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君のためなら死ねる

 テントを出ると、朝とはいえまだ薄暗い。

 東の空だけ夜明けが始まっている感じだ。


 そんな、誰でもまだ寝ていたいような時間に。


 すでに武装を済ませた白十字王国軍の騎士や兵士たちが、キチッと整列している。


 数は1万弱。

 先日失ってしまった分と、モミアゲが


『私は今回、殿下周りの旗本衆を務めるよ。

 だから残りは君が全部持っていくといい』


 とある程度の人数引き抜いたあとの西方方面軍全員だ。


「フューちゃん」

「うむ」


 立派でもないが、用意されたお立ち台。

 劇場の入口で客寄せパントマイムが立っているような、箱馬程度のもの。


 そんなのでも、壇上に上がれば視線が集まる。

 多くの緊張が私を見つめる。


 そりゃそうだ。

 軍隊に招集が掛かるときは、いつだって命の危機が始まる。


 だが、


「騎士団、傾注!」



「勇敢なる白十字王国騎士団の諸君!」



 これから告げる作戦は、その想像の数倍過酷だ。



「我々はこれよりバートリハイムを出発! アイアトン通りよりワーレンへ向かう!」


 兵士たちがザワザワしはじめる。


『方向が違うぞ』


 なんて声も聞こえてくる。

 敵が北東に対し、ワーレンは真北だからな。


「違和感を感じた者であれば知っているだろうが!

 その途上にはキャペリット橋が架かり、アルエ川がある!


 我々はそこで小舟を調達し、木を伐って筏を組み、



 アルエ川の急流を下ってブルーメ・ガトーへと侵入する!」



 おもしろいもんだ。


 ザワザワしていたヤツが黙り、黙っていたヤツがザワザワしはじめる。

 理解スピードに差が出ているし、


 気付いたヤツは、あまりの深刻さに黙るしかないようだ。


 それでもなお、脳内の予想と戦うのと、



「その際、上陸地点はちょうどノエブリンガーの麓の対岸となる!



 言うまでもなく敵中のど真ん中!

 二つの陣から挟み討ちにされるポイントである!」



 言葉にして、音にして、他者から与えられるのは違う。


「そして我々の任務は、むしろ敵の注意を引き付け、挟撃されることである!

 そのあいだに味方が山上の敵を奇襲し、陣地を攻略する!


 つまり我々は、その(かん)ひたすら敵の集中攻撃に耐えねばならない!」


 もはや聞こえる声は、単なるリアクションというより悲鳴に近い。


「敵陣であるため、砲撃や地雷の心配はない。そこは安心していい」


 なんて言ったって関係ない。

 もはや向こうが(すき)(くわ)の、百姓一揆装備でも負けそうなのだから。


「あの」


 私と向かい合っている最前列。

 そこから3番目、私から見て真正面やや右。

 ついに兵士の手が上がる。


「なんだ。発言を許可する」


 本当はしない方がいいかもしれない。


 何を聞かれるかの想像はついているし、

 答えれば士気が下がるのも分かりきっている。

 なんなら逃亡者まで出るかもな。


 だが黙っていて


『答えられないほどヤバい』


 と思われるのもよくない。


 地獄の底すら抜けたような現状だが、

 妄想でその2倍も3倍も恐怖を膨らませるヤツとかいるしな。

 個人がビビるだけならいいが、感染拡大したときには目も当てられん。



 なんてことを考える時間があるくらい。

 たっぷり迷ったあと、挙手した彼は切り出す。


「アルエ川から敵陣へ侵入、分かります。

 味方が山の敵を倒すまで耐える、理解はできます。


 では、全てが完了したあと、我々はどう退却するので?


