城攻めにおいて、城攻めより重要な
皆さんこんにちは、フューガ・フォン・ミュラーだ。
実は今、私はとっても気マズい空気の中にいる。
今朝方、エレオノーラさまをハインリヒ陣営へお返ししたところ、
見事に拒否られて帰ってきたからだ。
あんなの、って言ったら悪いけど、それでも親子だ。
ドライになったり嫌いになったり呆れたり着いていけないと思ったり。
愛憎はあっても、やはり肉親の情があったらしい。
自分の倍くらいの年齢の女性が、実の息子に切り捨てられてガチ泣き。
リアクションに困る。
で、こうなったばっかりに一連の動きがアデライド殿下にバレた。
元レディ・ド・ブロイの部屋の中、
『なんてことしてくれたんだ』
って視線を向けられる。
今は場が場なだけに、声を上げてキレられはしないが。
あとあと何かあるかもな。
(おい。帰ってきちゃったじゃないか)
これは発案者のアンヌ=マリーに、小声でも抗議せねばなるまい。
隣で涼しい顔しやがって。
(えぇ。ハインリヒ相手に人質としては機能しないようですが。
それでも政治的に重要なカードです。
手放したくはなかったですし、戻ってきて得しましたね)
もしかして、この女。
(オマエ、こうなることを見抜いていたのか)
アンヌ=マリーはアデライド殿下にバレないよう、一瞬だけウインクをした。
(あのハインリヒのことですからね。
敵が
『あげる』
と差し出したものは、必ず天邪鬼で受け取りませんよ。
たとえ喉から手が出るほどに、致命的に欲しいものでも)
確かに言えているかもしれん。
街を焼いたりと、自分が得するかより
『相手が嫌がるか』
『意表を突けるか』
『自分を大きく見せられる威圧感があるか』
で行動している感じはあるよな。
そういう価値観だから王位にもこだわったんだろうし。
(さて、敵味方、諸問題に結論が出たことですし。
次からはまた戦闘ですよ)
その夜。
早速ハインリヒ側からの夜襲があった。
来るだろうとは思っていたが、
「連中を寄せ付けるな!」
厳しい戦いではあった。
戦力や勝ち負けというより、
「突撃! 突っ込んで掻き回せ!
連中に考えたり魔法を使う余裕を与えるな!」
今回、極力城を損壊したくない我々と違い、
連中はやりたい放題。
しかも王がハインリヒだからな。容赦ない。
倫理観のないトップはダルい面も多いだろう。
だがこういうとき
『勝つためならなんでもしていい』
っていうのは正直、現場としてはやりやすいだろうな。
たびたびアデライド殿下とせめぎ合う私たちとは対照的だ。
というわけで、四苦八苦しながら敵を足止めした。
火属性魔法で放火しようとするヤツ。
土属性魔法で倒壊させようとするヤツ。
いろいろヤバい場面はあったが、夜襲というのが逆に有利に働いた。
ひと晩明けて、アンヌ=マリーと見回ってみれば、
「軽微な被害で済んだな」
「夜でしたし、暗くて遠巻きからは正確に狙えなかったのでしょう」
「この程度なら、放置しても問題なさそうだな」
まずまず問題なく乗り越えたと言っていい結果だった。
兵員の被害としても、許容範囲内と言っていい。
勝敗着かず、いや、向こうの奇襲失敗。
着実な勝利をまた積んだ。
それ自体は朗報なのだが、
「だが毎回こうしているわけにもいくまい」
「おっしゃるとおりです。そのうち砂場の棒倒しになるでしょう」
「こちらから押し込むぞ」
「えぇ」
休む間もなく、次の戦場へと向かわねばならない。
「みっちみちだな」
「団長はムッチムチの方が好きですか?」
「カリカリのマッチョよりはそっちの方が頑丈だよな」
「ふむ」
「このタイミングで鎧新調せんならんほど太るなよ」
「でも常々、
『戦場で太れるのは才能だ』
っておっしゃってますよね?」
その昼。
ベルノ城の広い庭すら埋め尽くさんばかりに。
両陣営の軍勢が展開し、睨み合っている。
アネッサがムチムチになるかは自由だが。
今少しはスリムでいないと、戦に出られんかもな。
まぁ体型管理は個々人の裁量だからどうでもいいとして(そこまで管理責任にされたらキレる)、
攻められたくなければ、こちらから攻めるしかない。
建て物を破壊されては困るし、殿下たちの身も危ないからな。
だが攻められっぱなしじゃ具合が悪いのは、向こうも同じらしい。
さすがに城内に入られて反撃もできんのはな。
このまま次の拠点も取られては、あとがないわけだし。
何より苦境のときこそ士気が大事だ。
ここをおろそかにすると、敵にやられるより先に内側から崩壊する。
厭戦気分が蔓延して真面目に戦わなくなる。
それならまだマシ、逃亡者や内通者が出る確率も跳ね上がる。
戦とはひとりでできるものではない。
多くの兵士をまとめ、戦っていただいて初めて成り立つのだ。
そこんところ、ハインリヒは分かっていなさそうな感じするが。
とにかく、それを保つためには。
まず虚勢でも
『負けていない』
『戦える』
と味方にアピールする必要がある。
レフェリーにファイティングポーズを見せるボクサーみたいなもんだ。
そんな両者の思惑がぶつかって、庭にて擬似的な野戦が始まろうとしている。
「博打だな」
「決着するならね」
だがここで
『拠点の取り合いにはならないか』
と思うのは早計だ。
もし野戦で負ければ、当然逃げる羽目になる。
が、ここは城壁に囲まれた箱庭だ。
どこにも行く先などありはしない。
全滅するまで戦いが続く。
あるいは建て物内へ逃げ込むわけだが。
そのとき追撃されて、敵も中まで入ってきたならば。
どっちみち、その後殿下をお守りするのは厳しくなる。
「城攻めは失敗したら再トライすればいい。
だが、
今日だけは負けられんぞ」




