川を下って河原へ抜けて
アルエ川、キャペリット橋。
舟はあまり調達できなかった。
まぁ橋があるわけだし、ワーレンも水運どうこうって街じゃない。
当然と言えば当然、アテが外れたとも思わない。
なんたってここは山が多い白十字王国。
そこら中に木が生えていて、このあたりも例外じゃない。
「いいか!
木を伐る係
縄を追加で調達する係
筏を組む係
に分かれて作業しろ!
時間は掛けられん!
効率よく行くぞ!」
我々が動かんことにはフルール軍も動けんからな。
すると敵への攻勢が遅れる。
遅れれば遅れるだけ、前回の敗退の印象が濃くなり
鉄血も『もはや敵せず』とベルノへ砲撃を開始するだろう。
妹魔法の効果か。
あるいは洗脳されてなお、勢いで取り組むしかない恐怖があるのか。
とにかく皆、テキパキと作業している。
「ふう」
下馬して、最初に切り倒された切り株へ腰を下ろす。
「しっかり休んで。少しでも回復しないと」
アネッサがドライフルーツを差し出してくる。
「すまない。本来私が座ってちゃ、示しが付かないんだがな」
「『指揮官が率先して末端の作業に加わる』
っていうのは美談で加点要素だけどさ。
必須じゃないし、やらないと減点でもないよ。
むしろそれで大事なときに体力が残ってなかったら、本末転倒だよ」
「うむ」
確か東洋の軍記物語にも似たような話があったな。
3つの国に分かれて戦争するヤツ。
ある国の実質トップが、部下に任せずなんでも自分でやっていた結果。
最後には正念場で過労死したんだったか。
妹属性魔法。
500人の騎士団、とかだったらあっさりいけてしまったりする。
大人数相手の演説も、そう見えて実際は前列の限られた人数だったりする。
だから私自身すら忘れがちだが。
ゼネヴォンのときのように大人数相手に使うと、
いかに私がババアお墨付きの魔力量でも消耗する。
で、得てして本人より、隣で見ているヤツの方が覚えている。
心配掛けたんだろうな。
「どんなに急いでも、30分やそこいらで仕上がるものではないだろう。
私は目に付かんところで仮眠をとる。準備ができたら起こしてくれ」
「分かった」
「午前中には出発したい。できるか」
「昼には割り込むと思う。
でも明るいうちにはフルール軍の攻勢まで繋げられるはず」
「そうか」
いっそ暗くなってからの方が奇襲にはいいかもしれん。
だが今度は私たちが逃げづらくなるからな。
こんな作戦立てといてなんだが。
我々はこの先、ベルノ城も攻略せねばならん。
ここで鉄血と刺し違えている場合ではない。
そのためにも頭はクリアにして、判断を間違えぬように。
ちょうど無人の水車小屋があったので、そこを借りて仮眠をとった。
「フューちゃん、フューちゃぁん」
「む……」
「うーん仕方ない。ここは目覚めのキスをしなければ。仕方ない仕方ない」
「やめんか……」
「チッ」
反射でなんとなく否定したが。
なんか今、重大な反逆罪が行われようとしていたような。
いや、まさかな。
どのみち今、優秀な副官を処している余裕はない。
私は何も知らん存ぜん。
「ふあぁふ、準備できたのか」
「いやぁ? まだかな? 寝てていいよ?」
「本当だろうな」
「準備できてます、はい」
重大な虚偽報告が。
コイツ、しょーもないウソつくときは視線が弧を描くんだよな。
向かって左から右へ、180度。
まぁいい。知らん存ぜんと言ったら知らん存ぜん。
「今どのくらいだ」
「太陽はまだ高いけど、ちょっとずつ西には行ってる」
「ふむ」
だとすれば急がんとな。
すっかり冬のような日の短さではなくなったが。
急流下りでの移動速度は未知数だ。
安全を気にして流れと格闘すれば、下手すりゃ徒歩より遅くなる。
「よし、今すぐ出発するぞ!
上陸地点はジェントレ通り!
準備ができてるヤツから次々行かせろ!」
「はいっ!」
さぁリヴェンジだ。
前回のはごあいさつにすぎない。
今回が決戦だ。
白十字王国は湖が多い。
今までの戦いや旅路でも、ちょくちょく出てきたからご存知と思う。
というわけで、それなりに舟や筏を漕いだ経験がある者も多い。
で、私は大将だ。
そのなかでも特別熟達した者が漕ぎ手に付けられる。
つまり、
「見えてきたぞ」
急流を乗りこなし、先頭で上陸地点の河原へ迫るのは私の舟だ。
「もうすぐ敵の死角からも飛び出る。心の準備をしておけよ」
もちろん危険ではあるし、指揮官が負うべきリスクではない。
だがひとつの命に対する危険は平等。
さらに、『そこへ行け』と私が命じたからには、
ここは『指揮官率先』。
アネッサは否定的だったが、やはりこれしかないだろう。
汗まみれの手のひらに、ハルバードの柄が主張する。
それに今、騎士団には妹魔法が掛けられている。
懐かしの第四騎士団を思い出せば分かる。
あのときも『十中八九死』な殿の厭戦状態だった。
にも関わらず、魔法で奮起しただけでなく、
私が先頭で敵へ向かっていくと、全員が
『妹を守れ』
と我先に突っ込んでいった。
陽動をするということは、相手の注意を引く衝撃がなければならない。
時間稼ぎをするということは、相手と互角に渡り合える実力がなければならない。
だが数では圧倒的に負けている。
ならばこの勢いを使わない手はない。
などと考えているうちに河原が目と鼻の先だ。
隣では私が乗っている以外の舟も足並みを揃えて進んでいる。
集まっているのは地属性魔法の上手たち。
妹魔法の汎用性あるのか発動条件厳しいのか微妙なところも大概だが。
地属性魔法の戦場での使い勝手よすぎるよな。
もう全部これでいいだろ。
あと火属性か?
水属性とか飲み水確保にはいいけど、戦闘始まると全然見掛けない。
いつか第一線を退いたら、騎士学校で論文でも書くか。
そんな明るい未来のためにも、
「もう浅瀬だな!」
「はっ! もうすぐ接舷……」
「任せる!」
「えっ!?」
舟を飛び降り、川の中へ。
膝までの水なら気にしている場合ではない。
「私に続けっ! 魔法で壁を作って味方の上陸に備えろ! すぐに新兵器の斉射が来るぞ!」
後ろを振り返っている場合ではない。
すでに敵陣は視界に捉えており、
歩哨かたまたまそこにいたヤツか。
目の合った敵兵が、何やら叫んでいる。
「突撃!!」
川面を血で染めるであろう激闘が始まる。




