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思わぬ再会

「やる気がないのか?」


 そう思われても仕方のない(てい)たらくだ。


 じわじわ、派手なことにはなっていないとはいえ。

 こちらは進んでいるし、街も占拠している。


 連中は押されているんだぞ。


 それも数日繰り返して、すでに半分近くが我々の支配下だ。


 しかし一切の対策がないとなると……


「いや、いっそ負けようとしているんじゃないだろうな?」


 なんて思えてしまう。

 普段の()()()()退いてしまう敢闘精神のなさも含めて。


「確かに、人並みの道徳心があれば、


『潜王に従っては戦えない』


 と考えるでしょうが」


 アンヌ=マリーもアゴに手を添えて思案顔。


 だが思案するということは、引っ掛かる部分もあるということ。

 それは私にもある。



「『そんな悪党に逆らったら、どうなるか分かったもんじゃない』



 ってか?」

「えぇ」


 アゴに添えた手の指先が、下唇を撫ではじめる。


「なお逆らう勇気があるのなら、


『潜王許すまじ』


 と謀反を起こした方が確実で安全ではありませんか」

「確かに」

「勇気の出し方が中途半端というか。フラフラしているというか。言行不一致というか。

 結局何がしたいのか分からない」

「オマエほど一貫したヤツも、人に求めるのは厳しいと思うがな」


 聖女サマとかいうおそらく最も思想の固まった人種はさておき。


「まぁ、いろいろ勘繰るのも無理はないがな。


『敵が低きに流れている』


 前提で物事を考え出すのは敗北の兆候だ」


 無闇に強大に考えるのも()()()だが。

 読み違えたときのヤケド具合が段違いだ。


「となると」


「『相手が意図的に、正しく計画に沿って動いている』


 その想定も必要だろう」


 ここでようやく、ずっと街を見下ろしていた二人の視線がかち合う。



「つまり、罠であると?」

「仮定した場合、今回の敵の動きは……」



「「『調整して誘い込んでいる』?」」











 その日は侵攻をやめ、占領区の徹底的なクリアリングに徹した。


 もちろん急ぎたい理由はたくさんある。

 モタモタしているデメリットもある。


 だが罠のリスクと天秤に掛けた場合、比べものにならない。



 だからその場合を考慮して、迂闊に踏み込むことを避けた。

 これなら多少の回避にはなるし、何より


 もし敵が本当に


『我々を誘い込んで叩く策』


 を講じていた場合。


『相手が動かない』

『誘い込まれない』


 ことこそが一番のエラーだ。


 となれば、方針転換する他はなく、


「明日、だな」

「ほえ?」


 明日城壁から確認して、ようやく敵が配置換えなんかしていれば。

 手の内は看破したということだ。


「明日、大攻勢でも仕掛けるの?」


 説明のないまま、独り言だけ拾ったアネッサが誤解している。


「いや、そんなんじゃないよ」

「じゃあなんなのさ」

「一応方針に関わることだ。誰が聞いているかも分からん状況では話せん」


 私たちは今、夜の街を馬で闊歩している。

 アネッサの他に部下が10人ほど。

 昼間のクリアリングの続き、というよりは、



「何かお困りごとはありませんか?」

「いえいえ、おかげさまで」

「些細なことでも、我々にできることなら()()()()とお申し付けください」

「お気遣い痛み入ります」



「ウチの兵士が乱暴狼藉など働いておりませんか?」

「ございませんよ。皆さんお行儀がよろしくて」

「市民に手を出したらば、即刻斬首と規律で決めています。通報にご協力ください」

「ひえっ」



「このたびは流れ弾で窓が吹き飛び、ケガまでなされたと。

 誠に申し訳ありません」

「いえいえ」

「こちら、賠償の金子(きんす)と傷薬です。

 あと、アデ……フレデリカ殿下より慰問の代わりにとお手紙が」

「もったいないことです」



 と、市民たちへの世話焼き、治安維持活動だ。


 戦争と選挙が一斉に起きているようなもんだからな。

 こういう草の根活動も欠かしてはならない。


 やれば支持が上がる

 かは分からんが、やらずに放置して事件を見逃したら、取り返しが付かない。


 市民が政権に求めるのは、何より多岐にわたる『生活の保障』だ。

 それをしないと見なされたとき、国家の崩壊が始まる。



 というわけで、指揮官自ら夜歩きだ。

 伏兵の警戒が、とか散々言ってきたが、こればっかりは私が出ねばな。

 クリアリングもしっかりやったしな。


 てことで次の民家。

 特に戦禍で崩れた様子はない。よしよし。


 キレイなドアをノックする。


「こんばんは」

『はぁい』


 中から出てきたのは、


「うおっ」


 馬ヅラ、無精髭の中年男性。

 なんか驚いた顔をしている。


「『うおっ』とは」

「あぁ、いや、ミュラー卿が、こんなところにいらっしゃるとは思わず」

「それは驚かせてしまいましたな」

「いやいや」


 だからってそんな動揺しなくても。

 玄関開けたら熊がいた、みたいな顔してたぞ。


「それでですね。夜分遅くに押し掛けて申し訳ありません。

 何かお困りごとなどございませんか?」

「いえ、特には、特には」


 というか、いかにも


『早く帰ってほしい』


 って顔だな。取り込み中だったか。


「分かりました。

 市民の皆さまには多大なご迷惑をお掛けしております。

 何か頼みごとなどございましたら、気兼ねなくお声掛けください」


「頼みごと、ねぇ……」


 ん?


 なんだ、今の顔。


『頼みごと』ってワードに引っ掛かって、何か想起したらしいが。

 なぜだろう。



 なんだか見覚えがある。



『頼みごと』、馬ヅラ無精髭、私に関わりがある……



 あ。



「では私はこれで。見回り、ご苦労さんでした」

「おい」

「はいっ!?」


 閉じようとしたドアに手を差し込み止めると、男は肩を跳ねさせた。

 おうおう、この怯えた態度も見覚えあるぞ。


「キサマ、



 ザウパーだな?」











お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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