征け戦士よ少年よ
「すでに何回か来たもんだが」
騎士任官や方面軍での武功による褒章。
晴れがましい場として来たこともある。
褒章と思ったら激戦区への配置換えだったり、政治や骨肉の争いに巻き込まれたり。
地獄みたいな場所だったこともある。
それでも、
「戦場として来ると、また違って見えるな」
「しかも守るんじゃなくて攻める側だもんね」
「白十字の騎士がなぁ」
距離にして1キロも離れていない位置にそびえる都。
見たこともない要塞に感じる。
今までは
『デカい城だなぁ』
『中はどうなっているんだ』
『どういう「人」や「出来事」が待ち受けているんだろうか』
って感じで、『木を見て森を見ず』でもないが。
そのものをしっかり見つめたことはなかったかもしれん。
それが今や、
『どう攻める』
『どこからの反撃が厳しそうか』
『どれくらいの兵が配置されているだろう』
なんていうような向き合い方をしている。
そりゃ別モンだ。
もっとも、
「『どうやるこうやる』はもはや関係ないがな」
私たちの配置は決まっている。
真っ先にベルノ都市部へ突入できる、
最初の攻防戦において、一番の激戦区となる、
西門前。
最も手っ取り早い方法としても、後続が続くためにも。
ただあの鉄扉をぶち破る
それしかない。
手綱を握る手から緊張が伝わるのか、乗っている馬も鼻息が荒い。
「まずフルール軍が動いて壁上の敵と交戦、少しでも注意を引き付けてくれる!」
背後で兵士たちに作戦説明がなされている。
こちらに背を向け、大声を張っている騎乗のはモミアゲだ。
今回は総力戦だからな。
アイツも『後方で殿下のお守り』ではなく、前線に来ている。
「通常の攻城戦と同じように、多少は魔法が使われることだろう!
しかし!
壁の向こうにいるのは同じ王国の、それも非戦闘員であり!
待っているのは私たちの未来である!
そのため、普段のように容赦なく地属性魔法で壁を崩壊させたり!
ゼネヴォンのようにひたすら獄炎でなぶり続けたり!
そういったことまではなされない!
これが意味することは何か!」
モミアゲが体は兵士と向き合ったまま、剣を抜いて切っ先を向けてくる。
私たちに何があるんじゃなくて、その向こうだろう。
位置をズレて、兵士たちに門が見えるようにしてやる。
もっとも堀に架ける跳ね橋があるので、直接は見えないが。
「我々がアレを突破するかどうかが、この作戦の成否に直結する!
また、壁の破壊で一気に多くを討ち取ったり、修理に手間を取らせたり!
こういった助攻も期待できない!
諸君らが経験してきた以上に激しい抵抗を受けることとなるだろう!」
あのモミアゲがマジになっているんだ。
兵士たちにもさぞ深刻さが伝わっていることだろう。
脱走されなきゃいいが。
「矢、魔法、石、油! 多くのものが降り注ぐこと必至!
しかし、我々はそれをくぐり抜け、
アレだ!」
モミアゲの剣が、今度は彼の正面へ向けられる。
そこにあるのは
巨大な丸太。
いや、騎士辞めて材木商になろうってんじゃないぞ。
「あの神の戦鎚、正義の鉄槌をもって城門を破ったとき!
