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血染めの正体見たり

 何度も言うが、そりゃ殺してやりたいのは山々だ。


 だが残念ながら、『鉄鹿』ひとり討ち取ったところで。

 決着がつくのは私の因縁だけという可能性は大いにある。


 大将を失った軍勢がどうするかは、基本3択だ。


 逃げる。

 投降する。

 次席の指揮官を立てて継戦する。


 だが、相手はあの神聖鉄血帝国。


『国家が戦争をする』


 どころか


『戦争が国家をしている』


 ような連中だ。

 上ふたつの案が採用されるとは思えない。


 それならよっぽど、アンヌ=マリーたちが言ったように。

 マルグリット殿下を攫った方がいいかもしれん。

 だが、ここまで来たら連中だと、


『大義名分を失った』


 も指揮官と大差ないだろう。



 ただまぁ、そのへんを抜きにしても。


「ミュラー卿ーっ!」

「司令官閣下!」

「何をしているんだーっ! 早くソイツの首を落とせーっ!」

「『鉄鹿』さえ()れば、我々の勝利は決まったも同然だ!」


 なるほど、それもそうだろう。

 ()が白十字の騎士たちが、大局眼を持っているのは喜ばしい。

 強敵『鉄鹿』がいなくなれば、火薬も将器も、もう怖いものはない。


 だが、君たちはいち兵士だ。

 戦場で今日明日の命を戦う存在だ。

 もっと近視眼的考え方をしてもいい。


 勝ち確となっただけであって、



 その後は結局、数万対数万の決戦だ。



 誰も楽勝とは言っていない。


 そうなると、大局眼としても。


 さらにその先で控える、ベルノ城攻略戦。


 消耗している場合ではない。

 つい熱くなって戦っているが。

 現状は、最も憎むべき敵であるハインリヒの、注文どおりの展開なのだ。


 だからこそ私は、



「ねぇ、お兄ちゃんにお願いがあるの♡」

「は?」



 コイツを殺してしまうより、最大限有効活用したい。


 その方法こそが、


「お兄ちゃんにしかできないことなの。


 白十字王国を救うため、ハインリヒを倒すためにはね?

 私たちでケンカしてる場合じゃないの。

 むしろ私たちで協力しないといけない。


 でも、お兄ちゃんにも立ち場があるから。

 それが難しいことなのも分かってる。


 だから、



 マルグリット殿下を私たちに返して、ここは手を退いて」



 我ながら無茶苦茶言ってるな。

 立ち場があるならコレも無理筋に決まっているだろうに。



 だが関係ない!

 洗脳だからな! 細けぇこたぁいいんだよ!



 だったら洗脳で協力してもらえば、と思うかもしれない。


 が、妹魔法の洗脳はそのうち解ける。

 それに今は『鉄鹿』が弱っているからこの手が使えるわけで。


 時限爆弾と(くつわ)を並べるより、少しのあいだでも退場しておいてもらおう。



「お願い! お兄ちゃん!」



 さぁ! キサマの命、生かす代わりに私が使わせてもらうぞ!



「き……



 急に何を言っているのだ?

 この身とぶつかった拍子に、頭でも打ったのか?」



 何ぃぃぃぃぃぃ!!?


「フューちゃん! 前!」

「はっ!」


 アネッサの声に顔を上げると、



 敵側ギャラリーの中から、小筒で私を狙っているヤツがいる。



「くっ」


 咄嗟に伏せた直後、甲高い火薬の()ぜる音が響く。

 だが特に痛みはない。

 外れてくれたようだ。


 ただ、


「ふっ!」

「ちぃっ!」


 馬乗りで掛けていた体重が緩んだ。

 さっきは観念したようなことをほざいていた『鉄鹿』も、ここは見逃さない。


 上体を戻そうとした力に合わせて、突き飛ばされてしまった。


 千載一遇の好機が!


「よくもやったな!」

「恥知らずの卑怯者どもめ!」


 しかも今の1発で味方に火が着いた。

 一騎打ちを見守る闘技場の雰囲気は崩れ、場外乱闘の大混戦が始まる。


 ずっと後方では、


「うおっ、地震か! いや、違うな」


 チラリと見れば、とんでもない大爆発、火の海、煙の塔。


 そろそろ私たち先行組に、背後から敵が追い付いてもいい頃合いだっだが。

 来ないのはアンヌ=マリーたちが暴れているおかげのようだ。

 その余波で、


「アイツ、火薬庫を吹っ飛ばしたな?」


 聖女ならもっと清貧な戦いをしろ。

 そう言いたくなるくらいにはカオスな戦場になってきた。


「待てっ『鉄鹿』! 逃がさんぞ!」


 だが私のやることは変わらん。

 混乱に乗じて馬へ向かう『鉄鹿』の背中へ切り掛かる。


 ヤツも振り返って対応し、鍔迫り合いになる。


「ふふふ、恐れをなして逃げるのではないぞ?

 ただ、先ほどのあなたがあまりにも(おぞ)ましいものであったからな」

「オマエの血染めメイクほどじゃないさ……!」


 しかし、今の発言も、さっきの発言も。

 間違いない。コイツ、



 妹魔法が効いていない!



 つまり。



 私は素面(しらふ)の人間に、ただただ気持ち悪い絡み方をしただけ。


 何を得ることもなく、敵に痴態を晒しただけェ!!



「キサマを殺して私も死ぬ!!」

「さっきと言っていることが真逆ではないか」

憤怒(ふんぬ)っ!」

「うおっ」


 怒りに任せて腹に前蹴り1発。

『鉄鹿』も半ば吹っ飛ばされるようにしつつ間合いを取る。


「おのれ、まだ疲労が足りなかったというのか」

「うん? むしろ先ほどの発言の気色悪さゆえに、凄まじく心身が疲弊したと自覚するが」

「二度と戦場に出られなくしてやる!」


 しかし、だとすれば信じられんスタミナだ。

 いや、スタミナの問題ではない。

 魔法を使ってこないということは、スタミナ自体は切れているのだから。


 さっき前蹴りしたときの感触もそうだ。

 体幹の力が弱い。

 あの細長い体の芯は、文字どおりヘロヘロのはずだ。


 さっきから()()()とばかりに煽るセリフも、だ。

 明らかに息は上がっていて、虚勢でしかない。


 いったい何が妹魔法を阻んだ。


 気合いと根性か。

 もとから異常者だから洗脳は効かないとかあるのか。

 実はコイツ大家族の末っ子で、私の大根演技を上回る妹力でもあったりするのか!?


 妹力ってなんだ!



 ん?


 妹力?


 血染めメイク……



 まさか。



「ていっ!」

「むん!」


 とにかく力任せの大振りを叩き込む。

 何発も何発も。


 やや大味な攻めだが、向こうも受けるだけで精いっぱいの様子。

 カウンターをする余裕がないというのもあるが、


 私が執拗に、『鉄鹿』本人ではなく剣に向かって打ち付けるからだ。


 目的はひとつ。

 だんだんと『鉄鹿』の構えを崩していき、


 ついに剣が正中線を離れたところで、


「はあっ!」

「うぐっ!」


 マントを外し、右手を包んで、



『鉄鹿』の顔面をつかむ。



「何をっ!?」


 当然腕を狙った一撃が来るので、素早く手を引く。

 頭蓋を握り潰すまではいかなかったが(そもそもできるか知らんが)、


「ま、まさかとは思ったが」

「なんでもアリとはいえ、無茶苦茶な攻撃をしてくれる!」


 マントで、頭から血を被ったような顔を拭うことはできる。

 その結果は、


「オマエ、その顔、



 ()()()()()、だったのか……」

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