その先を見据えて
さすがにモミアゲの表情も引き締まる。
ドバト並みにニブいヤツだが、ドバカではないからな。
「そ、それは」
「えぇ、問題があるでしょうね。
そちらには」
さらに賢い火の鳥は、当然分かって言っている。
それは、
「マリアンヌ卿。
それではマルグリット殿下の安全に差し障る」
モミアゲが顔色まで変わる。
そのままなのはモミアゲの長さくらいだ。
ノエブリンガーの敵が、陽動部隊の私たちへ大筒を撃たなかった理由。
そりゃ味方を巻き込んでしまうからだ。
それが今、
『敵陣に、味方どころか殿下がいらっしゃる』
という特殊な状況の私たちに突き刺さっている。
そう、
「しかし、果たしてそう問題でしょうか」
本当に、ミクロな範囲での『私たち』にだけ。
「どういう意味だい、マリアンヌ卿」
モミアゲもいまだにアンヌ=マリーは苦手なはずだ。
ボコられたし。
その相手に、譲れないとはいえ、
いや、だからこそデリケートな話題で喰らい付く。
少し見直したぞ。
が、逆に言えば、そうなるレベルの話題だ。
「マルグリット殿下は神聖鉄血帝国による侵攻の旗印。
これがなくなれば
『ハインリヒ打倒ののち、傀儡王朝を作る』
ということはできなくなります。
現状最も手っ取り早い、彼らを撤退させる道筋と言える」
アンヌ=マリーは淡々と語る。
政治闘争に魂を売った悪魔なのではない。
「むしろあのまま残られていると、殿下としての序列が上です。
こちら、両殿下の即位にノイズとなるでしょう。
もし譲られたとしても、
『王国の中枢に、帝国より恩を受けた者がいる』
というだけで具合が悪い。
両殿下を即位させた甲斐がないほどの干渉を受けるでしょう」
「だから、
『ドサクサに紛れて始末してしまえ』
と?」
「ええ」
彼女らにとって、マルグリット殿下など『他人』ですらない。
敵だ。
その末路に、一切の感情はない。
憎む理由もないだけマシなくらいだ。
いや、なんなら、
「それはいけない!
そんなことをしては、両殿下が民より
『自分たちの王位のためにわざわざ姉を殺した』
と謗りを受けることになる!
これは両殿下の政権安定にも差し障る!
君たちフルール側にとっても損な話ではないか!?」
「はぁ」
アンヌ=マリーの眉が少しだけ歪む。
『何言ってんだコイツ』
って顔だ。
「ですが、そうしなければ我々は次、
また正面から帝国軍と当たることになります。
小筒、大筒、大量の火薬。
そちらが待ち構える、殺しの坩堝へ。
試みに問いますが、
白十字軍だけで勝てますか?」
むしろ大いに感情がある。
ヴァリア=フルール王国の人間、
聖女として。
「それは」
「帝国軍はいまだ少なく見積もっても3万を軽く超えるでしょう。
対して白十字軍は、今回の損失の勘定も済んではいませんが。
1万は切っているのが実情でしょう。
勝てますか?」
「……無理だろう」
「ですよね。
ではその分戦うのは誰ですか?
当然、我々ヴァリア=フルールの兵士たちですよね?
弾丸の雨に身を投げるのは。
血を流し、命を懸け、失うのは」
アンヌ=マリーの体が薄青く光る。
オーラなんてもんじゃない。
薄っすら青い炎が漏れ出ているのだ。
「それを避けられる手段がある。
ノエブリンガーより大筒を持ってすれば、
正面より当たることなく敵を退けられる。
我が国民の命を守り、故郷へ返してやれる。
それをむざむざ捨てる価値が、マルグリットにあると?」
「むむう」
勝負あったか。
反論が可能かどうか以前の問題として。
いくら私たち白十字が先頭で命を張っているとはいえ。
そもそも勝負の土俵に立てているのは、フルール軍の後ろ盾。
おんぶに抱っこで同レベルの軍勢として、なんとか体裁が整っているからだ。
無理を言えん。
ここまでだろう。
「モミアゲ。気持ちは分かる。ご苦労だった」
「フロイライン」
しょげた肩をそっと叩いてやる。
いや、クビじゃないぞ?
選手交代だ。
ここからは私に任せてもらおう。
「アンヌ=マリー」
「はい」
「オマエの言うとおりだ」
「フロイライン!」
落ち着けってモミアゲ。
アンヌ=マリーだってバカじゃない。
「我々は鉄血を退けたあと、ベルノ攻略もせねばならん。
それを考えれば、損害を抑えるのは当然のことだ」
「私たちの感情論を抜きにしても、ですね」
ちゃんと理論で筋を通せば、話の分かるヤツなんだよ。
「だからこそ、考えてほしいことがある」
「なんでしょう」
「そうなると重要なのは、1回1回の損耗を抑えることもそうだが。
一番分かりやすいのは
『そもそも戦闘の回数を減らすこと』
だ」
「しかり」
「なんなら次で多少の被害を覚悟してでも、1発で連中を退けた方がいい」
「言うまでもないことです」
アンヌ=マリーの表情は動かない。
下手な敵より手強いまであるな。
「そう考えたときに、大筒はどうだろう。
当然相手を全滅させるまではできん。
弾も火薬も限りがあるからな」
「確かに」
実際、火薬はともかく大筒のデカい弾は多くないはずだ。
ノエブリンガーとブルーメ・ガトーで分け合って、すでに何発も使っている。
で、連中のベルノに来るまでの進軍速度。
予想とほぼ変わらない日数で到達できたわけだが。
当然その予想は、あんな重い荷物をドカドカ持っていない前提だ。
「そうなるとまた、ノエブリンガーを巡って血みどろの戦いになるだろう。
長引くとマズい。
こちらは火薬を補給できないが、向こうは『鉄鹿』が増産していくからな」
アンヌ=マリーの表情が少し強張ったか。
あるいは、戦い続けるとジリ貧になると知っていたから。
マルグリット殿下の首刈り論を向けてきたのかもしれない。
だとすれば、
「そこで提案なんだがな。
私に次で勝負を決められる策がある」
『その必要はない』と示せたなら。




