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狙う2択は

 ナイチンゲールが鳴いている。

 頭上を飛んでったヤツもそうかは分からん。

 私が鳥獣博士じゃないから、というのもあるが、


 こうも暗くてシルエットではな。


 そう。

 私たちは今、夜のノエブリンガーを登っている。

 松明も点けていないので、月明かりしか光源がないんだ。


 もちろん楽しいハイキングとか牧場の夜間放牧じゃないぞ?


 ガッツリ軍事的な作戦行動だ。


 それも、


「フューちゃん。傷口開いちゃうよ?」

「どうせ数日じゃ変わらん」

「でも、


 ひと晩寝たかどうかは結構違うと思うな」


 さっきの会議が終わってすぐ。


「結構違うから『今』なんだよ」



 昼間には陽動作戦があったばかりだ。



「無茶だよ。みんな疲れてる」

「だからだよ」

「『敵もそうだ』ってもさぁ」


 アネッサが振り返る。

 確かに後続の騎士たちの表情は暗い。


 夜のせいじゃなくて疲労だ。

 

 昼間は筏だったおかげで、馬は元気そうに歩いちゃいるけど。

 歩兵は遅れていやしないだろうか。


「絶対ウチが一番疲れてるからね? 数も少ないのに」

「南方を思い出せ。いつもそうだったろ」

「でもフルールが一番楽してるんだからさ。変わってもらえばよかったのに。

 これじゃ傀儡政権ができるまえから下請けの奴隷労働だよ」

「イヤなら帰ってモミアゲと交代すればいい。

 私の顔より、オマエの撃たれた傷の方が重いし」

「それだけは絶対にイヤ!」


 コイツ、仲の悪い相手多いぞ。


 ひととおり勝ち抜いたあと、アネッサには悪いがあまり出世させない方がよさそうだ。

 下手に権力や身分を得ると、モミアゲと政治闘争をやりかねん。


 そういうのはフルールとの主導権争いが控えているんだ。

 身内は一枚岩でいてほしいもんだが。


「でもせめて、ユング通りから行けばよかったのに。

 いくらなんでも、登山より多少はマシだよ」

「平地より山手の方が、木が多くて見つかりにくい」

「夜襲かぁ」

「なんだよ」

「こんな疲労をおしてまでやるのが、

『敵を1発で叩きのめす秘策』が、夜襲かぁ」


 アネッサがため息ひとつ、天を仰ぐ。

 木々で月は()()()


 にしても、めずらしく露骨に反抗的だな。

 ……いや、めずらしくはないかも。


 ま、これが普通の反応するだよな。

 アネッサほどではないにしろ、会議のときのアンヌ=マリーも



「はぁ。確かに散発的な大筒よりは火力があるでしょうね。

 決まればね」



 ってリアクションだった。


『そんな手垢の付いた戦法で』

『まぁやるだけやったらいいんじゃないですかね?』


 って目をしてた。

 アイツ、めっちゃ目に感情出るよな。


 たぶん聖女だからだろうな。

 説法するとき、聖書の内容は誰が読んでも一緒だからな。

 顔とか身振り手振りや話し方で説得力出す、職業病かなんかだろう。


 その割に表情筋乏しいけど。


 それはさておき。


「なんにせよ、慈悲深い聖女サマが猶予をくれたんだぞ。

 夜襲でもなんでもシャッキリせんか」


 そんなノリでも許可してくれたのは、我々の必死さに免じてだろう。


『本当に夜襲が有用と思った』


 よりは、


『そこまで言うなら、マルグリット殿下爆殺を待ってやらんこともない』


 ってところだ。


 その代わりまた、先頭を行かされているんだがな。


 まぁそれはいいさ。

 なぜなら、



 この夜襲を真の意味で成功させられるのは、私しかいないから。



『ご苦労さまです』

『そちらこそ』


 ノエブリンガー山頂の陣に着いた。

 歩哨とアネッサがフルール語であいさつをしている。


 ここは篝火(かがりび)が焚かれていて明るいな。

 久しぶりに光を取り戻したが、


「眩しいな」

「このあとまた無灯火でコソコソするのにね」


 目が忙しい。

 ただでさえ軍人なんて耳を悪くするのに。

 最近は火薬の轟音で加速しているのに。


 老後に目まで悪化したらどうしてくれる。

 楽しみがメシしかなくなるだろうが。

 それも老ゼッケンドルフ卿が


『最近重い食事を受け付けない』


 とか嘆いてたの見ているんだからな!?


 まったく割に合わん稼業だ。

 とはいえ、それも全部


「今回も生きて帰れればの話だがな」

「急にどしたの」


 柵の(きわ)まで寄れば、


 眼下に見えるはブルーメ・ガトー。

 鉄血の陣。


 昼間ぶりだ。


 いや、命懸けで()()()()()生き残って、老後の楽しみもなし、か。

 本当にクソみたいな稼業だよ。


「向こうも景気よく火を焚いているな」

「『昼間の攻撃効いてないぞ!』ってアピールかな?」


「それと、勢力の派手さを見せつけ、籠城(がた)を威圧しているのでしょう」


「わっ」

「来てたのか」


 後ろから()()とアンヌ=マリーが現れる。

 聖女だからか、普通にしてると物静かで気配薄いんだよな。

 聖女に存在感ないのはダメでは?


「『相手を威圧し心を折る』


 なるほど、オマエのやり口と一緒だな」

「慈悲深いですね」


 いや、物静かではない気がしてきた。


 その証拠に、


「ということは、です。


 神聖鉄血帝国軍はすでに『ベルノ城攻防戦』を見据えています。


 意気軒昂(いきけんこう)


『我々との前哨戦に勝つつもりでいる』

『一切退く気はない』。


 どのようにして



『今回で勝負を決める』



 のか。

 お手並み拝見と参りましょうか」



 プレッシャー掛けやがって。

 一般修道女にもパワハラしてんじゃないだろうな?

 なんでも『主の試練』って言っときゃ許されると思ったら大間違いだぞ。


 言いたいことは山ほどあるが、今じゃない。


「アネッサ、『鉄鹿』の旗印を探せ。これだけ明るけりゃ見えるはずだ」

「『鉄鹿』?」

「大将の位置は味方から把握できなきゃいかんしな」

「いやいやいやいや」


 アネッサが顔の前で手を振る。

 同時に首も左右に振って、入れ違いに動いている。


「どうした」

「マルグリット殿下じゃないの? 居場所を特定して、泥棒するんじゃないの?」

「泥棒言うな」

「言葉の是非はさておき」


 アンヌ=マリーも1歩前へ出る。


「私も実のところ、そうするつもりなのでは、と。


 それなら大義名分を失った神聖鉄血帝国も退かせやすく、

 仮にそうならずとも、マルグリット殿下がいない敵陣なら平気で大筒を撃てる。

 なんなら私が燃やす」


「落ち着け落ち着け」

「落ち着いてはいます。

 では、なんでしょう。


『それより継戦能力の(かなめ)たる指揮官を討つ方が早い』


 と?」

「あー、まぁ、そうだな」


 そうとも言えるし、そうでないとも言えるし。

 そのへんの説明はややこしいし、


 何より、


「とりあえず、



 ミュラー・マジックをお見せしよう」



 今は味方とはいえ、あまり手の内を明かしたくはない。

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