いかに攻める
無事マルグリット殿下出家の儀式も終わったところで。
「さて、いよいよ本丸なわけですが」
その夜にはテーブルを囲み、作戦会議だ。
休む間もない、とも言えるが、
「神聖鉄血帝国撃退から今日で3日となります。兵士たちも身を休めたことでしょう」
そういう判定をする人間もいる。
「あのぅ、兵士はともかく、儀式の設営やら参列やらしていた私たちの休みは……」
おずおず手を挙げたモミアゲに
「指揮官が集中を切るな」
「あ、はいぃ……」
鋭い視線を向ける人間もいる。
全部アンヌ=マリーっていうんだが。
だがアイツも聖女の端くれ(聖女に端も真ん中もないが)。
慈悲の心自体はある。
「ですが、白十字王国騎士団の皆さま方におかれましては。
常に先駆けし、敵の懐へ飛び込み、凶なる役目をまっとうされてきました。
その疲労に関しては、我々フルールとは一段違ったものがあるでしょう」
「いやぁ、お分かりいただけますか」
「あなたではない。ミュラーさんに言っています」
「さいで……」
「息ぴったりだな。オマエらいい夫婦になるぞ」
「フロイライン!」
「冗談やめてください。彼からのアプローチが面倒だからって、私に押し付けようとなさるのは」
「えぇ!?」
「バレたか」
「ヒドい!」
モミアゲのせいで話がだいぶ逸れてしまった。
え? いらない口挟んだのは私?
モミアゲが悪いんだよ。
「ゔっゔん」
アンヌ=マリーが咳払いをして仕切りなおす。
「というわけでですね。よろしければ攻城戦、今度はフルール騎士団が先手を務めましょうか」
「ほう」
それは正直ありがたい。
願ってもない申し出だ。
普段なら。
モミアゲの目が私の方を向く。
いや違う。
正確には私の背後を窺っている。
そうだな。言っていなかったな。
普段会議をするときは、部屋を明るくして画面から
じゃない。
いつもはアンヌ=マリーのテントで行っていた。
実質本隊の指揮官だからな。
だが今日は違う。
テントの主たっての希望で、
アデライド殿下のテントで行っている。
そして本人は円卓に着かず、離れた位置から。
椅子に座って、会議を傍聴してらっしゃる。
というわけで、
「その場合、貴軍はどのような戦術を用いられる腹積りか?」
「急に改まった物言いですね」
「そうもなる」
殿下の前で迂闊なことは言えんぞ。
フルール側からすれば、格下の意向など気にしないのかもしれない。
殿下もベルノへ向かう東進の途上で、
『業は背負う。存分におやりなさい』
と宣言なされたため、気にすることはないのかもしれない。
それでも両者、外交問題には気を払ってくれよな?
だって板挟みになるのは私だから!
アデライド殿下の方は、ここまで一切言葉を発していない。
主張はしないが、気配を隠しているわけでもない。
言い換えれば
『ぶつかりには行かないが、ぶつかるのも辞さない』。
こりゃ板挟みどころか、馬車同士の正面衝突に挟まれてペシャンコだ。
勘弁してくれ。
それはアンヌ=マリーも分かっていないではないらしい。
一瞬だが、はっきり横目で殿下の方を見た。
それから静かに切り出す。
「順序立てて考えましょう。
ベルノは巨大な城塞都市です。
まず高い城壁があり、
その内側に都市が並び、
中心にベルノ城がある。
言い換えればまず攻城戦があり、
次に街戦があり、
最後にまた攻城戦がある。
これらを順番で攻略していくわけですが。
無論、手っ取り早く、かつ味方の被害を抑えるのであれば。
やはりここは城壁を崩し、街を焼くことになるでしょう」
言いやがった。
殿下の御前で。
いや、そもそも避けては通れない話なんだ。
『御前で言うな』
ではなく
『聞きたくなければ呼び付けるな』
だ。
にしても容赦がない。
「いつものように
『外側を炎で包んで降伏を促す』
じゃいけないのかい」
当の殿下は何も言わないものの、モミアゲが食い下がる。
しかしアンヌ=マリーだって快楽で街を焼きたいわけじゃない。
「難しいでしょう。
まず最初の、一番外側の壁を火で包んだとして。
遠いのですよね。ベルノ城。
そこから大都市を経て中心地にあるので。
正直圧力にならないでしょう。
特に相手はハインリヒ王。
『現場の兵士が』
『民たちが』
と不安の声が届いたとて、彼の心にまで届くとは思えません」
「うーむ」
今更言うまでもないが、モミアゲは優しい。
騎士として軍人として、いいか悪いかはさておき優しい。
同じ城塞都市のゼネヴォンがこの手で陥ちたのは、ひとえにコイツが指揮官だったから。
『これ以上の抵抗は取り返しのつかない被害になりかねない』
『これだけ萎縮した味方で継戦はできない』
と考えたからだ。
「それでも、城壁を持ち場とする兵士たちが降伏したとしましょう。
ですがベルノ城を威圧するには街が立ち塞がる。
複雑に入り組み、死角も多い街。
ここでゲリラ戦を展開されれば、こちらも苦戦は必至です。
でしたら、どうせベルノ城を火攻めにするのなら。
街を燃やした方が一石二鳥です。
燃やさず攻略したとて、のちの攻城戦で被害が出る可能性もある。
そうなると無駄に苦労し、無駄に浪費し、
無駄に味方を死なせたことになる」
極論でもあるが、数ある正論の中のひとつでもある。
どう反論したものか。
いや、反論ではダメだな。
説得とか擦り合わせだ。
向こうもフルール人として間違ったことは言っていないのだから。
拳が交差してもダメだが、話が平行線になるのも避ける。
面倒な……。
「しかし、そうも行きますまい」
お、セルフ解決してくれるのか。
「私たちは
『悪なる現国王を打倒し、新たな正しき政権を樹立する』
という題目を立てていますからね。
さすがに今回ばかりは、白十字王国民にとって邪悪な勝ち方はできません。
国の象徴となる都がボロボロなのもいただけませんしね」
なるほどな。
傀儡政権を作る側だからな。
下手すりゃ私たちよりよっぽど印象は気にするよな。
鉄血を打ち倒した今、以前ほどは急ぐ必要もないし。
初めてアンヌ=マリーと会ったのも、宥和政策で絡め取られたゼネヴォンだった。
「そういうわけですから、無体なことはしません。
お疲れさまでした。今回は安心してお任せくださって大丈夫ですよ」
聖女が微笑む。
だが。
その笑顔に偽りはないのだろうが。
そういうことであれば、
「いや、今回も我々に任せていただこう」
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