第一関門:上陸戦
敵は川筋から来ることを想定していなかったらしい。
配置されている兵も少なければ、臨戦体制で武装している様子もない。
陸戦となるとどうしても、水場を『足場』から除外してしまうものだよな。
だが白十字の土地を侵略するにゃ、ちょっと意識が足りなかった。
何せ『国土の4パーセントが湖や川』とか言われとるんだからな。
先日ノエブリンガーを攻めたことも効いているだろう。
脳内でこちらが攻めてくるルートを固定化してしまったようだ。
「魔法の火力に頼ってばっかだから、アホになるんだぞ『鉄馬鹿』ァ!!」
ま、それは私も人のこと言えないが。
とにかく幸いにして一番恐れていたこと、
“上陸した端から小筒で蜂の巣にされる”
という状況は回避された。
「隊長に報せろーっ!」
「鉄砲持ってこい!」
「増援もだ!」
今から準備しても、その頃にはこちらも防壁が築き終わっている。
「いいか! レンガを積むように交互に壁を立てろ!
屋根も付けろ! 山上から撃たれて平気なようにな!
味方の上陸もカバーする! 向こう岸にも高いのを立てろ!」
さて、誇り高い騎士たちに工作兵の真似をしてもらって。
それができない私はどうするかといえば、
「ちわーっす! ミュラー屋でっす!
勝手口から失礼しまぁす!!」
「うわぁ! 一人こっちに突っ込んでくるぞ!」
「近付けるな!」
「どうやって!」
「魔法使えるヤツはいないのか!」
「そういうのは前衛と山に行ってる!」
そのぶん一人で『騎士』やってやるさ。
まずはこの貧相な木の陣柵を、ハルバードの横薙ぎで
「オラァッ!!」
「うわあっ!」
「一撃で破壊しやがった!」
「なんてヤツだ!」
「くそっ、中には侵入させるな!
ありゃ女だ! 女一人、剣でじゅうぶんだろうが!」
「女? デカいハルバード?
もしかしてありゃ、『女熊』じゃねぇのか!?」
「なんだって!?」
「ダメダメダメダメ、ダぁメぇ〜。
熊を閉じ込めるなら、最低条件鉄の檻だよなぁ?」
「てことは、あの『鉄鹿』さまをブッ飛ばしたバケモノか!?」
「うわああああああ!!」
「無理だ! 剣じゃ無理に決まってる!」
「ムッティ!!」
では暴れさせていただこうか。
熊を解き放ってしまった代償ってことだ。
一応弁明しておくが。
私は別に近接戦闘の殺し合いを、趣味として楽しんでいるわけではないからな?
妹魔法に比べたらマシってだけだからな?
それに、味方が地属性で壁を作るのに集中させること。
突入できる風穴を広げておくこと。
さらには敵に防御を固めるチャンスを与えないこと。
どれも重要なことだ。
だからこれは趣味と実益……
違う違う。
実益100パーセントで、仕方なーくやっていることなんだ。
とはいえ、
「どらあっ!」
「グエッ!」
「シャイィヤッ!」
「ぎああぁ!」
「どうした! 次々キリキリ掛かってこんかぁ!!」
「む、無理だ! 近付くことすらできん!」
「下手に喰らうと、鎧の上から骨を折られるぞ!」
「逃げろぉ!」
「あっ、待て! 逃げるな!」
「どうせ残ったってムダだ!」
「なんだ、もう逃げるのか」
つまら、ゲフンゲフン。
もっと張り合ってくれないと、ノエブリンガー勢の注意を引けんだろうが。
追撃してもっと暴れ散らかしたいところだが、
「ミュラー卿! 壁の構築が完了しました!」
「うむ、いい出来栄えだ」
「味方も続々上陸しています!」
ここはしばらく待ちだ。
あまり深入りすると、さすがに囲まれて袋叩きにされるだろう。
筒持った連中もいるだろうし、あの世でクレッケル卿とペアルックになる。
殿下が悲しむし、モミアゲは悔しがるだろう。
モミアゲは別にいいか。
アンヌ=マリーは、
淡々と葬式されそう。聖女だし。
とにかく、命の張りどころと犬死にを間違えてはならん。
ここは味方が集まるまで待ち、足並みを揃えて進もう。
「いいか、少しずつ壁を増やしておけ。頭数が揃ったら一気に突入する」
「はっ!」
「だがあまり進めすぎるなよ。
先が見えんとこちらも危ないし、向こうから壁の内側に入られても困る」
とは言いつつも、迅速に進みたいところだ。
河原でモタモタしていると、大筒が降ってきかねん。
あとは厄介なヤツがいるしな。
いち早く敵の懐に入り込まねばならん。
「団長!」
「来たかアネッサ」
「そろそろ進みましょう。逆に河原で渋滞して、後続が上がれなくなります」
「分かった」
では仕切りなおしだ。
「アネッサ。着いてこられるか。脚が痛むなら無理をするな」
「あなたの隣が一番安全だと知っていますから」
「そうでもないぞ。
騎士団傾注!
先陣は私が切る!
建設部隊はそれに合わせて適宜壁を立てろ!
手間取るなよ!?
遅れたら私が蜂の巣になるからな!
逆に射撃は私に集中する!
地属性魔法を使わんヤツは、建設部隊を援護しつつ、安心して私に続け!
突撃!!」
前方の壁にはところどころ前へ進むための隙間がある。
そこを埋めるように、次の列は隙間の位置をズラして、
なんて組み方をしてある。
ジグザグに走らねばならんのは手間だが、仕方あるまい。
でもその方がいいかもしれん。
あまりホイホイ前に出られてしまうと、
「おっと」
こんな具合に、急に壁が間に合ってないところへ飛び出して、
「出たぞっ!」
「鉄砲隊! 狙えーっ!
撃ーっ!!」
「やったか!」
「煙で見えん」
「念のため、再装填を、へぐっ」
「おい、どうし、のあっ!」
「いやぁ、危ないところだった。壁が間に合ったか。ナイスセーブだ。
しかし、欲を言えばもう少しペースを上げてくれるかね?」
こういう目に遭う。
だが、一度撃たせてしまえばこちらのものだ。
「『女熊』だあああ!!」
「あの距離を一瞬で詰めてきたのか!?」
「人間じゃねぇ!」
「掛かれ掛かれ! 再装填には時間が掛かる!
死にたくなければ今のうちに皆殺しだ!!」
「「「「「おおおおーっ!!」」」」」
「うわっ! うわわわっ!」
「どっちつかずが一番死ぬぞぉ!」
そのピンチを、持ち主である連中こそが理解しているんだろう。
尚且つ脳を囚われてもいる。
ハルバードを振りかぶって迫る私に、
剣を抜いて抵抗すればいいのに、鈍器にもならん細い鉄棒を握ったまま。
いっそ退いて状況を立てなおせばいいのに、装填しようと立ち止まったまま。
何もできずに薙ぎ倒されていく。
「押し込めっ! 押し込めっ!
殺すだけでは目標が達成されない!
敵を押し込み前線を上げ、もっと陣深くへ浸透するぞ!」
初手の流れは取れた。
作戦どおりにことを運ぶスタートラインには立てた。
あとはこの勢いを存分に活かすのみである。




