卑怯とは言うまいな
おかしいと思ったんだ。
昼間の時点で、一切魔法を使ってこなかった。
最初は
『自陣だからか?』
とも思ったさ。
でもアイツ、大筒は平気でぶっ放したからな。
「これでも私もな。魔法使う機会があるんだけどな」
「それは騎士だからあるであろう」
あぁ、そういやコイツ、私の魔法事情は知らんのか。
そこはどうでもいい。
「しかも鑑定士お墨付きの、莫大な魔力量だったりするのだが。
それでも大勢に向けて使うと、それはそれは疲れるものだ」
「……」
私が何を言いたいか、『鉄鹿』も理解したようだ。
そのうえで分かる。
このリアクション、
図星だ。
「オマエの魔力量は知らんがな。
あれだけ連日大量の火薬を使って、
それをオマエが製造しているんだ。
さすがにもう、スタミナも底をついたんじゃないのかね?」
それがこの昼夜の一騎打ちで、一切魔法を使わん理由だろう。
誇りだとか舐めプだとかではないのだ。
クレッケル卿のことを考えれば、そういうことをするヤツではない。
だからどれだけ疲労していようと、アネッサに反対されようと、
昼に戦ってからの夜襲にこだわったんだ。
決して『鉄鹿』を休ませないために。
消耗を回復させないために。
「饒舌なオマエにしちゃ、反論はないようだな」
「……ふふ」
明らかに虚勢の笑いではある。
だが、いついかなるときも虚勢を捨てない戦士、嫌いじゃない。
ただし、
「……どうした」
「どうしたとはなんだ」
「なぜ下馬する。この身を憐れんで、条件を合わせてきたか」
「そんなんではないさ。ただ」
「ただ?」
「私の奥の手を使うには、こちらの方が都合いいってだけだ」
その虚勢すら張る騎士の尊厳を、
守ってやる義理まではない。
「はあっ!」
魔法もない。
馬にも乗らない。
体力も限界。
純粋な格闘戦なら私に分がある。
負ける要素は一切ない。
一気に間合いを詰めて、
「むっ!」
足元を狙った横薙ぎ一閃。
手に持った丸盾では防御が届くまい。
『鉄鹿』は大縄跳びのように跳ねてかわす。
これは想定内だ。
むしろそれでいい。
重い鎧と武器を装備して、飛んだり跳ねたり。
疲労はどんどん加速するだろう。
「ふっ、ふっ、せいっ!」
細かい突きを、上段中段下段、繰り返す。
これもダメージを与えるより、対応させて疲労を稼ぐ。
ここに来て武器の差が出たな。
こちらがハルバード1本に対し、『鉄鹿』は盾とランス。
『盾で受けてランスで返す』
という手数の多さで有利と考えたのだろう。
だが片手ということは、持てる重さに限度がある。
いかに『鉄鹿』が巨軀で大きめのランスを持っていようと。
私の両手待ちのハルバードには及ばない。
もうヤツに、間合いの不利を脚で詰めるだけの余裕はない。
騎乗していれば馬がカウンターの間合いまで詰めてくれよう。
それもない。
ゆえにこの展開を防ぐ手立てもない。
「おのれ!」
「む」
『鉄鹿』から魔力の高まりを感じる。
なけなしの、いや、限界を根性で超えて、魔法を使うつもりか。
だがクレッケル卿のときのように周到な準備があるならともかく。
苦しまぎれの爆撃なんぞ!
どうせ私を吹き飛ばしたり、礫を飛ばす狙いなのは分かっている。
ならば私の足元からヤツのところまで火種を飛ばせば、
「おわっ!」
「うむっ!」
簡単にヒット、暴発する。
さすれば
「しまっ!」
『鉄鹿』もバランスを崩す。
「そこだぁ!」
ハルバードももういらない。
たとえ鎧のボディに衝突しようと、盾を出されようと関係ない。
右肩を前に出し、思い切りタックルをぶつけに行く。
「がっ!」
重い1発が腹に決まる。
鎧の上からでも、衝撃が内臓に到達したようだ。
思ったよりは吹き飛ばせなかったが、『鉄鹿』の巨体が崩れ落ちる。
その方が都合はいい。
丸盾とランスを落とした隙に、とにかく遠くへ蹴り飛ばす。
そのあとはデカくて取り回しの悪いハルバードも捨て、
剣を抜いて馬乗りになる。
「ああああああ!!」
「『鉄鹿』さまああああ!!」
「助太刀を!」
「よせっ! そのまえに殺される!」
「おおおお!!」
「行ったーっ! やったーっ!!」
「殺れーっ!!」
「フューちゃああん!!」
両陣営からこの大歓声。
『鉄鹿』は目を閉じ、しばらくそれを噛み締めるように聞いていた。
が、やがて長いため息ひとつ。
「勝負あった、か」
感慨深そうにつぶやいた。
「慮外にも、多くを殺めた人生であった。
ふさわしき末路だろう。
無念だが、よろしく因果応報ある世の証明なら、晴れがましくもある」
慮外にはふたつの意味があるのだが。
コイツの性格上、どっちの意味でも言ってそうなところあるよな。
え?
『慮外は日本語だから、ゲイル語のオマエらにその概念はないだろう』
って?
まぁまぁ。
そんなことより。
「戦が長引けば、それにつれて被害も増える。
あとはもう、この身の首級をあげるがいい」
「少し黙っていろ」
首元に切っ先を向けて牽制しつつ、深呼吸だ。
「確かに。死に際し永久の無言となるところ。
名残りにベラベラとしゃべり尽くすのも浅ましく……」
「うるさい。死ぬのに満足するんじゃない。腹が立つな」
せっかくここまでやったんだ。
ここまで恨み骨髄なんだ。
ただ殺して終わるんじゃ埋め合わせにならない。
さぁ、いつもはイヤでイヤで仕方ないアレだが。
今ばかりは少しだけ、正直乗り気だったりする。
精神的マゾに目覚めたのかって?
安心しろ。そんな気持ち悪いことは言わん。
ただ、ここまで付き合ってくれた諸君なら分かるだろう?
アレだよ、アレ。
アレはさ、確かに私に無限の苦痛を与え、尊厳を奪い去る。
だが同時に。
思い出してみろ。
今までの数多いるアレの犠牲者たちを。
そう。
アレは、相手の尊厳をも破壊し尽くす。
やい『鉄鹿』テメェこのヤロウ、いちいち気高そうな口の聞き方しやがって。
所詮ヒトゴロシのテメェにゃまずは、
そのプライド踏みにじるところから始めてやっからなぁ?
おい、
「お兄ちゃん♡」




