全て揃う
と、迂遠な言い方を重ねても伝わらないだろう。
今通じてないんだから。
だからリアクションとか無視して、話を進めてしまおう。
「今回の遠征において、殿下は市民に被害が出ることを許可なされた。
それにはもちろん、
『そうまでしてでも勝たねばならない』
『致し方ない』
という面もある。
だが殿下は、もうひとつ重大なテーマを語られていた」
「『ドミニク殿下のために全ての汚名を被り、序列を付ける』
と」
「そうだ」
アンヌ=マリーの言うとおり。
殿下め、地獄みたいなことを考えるもんだ。
地獄みたいな戦をするからなんだが。
「だが考えてみてほしい。
モミアゲ。オマエはさっき国民感情の話をしたな」
「あぁ、まぁ」
「じゃあオマエ、
『必要だから』で街を、暮らしを、場合によっては大切な命を。
焼き尽くされて許せるか?」
モミアゲの目が少し大きくなる。
散々議題に挙げていても、今一度自分ごととして考えたら変わってくるよな。
ショックを受けた頭に筋道を通すように。
モミアゲは人差し指で右のモミアゲをなぞる。
「だから、アデライド殿下がドミニク殿下の代わりに背負われるんだろう?
ドミニク殿下が瑕疵なき王として即位できるように」
「うむ。では問い方を変えよう。
全てを燃やされたオマエは、
殿下がどう責任を背負われたら満足できる?」
モミアゲをなぞる指が止まる。
そう、止まる。
行き止まりなのだ。
「なら私の場合を言おう。
正直、殺してやらねば気が済まん。
それが感情だ。
で、だ。
それでアデライド殿下が王位に就けないのは当然として。
ドミニク殿下が即位なされ、戦後処理を始める際に。
うむ。
やはり私としては、
戦争犯罪者に正しい刑罰が下らなければ、新しき王も受け入れられん。
これも感情だ」
「つまり」
今まで薄く焼き討ち推しだったアンヌ=マリーも、さすがに眉根が険しくなる。
「そうだ。
殿下ご自身がどこまでお覚悟なさっているかは分からんが。
それをやってしまった時点で、アデライド殿下はもう終わりだ。
十字架に架けられたに等しい」
私には到底受け入れがたいことだ。
先王との約束もある。
ここまでお仕えしてきた臣下としての愛着もある。
思えば初めてお会いした日から。
最初は鬱陶しいと思うこともあったが、
洗練された上級国民しかない社交界で、
戦場上がりの野良犬みたいな私を悪い目で見ず、よくしてくれた。
もちろん
『家族仲をまとめるために協力してほしい』
という目的もあったが。
あれから今日に至るまで、ずっと私を信じ続けてくれた、
人同士の交流としての情がある。
「今までもそうせねばならん状況はいくつかあった。
だがオマエたちの協力もあって、なんとか回避してこれたんだ。
殿下がドミニク王誕生のために身を退くなら、他にいくらでもやり方はある。
だから私はな。
戦略として正しいとか、統治者として正しいとか、政治的に正しいとかどうでもいい。
ただ私のエゴと感情として、
このままアデライド殿下が、平和で安全に過ごしていける道を選びたい」
言うべきことは言った。
ふーっと深い息が抜けたのは、話が終わった合図か、栓が抜けたか。
自分でもいまいち分からない。
だが、そんな感じでも、
アンヌ=マリーとモミアゲは顔を見合わせ、
「まぁ、先手は何より勢いが大事。その大将がおっしゃるのですからね」
「フロイラインが殿下の騎士を全うするなら、僕がそのフロイラインの騎士となろう」
笑った。
変な理屈よりよっぽど、二人にも分かりやすかったらしい。
かくして
『ヴァリア=フルール王国・白十字西方方面連合軍』(長い)
は神聖鉄血帝国軍を待ち受ける方針をとった。
「フューちゃあああああん!!」
「鎧を着た体で飛び込んでくるな。普通に質量兵器だぞ」
すると当の鉄血どもより先にアネッサとドミニク殿下の後衛が到着。
私たちも
「ジジ。まさに快進撃だったね」
「全部皆さまのおかげよ。でも、
私に任せておいて」
両殿下も久しぶりの再会となった。
ちなみに、その間
「出てこないね」
「偵察も初日に遠くから覗いてきたくらいだ」
「やっぱり自分たちで追い払う気はないっぽいね」
「やはり私たちと鉄血でやらせて高みの見物、あとで漁夫ろうってワケだ。
シャクだが乗ってやろうじゃないか」
白十字王国軍、ハインリヒ王の手勢が仕掛けてくることはなかった。
一応私たちの亡命から侵攻までの、一連を非難する書状は届いた。
『・ドミニク殿下と私、モミアゲの首を持ってアデライド殿下が投降する
・フルール軍は内政干渉をやめて直ちに撤退する
以上ふたつを受け入れるなら、その他の反乱軍参加者は無罪放免とする』
とかいう条件も提示してきたが。
これにはアンヌ=マリーが
『故フリードリヒ殿下の墓石に口付けしながら同じことを言うがいい。
しかして墓地の埃を噛め』
とのみ返事を書いた。
特にぐうの音が返ってくることはなかったが、
「挑発にも乗ってこなかった。陰湿だけあって冷静だ」
というわけで数日は、特に戦闘は発生しなかった。
正直移動の疲れを癒せるので助かる。
それが訪れたのは、私たちの到着から1週間と少しが過ぎたのち。
花曇りの朝だった。
戦闘がないと、それはそれで緊張『だけ』の状況に兵士が耐えかねる。
士気が下がっていないか、陣中を馬で見回っていると
「ミュラー卿ーっ! ミュラー卿はいずこにあられるーっ!!」
若い男の、私を呼ぶ声がする。
もちろんメロい話ではない。
「ここだ! 何かあったか!」
目立つようにハルバードを高々掲げると、
「あっ! ご注進ご注進!」
同じく馬で走ってくるのは、朝イチで偵察に出させた騎士だ。
行かせた方面は東ではなく北。
つまり。
彼は私の目の前まで来ると、転がり落ちるように下馬し、片膝をつく。
「申し上げます!
神聖鉄血帝国軍が現れました!!
ブルーメ・ガトーからノエブリンガーにかけて布陣するものと思われます!」
ついに来た。
──東進 完──
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