れる方向だが。
それでも最初の配置が後詰めだっただけに、正面を突っ切るより早い。
「急げよ急げよ。敵が盛り返すまえに行かなきゃならないんだ。
戦局と乙女心は、1秒ごとのカメレオン!」
「カメレオンってなんですか」
「長靴の南の島とかに、そういうのがいるらしい」
最初こそチマチマ進んでいたが。
指揮官は若く、騎士団も突撃一番で血の気が多い。
途中からは
『道を開けない方が悪い』
と、交通事故も辞さない勢いで突き進み、
「敷地内はどこもいっぱいだ。ここを通ろう」
回廊となっている城壁をルートに選んだ。
フューガ・フォン・ミュラーも言っていたように、御殿は城壁と近い。
やや遠回りにはなるが、道なりに進めば見失うことはないのだ。
「まさか馬上に慣れて、
『鎧を着ていると走れない』
なんていうヤツはいないな?」
「「「「「お任せください!」」」」」
「それでこそ第六騎士団だ。行くぞ!」
サッカーも
『選手個人個人で言えば、試合中のほとんどの時間は走っているだけ』
だとか。
意外と戦場もそんなものかもしれない。
敵とぶつかっている最前線はいざ知らず。
第六騎士団は見晴らしのいい屋上を延々と走り続け、
「団長! 見えてきました!」
「よし」
ついに城壁の北西エリアへと到着した。
北西エリアの奪還及び、御殿へ橋を架けたい味方。
それを阻止したい反乱軍。
熾烈な争いが繰り広げられている。
ここを救援するのも悪くはないが、彼らの目的は
「ここは味方に任せて、僕らは先へ進もう。
直接御殿を攻撃するんだ!
続け!」
そのまま一気に階段を駆け下り、再度庭へ出る。
が、ここも最前線ほどではないにしろ。
そこかしこで敵味方がせめぎ合っている。
「とりあえず順番に突っ込んで、場を荒らしますか」
「それもいい、けど」
突撃に必要な要素を前述したが、指揮官に関してはもうひとつ求められる。
確実に、効率的に突き破れるポイントを嗅ぎ分ける嗅覚である。
『虚実』と言って
『実 すなわち敵の備えの厚いところ』
を避け、
『虚 すなわち敵の意識が虚ろなところ』
を攻める。
特定の戦術に限らず基本であるが。
突撃は自ら敵の懐へ突っ込んでいく、捨て身の危険な作戦である。
特攻になりたくなければ、より卓越していなければならない。
そんなエッシェンバッハの目が捉えた『虚』は、
「あっちだ」
左手の奥の方。
敵味方や建て物の陰に隠れるようにして、
隙間のような抜け道がある。
そこが封鎖されていない。
「副官、地図を」
「は」
しかしそれであらぬ方向へ行ってしまっては話にならない。
土地勘もないので厳重にチェックを入れる。
「ふむ」
「どちらへ通じていましたか」
ギリギリ老境ではないくらいの副官が、聞きつつ地図を覗き込んでくる。
「そうだな、むしろこっちの方がおもしろいかもしれない」
「というのは」
「あっちは
別館へ続く抜け道だ」
「ほほう!」
副官は大袈裟に驚いてみせる。
「なるほど、
『目の前の本館より警備が手薄かもしれない』
ということですな?」
わざわざそうするのは、騎士団全体に首脳陣が考えていることを聞かせるためである。
目的が共有できていれば、集団としての突撃の精度が上がる。
なのでエッシェンバッハも大声で返す。
「それなんだがね。
今しがた地図で見たとおり、
別館は迷路みたいな庭園を抜けた、奥まった位置にあるだろう?
僕が反乱軍の指揮官なら、
両殿下の御座所含めた、本陣はこっちに置く」
「「「「「おお!」」」」」
彼の思惑どおり。
会話していた副官だけでなく、騎士団全体から声が上がる。
敵の本丸ということは、これを叩けば
『比類なき大手柄を立てる』
し、何よりそれは
『この最悪の内乱の終結』
を意味する。
彼らのなかにも、実は
『このままハインリヒが王でいいのだろうか』
『反乱軍が勝った方がいいのではないか』
そう考えている人はいる。
だが、ひとりで立ち上がれば潰されるのは目に見えている。
周りにどれだけ賛同者がいるかは分からない。
探ろうにも、こんな会話を聞かれて密告されたら死刑。
そうやって機会を逃しているうちに、
『もうなんでもいいから、とりあえず戦争が終わってくれ』
という心理状態になっている。
そのゴールテープが目の前に浮かび上がったのだ。
「行くぞ! 第六騎士団、続けぇ!!」
「「「「「おおおおおお!!」」」」」
先頭を走るエッシェンバッハ。
追い越さんばかりに追従する騎士団。
いまだ目標を視界に捉えずして、エッシェンバッハは
(今までの突撃のなかでも、最高のコンディションだ!)
背中で勝利を確信した。




