100年目
来た!
ついに来た!
本日の最大目標がついに来た!
いや、違うな。
「来いっ! 『鉄鹿』ァ!!
今日こそ終わらせようじゃないか!!」
もっとずっとまえから。
私の運命をうろついて邪魔だった因縁を
仕留めるチャンスがついに来た。
「フューちゃん!?」
「さっさと離脱した方がいいんだろう!?
だったらさっさと仕留めてくるさ!」
「ちょっ! だからって突出しすぎ……!」
アネッサは止めるが、もう辛抱たまらん。
馬がどんどん加速していく。
いや、私がさせているのか。
副官の制止も聞かん、悪い指揮官になってしまった。
自分がフリードリヒ殿下に困らされていたくせに。
人は繰り返すものだな。愚かな生き物です。
だがこの世に戦争より愚かな行為があろうか!
だったら戦争を終わらせるべく走る私は、むしろ知的生命体。
「オラオラどけオラ!」
敵を蹴散らすのに終始していたハルバード捌き。
それ自体は変わっていないが、
どうしても興奮して力が増す。
スピードが増す。
方針はそのままなのに、明らか吹っ飛ぶ敵が増えている。
対する、『鉄鹿』直下の軍勢は、
「いいぞ、いいぞ!」
夜の闇でもよく見える。
松明や篝火の光で浮かび上がっている。
ヤツら、様子を見に来ただけではなく、待ち受けるでもなく。
こちらへ駒を進めている。
真っ向勝負だ!
「うれしいなぁ『鉄鹿』よ! キサマは嫌いだがうれしいよ!」
因縁の相手と真正面からぶつかれる。
それもうれしい。
決闘こそは騎士の華だ。
だがそれ以上に、
『その思惑が同じ』
『気が合う』
ということ。
これがうれしい。
不倶戴天と思っているライバル心。
熱い殺意。
これが私の片思いだったら恥ずかしいからな。
向こうからも憎むべき怨敵と思われていてうれしいよ。
また、いくら憎めども、クレッケル卿の仇といえど。
だからこそ。
そうなるほどのアイツは、やはり誉れある騎士だろう。
そんな相手に憎まれるのは、やはり騎士として栄誉あることだ。
「さぁ! どちらの首が勝利の膳に乗る!
どちらの血が美酒の盃に注がれる!」
哀れ跳ね飛ばされる兵士たちよ。
命は平等のはずだが、私には今や『鉄鹿』しか見えん。
君たちはただの障害だ。
これが英雄譚というものなのだろう。
であれば。
勝ちも負けも悲劇も全部、英雄たちが自らの命で贖おう。
だから君たちは安全なところで、終わるのを待っているといい。
命を無駄に捨てたまうな。
道を開けろ。
私のひと振りが何人目かの体を捉え、叩き伏せたとき。
「お」
馬がポッと人の海を抜けて、わずかな空白地帯へ飛び出した。
人の波という言葉もあるし、その波形の沈んだポイントとも言えようか。
海も波も見たことはないが。
それより、戦場でこんな人の切れ間があるときってのは。
大抵が部隊と部隊の隙間だ。
つまり、さっきまで戦っていた部隊を突破し、次の敵の前に来たということ。
で、その『次』というのが。
平地とはいうが、丘にも満たない起伏はある。
その、少しだけ見上げる角度の位置。
言うまでもなく
「待たせたな! お迎えに参上したぞ、『鉄鹿』ァ!」
ヤツの部隊、いや、
その先頭にいる、
「この身も、ここまで人に愛されることがあろうとは。夢にも思わなかったよ」
『鉄鹿』本人だ。
しかしまぁ、最前列で心待ちにしてくれて。
『女熊』と『鉄鹿』。
お互い犬でも猫でもないが、
殺し合いたくって仕方ない、って感じだな!
だがその一方で。
「なぁ『鉄鹿』よ。いい加減この遊びもオモチャも飽きてきただろう」
「確かに。そろそろ新しいものが欲しくなってきたところ。
そうだな、たとえば……
アデライドやドミニクといった、な」
「ほう。
いいのか?
オマエみたいなキャラのヤツが品のない煽りをしたらば、
『負けて死ぬ』
と相場が決まっているんだぞ?」
次はもう遊びたくはない、とも思っているわけだ。
「そうかね。であれば、そちらはずいぶんと私を買い被っている。
私は元より、ひと太刀あらば苦しめず終わらせられる命を
あえて火薬にて陶器がごとくに打ち砕く、騎士ならぬ鬼畜であるゆえ」
「そういえば赤のホースマンは『戦争』だったな」
「ならばそちらは『勝利』かね白十字!」
『鉄鹿』が馬に蹴りを1発。
大きく嘶かせたあと、
「『鉄鹿』さま!」
「手出し無用! ただ松明を持って周囲を囲み、戦いの場をふさわしく照らせ!」
単騎で坂を下ってくる。
左手に丸盾、右手に巨大なランス。
昼間の、その場で抜いた腰元の剣とは違い、準備された決闘仕様。
中断された一騎打ちの、第二ラウンドだ!
「はああああああ!」
「でああああああ!」
ならばこちらからも仕掛けよう!
今回は徒ではなく騎乗。
動きは速いが直線で自由度は低く、すれ違いざまに一撃の叩き付け合いとなる。
待つより突っ込んだ方が、威力が出て落馬させるのに有利だ。
「ふん!」
まず私から、相手の左肩を狙った45度からの袈裟斬り。
「ぐ!」
大きく振りかぶっての一撃は、難なく盾で受けられる。
と同時に、
「しっ!」
私の腹目掛けてランスが突き出される。
体を捻って回避するころには、馬が間合いを詰めてお互い追撃はできなくなる。
そのまますれ違って走り抜け、距離を取ってからUターン。
本来なら、このまま決着まで同じことの繰り返しになるのだが。
まず1合目の手応えをもって、冷静に状況を俯瞰したい。
向こうも同じ考えらしく、お互いの馬が止まる。
「「「「「おおおおおお!!」」」」」
戦場だというのに、『鉄鹿』隊の騎士たちが闘技場の観客めいた歓声を上げる。
一方で、
「団長ぉぉぉぉぉ!!」
追い着いてきたアネッサの絶叫も聞こえる。
まぁギャラリーは放っておけ。
私が気を割くべきは状況の分析だ。
さっきの一撃。
普通に見れば、盾とランスで手数の多い『鉄鹿』が有利か。
だが、
今ので私の中に、確信めいたものが湧き上がる。
「……勝った」