 どう生還するので?」


 自分の発言で士気が下がることを考慮してくれたのかもしれない。

 もっと言うと、その罪で死刑にでもなることを恐れたか。


 安心しろ。

 私もモミアゲ以外にはそこまで鬼畜ではない。


 が、


「うむ。地勢上アルエ川からブルーメ・ガトーへは自然


『西から東へ』


 となる。

 であれば簡単だ。



 そのまま東へ突っ切る」



 戦場はそうもいかん。


 一人が質問で声を出したからだろう。

 兵士全体が声を出していい雰囲気になり、ざわつきが激しくなる。



「そのまま川下って行くってことか?」

「でも急流だぞ? あっという間に流れてって、陽動の時間が稼げねぇや」

「そもそも上陸って言ってたしさ」

「じゃあ敵中に入って、囲まれて、袋叩きにあって。

 そっから走って逃げるってことか!?」

「しかも東に行ったらまた、曲がってきたアルエ川が堀みたいにあるんじゃなかった?」

「逃げるのに川渡るのか!? 舟は捨てちまったあとだぞ!?」

「橋はあるけどさぁ」

「東洋の言う『背水の陣』ってヤツじゃねぇか!」

「学あるなぁ」

「言ってる場合か!」



 ついには会話がはっきり聞こえてくるほどにボルテージが上がっている。

 このままでは暴動


 とまではいかなくとも、やる気は失せ果て絶望に手足が脱力する。

 勝てる戦いも勝てなくなるだろう。


 だからこそ。



 だからこそ!



「ワクワク!」

「やめろアネッサ。オマエだけは殺したくない」


 期待するな!

 見せモンじゃねぇんだよ!

 いや、見せなきゃ意味ないんだがなぁ!


 アネッサは何が楽しくてこんなもんに期待しているんだ。

 私は何が悲しくて自分の尊厳を捨てて掘り起こしてまた埋めるんだ。


 ふざけるな! ふざけるな! バカヤローッ!!


 いっそ脱出などせず、私も目撃者も全員アルエ川の魚のエサにしてやろうか!


 いや、落ち着け。

 こうなるのも全部、鉄血どもが攻めてくるからいけないんだ。


 恨みは味方に当たるんじゃなく、連中を叩き潰して晴らせ!

 あと鑑定ババア!



 だが、それをするには、やはり。


 あぁ、チクショウ。

 こめかみが痛いのは血圧か? 歯を食いしばりすぎたからか?


 明らかにコレを使いはじめてから、心身に健康被害が出ている。

 マジでいい加減にしろよな。



 あとな。普通にこの人数だぞ。

 どれだけ魔力を使うってんだ。


 これから出撃するんだぞ。

 いらん消耗をさせるんじゃない。

 ブチ殺すぞ。

 誰をだよ。



 殺す相手を探している場合ではない。

 答弁が遅れれば、兵士たちの恐慌が悪化する。


 ここは意を決して!

 こめかみから吹き出そうな血の代わりに魔力を放出して!


「でもっ!



 お兄ちゃんお姉ちゃんたちならできるっ!!」



「きゃーっ♡♡♡」


 うるさい黙れアネッサ声帯を素手で引っこ抜くぞ。


 そのアネッサ以外がピタッと黙るのは、唖然としたのか洗脳が染み込んでいく過程か。

 とにかく黙っているあいだに畳み掛ける!



「確かに大変なことだと思う!


 でも、急流の先には味方の勝利がある!

 その先にはこの戦争の勝利があって、白十字王国の未来がある!


 それを、騎士であるお兄ちゃんお姉ちゃんたちが切り拓くの!


 国家のため、殿下のため、国民のため、

 家族のため、恋人のため、友だちのため、



 私のために!



 お願いっ!

 勇気を出して! 力を貸して!」



「……お、



 うおおおおおおおおーっ!!」


「やってやろうぜぇ!」

「かわいい妹が安心して暮らせるように、いっちょ連中叩き潰してやるかぁ!」

「妹の幸せを作ってやるのが、兄の願い兄の義務ってもんよ!」

「腕がなるぜぇぇぇ!!」



「ありがとう!

 よぉし、



 行っちゃえお兄ちゃんお姉ちゃんたちーっ!!」



「「「「「おおおおーっ!!」」」」」



 何人逝くかは知らんがな。

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