潮目を動かしたい
今回も私は先鋒隊。いつものいつもの。
なのだが。
「前衛と敵が衝突した模様!」
「うむ」
今回は先頭、一番槍にはいない。
騎士団の中段あたりでどっしり馬に跨っている。
『ついに指揮官としての慎みを覚えたのか』
って?
まぁそういうことにしてもいいんだが、
「あまり急いで突っ込ませるなよ。
将棋倒しにでもなったら、いつもより圧死者が増える」
鮨詰め状態の戦場なのだ。
私の巨大ハルバードを振り回すスペースがない。
敵と同じ数の味方をあの世行きにすることだろう。
誰かが死んで、その死体の上に平気で立って。
ようやくスペースが少し空くくらいの戦場。
暴発したらヤバいので、いつもはそこかしこで猛威を振るう火属性魔法も不在。
みんな槍や剣の縦振りでペシペシ叩き合っている。
あとはせいぜい弓矢で曲射。
見えてもいない後方の誰かに当たればいい、みたいな。
これだけ密集してりゃ、当たりはするだろうけどさ。
「どうですか団長」
「どうって」
「戦況」
いつも前線に出ているせいで感覚がマヒしたのか。
アネッサも頭が回っていないような会話の展開をする。
「まぁ、よくはないよな。
我々の目的は、敵が御殿へ攻めてこないよう押し込むことだ。
手っ取り早いのは宮殿を落として、段階を増やすことだが。
こうも一進一退だと、いつになるやら」
「確かに。でも膠着状態は作れているし。微マズ?」
「微マズかぁ」
そのへんの感覚はどうでもいいが。
何かこう、戦局が大きく変わるような何かはあるまいか。
うーん、おかしいな?
このベルノ城攻略戦が始まった当初は、
『ここからは時間を掛けてじっくり行こうじゃないか』
とかアンヌ=マリーと話していたはずなのにな?
気が付けば北西からの城壁突破とか、なんだかんだ毎回焦らされているぞ。
話が違うじゃないかよ。
「それに、あまりこっちが動いていないとな。
敵が別動隊に力を割けるだろう」
「あー」
城壁は回廊だからな。
ベルノ(都市)外郭の城壁と一緒。
先日攻略はしたが、完全支配はできていない。
別のところから回ってきた敵部隊と、またも占領区画の奪い合いをしているし、
これがもし敗れたなら。
オウム返しだ。
私がやったように、壁から橋を架けて攻撃ができる。
そしたら宮殿もまた、奪って奪られての繰り返しだ。
王族の方々は別館に入ってモミアゲ隊が警護しているとはいえ。
本館がやられていい理由にはならない。
まったく。
私がエポック・メイキングな策を思い付くジーニアスなファンタジスタであるのは仕方ないとして。
それが敵にも学びを与えてしまって、警戒せねばならんくなるとは。
なんという皮肉だ。
なんか東洋には、自分が作った法律のせいで車裂きになった政治家がいたそうだな。
とりあえず策の著作権と使用料の徴収を主張したい。
「いかんいかん」
「どうしたの急に頬叩いて。虫でも飛んでた?」
「いや、気を引き締めていた。動けんとどうも余計なことを考える」
アネッサも不測の事態より虫が頭に浮かぶほどだしな。
いやしかし、本当に何か起こってくれんと、このままではなぁ。
アネッサがあくびを噛み殺す。
「でもさぁ。
『余裕で受け止められてる』
ならまだしも、
『互角で膠着している』
じゃん?」
「『そもそも思うように動けん』
の可能性もあるがな」
「とりあえずそれなら、敵も拮抗状態を崩せないから別動隊に増援は出せないでしょ。
だったらいーじゃん。
両殿下が無事ならフューちゃんはそれでいいし、フューちゃんがいいなら私もいい」
「オマエなぁ」
そうは言っても、私がストーカー行為をやめろと言ってもやめんだろうが。
何が『フューちゃんがいいなら』だよ。
大体……
「ん?」
「どったの、フューちゃん」
「そうか、
拮抗状態、増援か」
ちょっと思い付いてしまった。
これはイケるかもしれん。
いや、だがさすがにリスクが大きすぎるか?
うーむ。
まずはアンヌ=マリーに相談してみるか。
いや、でも、この人混みの中、いつたどり着けるかも……
「どうしたのって」
「あ、あぁ、すまん。考え事を」
「指揮官が部下に説明せずひとりで納得してるの、よくないと思う」
ぐうの音も出ません。
まぁ今のはまだ結論出てないんだけども。
普段の傾向として批判されたんだろう。
「それにしても、よく策についてのことだと分かったな」
「独り言も出てたけど、そういう顔してたから」
「あぁ、
『表情筋の違いウンタラで分かる』
とか、(マジヤバいこと)言ってたな」
「うん! さっきのはエロ妄想してるときの顔じゃなかった!」
息の根を止めてやろうか。
リヒャルト・エアハルト・エッシェンバッハは、白十字王国東方方面軍第六騎士団団長である。
彼の部隊は精強、というか厳密には命知らずが多く、
『その突撃力を活かし、敵が崩れたら一気に蹂躙する』
という役割を任されて待機していた。
しかし、
「まだ掛かりそうだなぁ」
その『敵を崩す』がいまだ完遂されず、第二騎士団の後ろで暇を余儀なくされていた。
エッシェンバッハ自身に至っては、馬の上であぐらをかいている始末。
携帯食料のドライフルーツに手を付け、
『口の中のイチジクの種を、舌先でひと粒ずつほじくり出しては前歯で噛み潰す』
とかいう、この世で最も感情が昂らない遊びに興じている。
一応彼の名誉のために言っておくと、
『こうしないと歯のあいだに種が挟まってしまう』
とかではない。
まだ若いので歯がスカスカにはなっていない。
あとあのツブツブは厳密には種ではなく花である。
「まぁこの戦は基本こっちが負けているんだ。
下手に進んで展開が動くより、ずっと
『勝ちも負けもしない膠着状態』
が続く方がいいけどね」
「団長。人に聞かれたらマズい発言かと」
そんなこんなで手持ち無沙汰なニーハウスが前方を
『視界に映してはいるけど、脳が処理していない』
感じで眺めていると、
「第六騎士団! 指揮官はいずこ!」
背後から大声が聞こえてきた。
「はいはーい。ここでーす。僕でーす」
エッシェンバッハが振り向かずに右手を挙げると、
「パウル卿からの伝令です」
男が正面に回り込んできて、下馬する。
「現在前線では、お味方が少しずつ反乱軍を押しています」
「あ、そうなの」
「パウル卿は今が好機と見られています」
「じゃあ突撃かな?」
エッシェンバッハがあぐらから、しっかり馬に跨り腰を据えると、
「いえ」
伝令は力強く首を左右へ。
「『第六騎士団は別動隊として、御殿の方へ攻勢を掛けよ』と」




