一時決着
「ふっ!」
もう一度横薙ぎの一撃を繰り出す。
今度は足元、脛の高さ狙いだ。
「はっ!」
『鉄鹿』は大縄跳びのような動きで回避する。
細長い手足なうえ、長躯を鎧で包んでいる。
さっきもパワーがあることに驚きはしたが。
身軽でもあり、それを可能たらしめる脚力もあるらしい。
そのまま『鉄鹿』が間合いを詰めてくる。
懐に入られるとマズい。
リーチがあるとはいえ、柄の部分は木製だからな。
相手が切り掛かってきたとき、刃同士のように受けられない。
で、逆に長い分、間合いに合わせて金属製の部分を使うのが難しい。
「でやっ!」
「むっ!」
空振った勢いでクルッと半回転。
柄の刃が付いていない方の先、石突で牽制の突きを出す。
当然鎧を貫通する威力はないが、『鉄鹿』の胸を強かに押す。
進もうとしていた勢いがつっかえ棒で跳ね返ってくるんだ。
ダメージというほどはなかったろうが、『鉄鹿』が反射的に飛び退がる。
よしよし。
間合い管理が難しいのであれば、重要なのは
『常にこちらの有利を押し付ける』
こと。
相手を懐に入らせない。
向こうは両手持ちのバスタードソードではある。
長くはあるが、所詮は剣。
槍の間合いには及ばず、そのなかでも私のハルバードは特別長い。
「一方的に攻められる、痛さと怖さを教えてやろう!」
相手の攻撃は届かず、ひたすら私の手数だけが展開していく。
あと、せっかく『槍斧』っていうくらいだからな。
もう半回転。穂先を向け、斬り付けはやめて突き主体に切り替える。
これなら大振りを外した隙に突っ込む、みたいなチャンスも与えない。
しかも起こりが小さく一瞬の技である突きは、回避が難しい。
穂先が自分を向いているだけで近寄りがたいはずだ。
近い=距離が詰まるほど、ただでさえ鋭い突きがより速くなるからな。
なんなら実際に突かなくとも牽制になる。
「そらそら、どうした! 元気がないな! 肋が治っていないのか?」
フハハハハハ!!
これだから近接戦はやめられん!
やっぱり魔法なんていらないんだよなぁ!
ん?
魔法?
そういえば
「フューちゃん!」
「おっと」
唐突に、思考の外からアネッサの声が割り込んでくる。
振り返って確認する暇はないが、
「「「「「おおおおお!!」」」」」
するまでもなく、味方が隣を駆け抜けていく。
「フューちゃん! もういい! みんな離脱に入ってる!
私たちも早く逃げよう!」
「しかしだな」
「しかしもヘチマもないよっ! このままやってると、今度は立て直した敵から追撃喰らうよ!」
「『しかし』はあるぞ。この身は『鉄鹿』」
「うるさいっ! オマエの話は聞いてないっ! ほら行くよっ!」
ふむ。
有利に一騎打ちを展開して、チャンスではあるが。
私が『鉄鹿』を討ったとて、そのあと共倒れになってちゃ世話ないからな。
今後の戦闘を考えたら、火薬製造機たるコイツは仕留めておきたい。
だが勝ったあとの白十字王国、両殿下の行く末を考えたら。
傅役として、ここで退場するわけにはいかんのだ。
よし。
「ていっ!」
「ぬっ!」
最後に1発、首狙いの横薙ぎ。
これを防がれたので最後。
「勝負は後日! 命拾いしたな!」
味方の流れに入って、私も撤退に移る。
対して『鉄鹿』は、
どうやら渾身の横薙ぎは、結構な威力があったらしい。
少し体勢を崩して、片膝をついている。
というのもあるとはいえ。
あと隙を狙って間合いを詰めることもなく、
三流の捨て台詞に乗ることもなく、
川を渡る最中に小筒や大筒を撃ってくる程度(じゅうぶんキツいが)。
執拗な追撃をすることはなかった。
バートリハイムに着いたのは日が暮れてからだった。
「ミュラーさま!」
「ミュラー卿!」
両殿下がわざわざお迎えにいらしてくださる。
がんばった甲斐を感じないではないが、以前
『ひとところにいて同時にやられるとマズい』
とおっしゃっていなかっただろうか。
「まぁ! お顔が!」
「この程度、騎士には逆剥けと同じ日常です。
それよりお預かりした軍勢、また少なくない数を失いました」
「ミュラー卿。それは無念なことだけれども。
まずは君のケガと命が無事であったこと、労わせてほしい」
「身に余る光栄です」
「とりあえず手当てをいたしましょう。こちらにいらして」
「いえ、もう血は止まっていますから」
「ダメです! 傷口を消毒しなければ!」
「ツバ付けときゃ治ります」
「じゃあフューちゃん、私が」
「来るなっ! 寄るなぁっ!」
チーム・カオスに捕まったか!
「あのっ! こんなことをしている場合ではないのですが!」
「いや、ミュラー卿の健康より優先することはあまりないと思うよ」
「そうだよ! この世でフューちゃんより大事なことある!?」
「いや殿下」
寸劇している場合ではないのだ。
私としてはすぐにアンヌ=マリーやモミアゲと図りたいことがある。
休むなら休むにしろ、わちゃわちゃせんでくれ!
「おやおやおやおや。孤児にお菓子でも配ってらっしゃる?」
「まぁフロイラインだからね。当然それだけの人気はあるさ」
「おお!」
やや遅れて、留守番のモミアゲと先に帰っていたアンヌ=マリーが現れる。
遅れてんじゃねぇよ。
「たっ、助けてくれ」
「そうか仕方ない。愛しのフロイラインをこの胸に抱き止めてあげよう」
「アンヌ=マリー! やっぱりソイツをバラバラにしろ!」
「私そんな暴力的な魔法してないんですけど」
「ウソつけ放火魔!」
「あ、もう助けない」
「うおおおおおお!」
オマエらまでフザけてる場合か!
「『さっさと会議を終わらせて早く寝よう』とか。
『体力を温存しよう』とか。
『少しでも回復に努めよう』とか!
そういうのはないのか!」
「微笑ましくて癒されましたよ」
「私!」
アンヌ=マリーのテントにて。
解放されるまで10分掛かった。
ようやくここからは真面目な時間だ。
「まずはミュラーさん、お疲れさまでした」
「こちらこそ協力感謝する」
軽いあいさつも終わったところで。
「さて。今回私たちは白十字王国軍の奮戦により、ノエブリンガーを奪取しました」
アンヌ=マリーがテーブルの上の地図を人差し指で叩く。
ここからが重要だ。
「同時に、配備されていた大筒と備蓄されていた火薬。これらも接収しています」
「心強いね!」
はしゃぐなモミアゲ。
なぜなら、
「私としましてはやはり、
これらを用いて、ブルーメ・ガトーの敵陣を叩くべきかと」
こうなるからだ。




