街戦の苦楽
「始まったか」
前線に出て様子を確認したくなるが、ここは『待て』だ。
まだ接敵したばかり、くだんの狙撃に対する安全確保が済んでいない。
「団長、ステイステイ」
「分かっとるわ」
アネッサが私の肩に手を置く。
犬に犬扱いされるとは。
だがそれくらい私は
『指揮官たるもの、自分で見て自分で判断する』
を徹底してきたのだ。
「マリアンヌが上から見てるって。
普段不愉快なくらい信用しているんだから、任せたらいいじゃない」
「それはそうなんだがな」
思えば南方のころから、第四騎士団団長のころから。
味方が全然役に立たなかったんだよなぁ。
悲しい習性なのかもしれん。
ザウパーとかまだ生きているんだろうか。
とにかく、今の私はここでじっとしていなければならん。
前に出すぎると、アンヌ=マリーとの連絡が取れなくなるしな。
「で、君。敵の詳細は?
どのくらいの数で、
どういう装備で、
どういう待ち構え方で、
どういう戦術で……」
「え、ええと」
「団長のワーカーホリック」
結論から言うと。
戦闘は激化しなかった。
敵は小規模の部隊が、侵攻方向にある民家の陰から屋根の上に展開。
魔法や弓矢で奇襲を仕掛けてきたらしい。
が、味方が反撃すると、短時間撃ち合ったあと撤退。
それでこちらが進軍すると、また同じことの繰り返し。
1回10分にも満たないような戦闘が、何度も何度も展開される。
それでなお、合計1時間になったかどうか。
いかにも街戦の常って感じだ。
焦れったいが、ゆえに焦れったさを重ねて。
奇襲を警戒した行動。
牛歩になっても周囲を徹底してクリアリングすることで、
なんとか味方の被害は、限りなくゼロに近いレベルで抑えられた。
奇襲で出会い頭に数人持っていかれる、それが塵も積もれば……
みたいなのが困るからな。
目に見える、プラスの戦果は上がっていないが。
被害抑制において、一定の成果は出ていると言っていい。
その日は同じような流れがさらに2回発生。
運動量より神経が疲れる。
が、1日掛けて西区北西の一角の占拠に成功。
指揮官が入っても安全な区域を確保した。
そのなかから、おそらくまえもって引っ越ししたのだろう。
無人になっていた民家を拝借し、暫時の前線指揮所とした。
好調かは人の基準によるが、そつがない滑り出しと言えるだろう。
翌朝。
「ふむ」
「どう見るね」
「どう見ますか」
「私が聞いているんだよ」
また城壁の上に行き、アンヌ=マリーと敵陣ウォッチング。
イヤな日課になりそうだ。
鳥でも見てた方がマシだが仕方ない。
それより敵の様子だ。
無駄に鉢をまわし合っていると、
「ふむぅ」
先に答えたのはアンヌ=マリー。
「妙ですね」
「うむ」
細かい内容はまだ聞いていないが。
ファーストインプレッションは私も同じだ。
「敵の配置についてだな?」
「ええ」
「こちらは連中の配置をカンニングしている。
そして昨日はついに戦闘が発生した。
北西から私たち、西からオマエたち、南西からはモミアゲが侵入している
だというのに」
「前日と配置が一切変更されていない」
さすがにこりゃ変だ。
確かに私たちは敵兵より市民の配置を見てルートを決めた。
だから向こうからすれば、裏をかかれた感覚はないのかもしれない。
また、本命を北西と定めつつ、フルールの助功もあった。
両殿下のご座所を確保すべく、南西の区画も少し拝借した。
どこが激戦区となるのか、まだ読めていないのかもしれない。
だが、攻め手に動きがあったというのに、
敵は一切の対応をしていない。
兵を集めて壁を厚くするでもなく。
進路を予想し、左右に伏兵を用意するでもなく。
「どう思う」
「そうですね。こちらの傾向が見えるまでは、下手に動くべきではないと判断したか」
「あるいは、今の形の防御陣に絶対の自信があるか、だな」
「ですね」
そんな素晴らしい、というか、特別な陣には見えんがな。
そもそも少数でのゲリラ展開に有利なんだ。
『防御陣』って概念がない。
街全体が戦場で、その中に特別守るべき拠点があるわけではないのだから。
「『昨日の陣形と同じと油断させておいて、家の中や陰に伏兵を増やしている』
ということも考えられるか」
「『油断させておいて』のあとに言うことではありませんが。
その手は基本、昨日と同じ警戒体制で対応可能でしょう」
「うむ」
『案ずるよりも産むが易し』
なんていうと雑な指揮官になってしまうが。
お互いの見解が同じとなれば、これ以上『むむむ』とやっても変わるまい。
「では、そろそろ取り掛かっていただきましょうか。
我々は遠征軍ですから。
補給線は確保していますが、戦が長引いて有利になることはありませんし。
現地で物資を調達していいのなら話は別ですが」
「それは恨みを買うだろうなぁ」
アンヌ=マリー自身ゼネヴォンで
『占領された側が喜んで協力する』
悪魔のシステム(聖女)を構築していたが。
アレをするにはまず、この下町を攻略すること。
しかも腰を据えてやる前提だからな。
ちょっと今やってるタイミングじゃない。
じゃあ妹……いや、なんでもない。
何もコレといった手段はない。
真面目に戦ってさっさと連中に勝とう。
真面目に戦うっつってんだろ。
結論から言うと(2回目)。
展開は一切変わらなかった。
また散発的な攻撃を複数回受け、対応し、
お互いたいした被害がないうちに敵が退く。
で、味方が少し支配地域を増やして1日が終わる。
侵攻を抑えられているとも言えるし、着実に進んでいるとも言える感じ。
まぁこちらとしては停滞しているわけではないし、不具合は起きていない。
心配していた『市民が巻き込まれる』事件にもなっていない。
概ね問題ないのだが、
「……今日もだ」
「特に配置を変えてきませんね」
次の日も、というか連日。
あまりにも変わり映えしなさすぎる日々が続いた。