その向こうで諸君らは、白十字王国万世の英雄となるのだ!」
アレを門にぶつけてブチ破ろうってハラだ。
『鉄鹿』の置き土産でぶっ飛ばしたらどうだ、なんて意見もあった。
が、ありゃ音が激しいからな。
私たちは不必要に市民を刺激してはならない。
そりゃ手も足も出なきゃ考えるが、
基本方針は市民も攻められ慣れている、安心と信頼の伝統的攻城スタイルだ。
『都の市民が攻められ慣れてるってぇ?』
とアネッサは半笑いだったが。
そんなことを思い返していると、
「おっ」
風に乗るまでもなく、ドラムの音が響いてくる。
くだんのフルール軍による攻勢が開始されるようだ。
連中の陣から、鬨の声をあげて集団が飛び出していく。
ハシゴを持っているのは陽動か、城門突破が失敗した際のサブプランか。
どっちかと言われれば、全賭けされない方が助かるが。
集団の中にアンヌ=マリーの旗印も見える。
左端に右向きで立つ少女のシルエット。残った隙間にびっしり讃美歌の歌詞。
もっとも、私の位置からは裏側の反転した刺繍が見えているのだが。
「指揮官のくせに結構前だな。狙撃されるなよ」
「それフューちゃんが言う?」
「あー?」
なんて、軽口で緊張を解していると、
「始まりますね」
不意に女性の声がする。
儚げな、でもそれ以上に緊張で強張った声だ。
そう、お守りのモミアゲが出てきているということは、
「無事で帰ってきておくれよ」
「もったいないお言葉です」
アデライド、ドミニク両殿下もいらっしゃっている。
鎧を着て(アデライド殿下は膝丈ドレスにブーツ部分だけだが)馬に乗って。
あとアデライド殿下は旗を持っている。重くないか?
「あ、どうかそのままで」
下馬してあいさつしようとしたら止められた。
であればお言葉に甘えよう。
「こういう言い方は、殿下のお好みではないかもしれませんが。
ここまで来たからには、死力を尽くして戦う所存です」
「存分に」
おぉ、アデライド殿下。私の騎士としての心意気を優先してくださるか。
全力で答えて見せねば女が廃るな。
なんて話をしていると、
「総員、準備せよ!」
モミアゲの大号令。
騎士たちが丸太にムカデの脚のように括られた縄を持つ。
馬の高さもあって宙吊りになったコイツを、
猛スピードで叩き付ける。
1回で無理なら振り子の要領で、何度でも叩き付ける。
そうやって門を破壊する算段だ。
東洋の宗教施設じゃ、鐘はこうやって鳴らすらしいな?
「では殿下。私も先頭の方に加わります。またのちほど」
死力は尽くすが死ぬ気はない。
一旦別れようと背を向けると、
「お待ちください」
アデライド殿下に引き留められる。
「なんでしょう」
振り返ると、アデライド殿下はドミニク殿下と向き合っている。
声を掛けられたのは私なのだが。
だが、そこには割って入れない空気感が生まれている。
「ジジ?」
「ドミニク」
ドミニク殿下の反応的に、何か二人で予定していたことではないらしい。
アデライド殿下は深呼吸をひとつ入れると、
ドミニク殿下に持っていた旗を差し出す。
「これは?」
「大事なことです。
行きなさいドミニク」
『行きなさい』
このタイミングで、それを渡して。
どこへと言ったら、ひとつしかないだろう。
あまりのことにドミニク殿下も目を丸くしている。
「危険っ……!」
アネッサが割って入るのを止めるのは私の役目か。
だってオマエ、見ろ。
あのアデライド殿下の、誰より悩んで覚悟を決めた瞳を。
アンヌ=マリーかと思うような炎が宿っている。
殿下は以前より、
『ハインリヒを倒したあとの王位は、争うことなくドミニク殿下へ』
と意向を固めておられる。
それを誰もが認める、押しも押されもしない確実なものとするために。
あえてドミニク殿下に、危険を冒しても実績を積むよう示されたのだ。
「フリードリヒ殿下……」
「えっ」
「なんでもない」
それをどこまで理解したかは分からない。
ただ、ドミニク殿下はアデライド殿下の瞳を見つめ返し、
「分かった。必ず帰ってくる」
自ら馬を、モミアゲの方へと走らせていった。
背中を見送るアデライド殿下は、
「ミュラーさま、トゥルネーさま」
こちらを見ずに、ポツリとこぼす。
「ドミニクを、お願いします」
王族として、逆に特別扱いをしてもらってはならない。
だが、ひとりの姉として弟を想う心をしまいきれない。
そんなつぶやきだ。
「アネッサ」
「はいな」
「予定変更だ。
死力以上を尽くすぞ」
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