どうにも噛み合わせ
「さて、ここからが面倒だぞ、マリの字」
「なんなんですか、マリの字って」
皆さんこんにちは、フューの字だ。
『◯◯の字』ってあだ名はどういう由来なんだろうな。
あといつものノリで『こんにちは』って言ったが朝だ。
「それで、面倒とは何が?」
私とアンヌ=マリーは今、エレオノーラさまの部屋で話し合っている。
ここも寝室とリビングが分かれており、リビングの方。
うむ、さすがにこの椅子、座り心地がいいな。ベルベットか。
え?
『皇太后の部屋を使っていいのか』
『皇太后自身はどこへやったんだ』
って?
それはまぁ、いくつか事情があってな。
とりあえず皇太后陛下は別館へ移っていただいた。
平和だった頃、両殿下やレディ・ド・ブロイが住んでいたフロアだ。
え? 追い出し? 島流し?
違う違う。
攻略のときにも言ったが。
本館のこっちは壁から近い。
こっちが簡単に奪取できたように、逆襲もまた受けやすいということだ。
しかも宮殿の方とも廊下が繋がっているからな。
その点別館の方は、隔離され気味なのが功を奏した。
まずもって奥まった位置にある。
道筋も少なかったり狭かったり。
なんなら庭をグニャグニャ突っ切った方が早いまである。
非常にアクセスが悪く、攻撃するには大軍を展開しにくい。
私たちも本館攻略のあと挑んだが、若干メンドくさかった。
ゆえに、嫡流と庶流の住まいとか言えば格の違いは当然あるが。
防衛設備としての安全性で言ったら天と地だ。
だから両殿下を始めとするお偉方には、そっちに入っていただいている。
で、皇太后陛下の部屋を使うことに関しては。
うん。指揮所って分かりやすいところにないと、味方が困るからさ?
これでもドミニク殿下ご即位まで国王の部屋は空けているんだ。
最低限の体裁は守っている。
決して私がドアやら壁やら破壊したのを隠蔽しているのではない。
決して。
「あのー」
「あ、すまん、考え事をしていた」
「懺悔室によくいる、
『懺悔しに来たわりに言い訳をたくさん用意している人』
の顔をしていましたよ」
「細かい。神経質か」
「神経質な人の相手をしますからね。
そこはどうでもよろしい。
面倒とは?」
やっと本題に入れる(逸らしたのは私)。
「アデライド殿下だ」
「あぁ」
もう名前を出すだけで、大体の共通認識が通るらしい。
悪いことではない。それだけ殿下が一本気なのであるし、
それだけ大人は考えることが汚いって話だ。
「ハインリヒの母親を抑えたんだ。
おそらく殿下は交渉による和平を画策するだろう。
戦争の早期終結を狙って」
「でしょうね」
アンヌ=マリーの返事は脳を使っていないかのよう。
やはり
『考えるまでもなく当然』
としてお互いのあいだで共通している。
であれば。
この先の認識も同じはずだ。
「だがそれは、我々にとっておいしくない」
いやまぁ、問題発言という自覚はある。
しかしこれが、
「和平ともなれば、戦闘はここで終結だ。
ハインリヒを討つチャンスがなくなる」
「和平後に殺せば、我々が騙し討ちをした悪人になりますからね」
「だがヤツに生きていられては、都合が悪いどころの話じゃない」
これが内戦せし国の病理だ。
「兄を殺しても王位を手にし、
民を殺しても守ろうとする男だ。
生かしておけば、必ずまた災いを成す。
今回で確実に殺し切らねばならない」
『戦争継続』
『人の命を奪うのが最終目標』
倫理観ゼロの問題発言が、
『それを言わない方がバカ』
になってしまう。
「そも国民感情としては、火炙りにせねば収まりがつかないでしょう」
「手を差し伸べるポーズがあること事態、よく思わん人も多いだろうな」
そう、問題はそこなんだ。
『和平交渉をハインリヒが受けるかどうか』
じゃない。
そんなの私たちが言うまでもなく、皆さん
『応じるわけないだろ』
と予想がついていると思う。
そこで
『どうせ断られるんだから、殿下の好きにさせればいい』
とできないのが難しいところなのだ。
思うに、アデライド殿下には機械的なところがある。
『あれだけ情感豊かなのに』
『非効率な平和主義まで訴えるのに』
『困ったちゃんじゃないか』
『どこが機械的なんだ』
と思われるだろう。
だが、なんというか殿下は。
『善性や正しさは全てに通じる』
と信じているようなところがある。
だが人には、
『たとえ自分が損や被害を被ってでも、相手を不幸にしたい』
欲求もあるのだ。
ここで言えば
『ハインリヒに必ず死をもって償わせる』
といったものだ。
しかし殿下は
『終戦』
という
『優等生的で、教科書どおりな、最大公約数の幸せ』
をこそ肯定するだろう。
優しすぎるし、正しすぎるし、そこへ常に最短距離だ。
「どうしたものかな」
「さぁて」
アンヌ=マリーは気のない返事。
『この状況で身内の封殺を考えねばならない』
という俗世の愚かしさに呆れているのかもしれない。
「いっそミュラーさんは交渉ごとがお得意なようですし。
直接殿下をご説得なされては?」
「なっ!」
まさか、妹属性魔法のことがバレて!?
いくら軍事的な切り札になるとはいえ。
アンヌ=マリーとは個人的に友好関係であるとはいえ!
話したことはないはずだぞ!?
いや、コイツの目の前で使ったことはある。
フルール軍への演説だ。
あのとき、私がなんらか魔力を使っていたことは察知できたはず。
そのときに……!?
「冗談ですよ。そこまで驚かなくても」
「あぁ、そう」
なんだなんだ、セーフか。
危ないところだった。
ウソでなければ。
「それより、アデライド殿下のことが引っ掛かるのであれば。
考えがないこともありませんが」
「本当か?」
どころか暗雲から一転、光が差し込む。
しかし、アンヌ=マリーは渋い顔。
『非常に困難である』
とかいう困り顔より、
「なぜ私たちは定期的にアデライド殿下と対決しているのでしょうね」
「それはそう」




