前夜
ムートン攻略の次はカルツァーヌだったが、
ここはすぐに陥落した。
何せムートン城奇襲で敵兵の多くを討ち、あるいは捕虜とした。
時間稼ぎに派遣された軍勢はすでに壊滅、抵抗力を有していないからだ。
かくして籠城した敵との攻防は、捕虜を味方に加えて約5倍の兵力差。
アンヌ=マリーの炎を使わず、1日と少しで決着と相なった。
メタな話になるが、魔法がある世界の城や陣地の攻防戦は、ない世界と異なる。
ない世界では防衛側が有利だ。
寄せ手はまず
『城に近付く』
『堀を渡る』
『柵を壊したり城壁を登る』
『城門の破壊作業に取り掛かる』
などと、まず戦闘へ入るまえに
『攻撃でも防御でもない無防備な行動』
を行わなければならない。
守備側はそこを狙い撃てばいい。
これが
『城攻めには5倍の兵力が必要』
の正体だ。
だが魔法があれば違う。
『鉄鹿』なんかいい例だ。まぁ、あそこまで行かなくとも。
地属性が複数人集まって地面を動かせば、石積みの壁なんてすぐ崩れる。
そこを素早く防衛側の地属性使いが修復して均衡を保つわけだが。
『ない』世界と違って攻防ともアクションが同じ。
数がダイレクトに手数の差として聞いてくる。
もちろんナルデーニやアンヌ=マリーのようなバケモノもいる。
そういった個人差が数の差を埋めもするから、単純な計算式は成り立たないが。
とまぁ。
興味がない人には一切おもしろくない(事実アネッサは10分以内に寝落ちする)戦術談義で何が言いたいかというと、
今の私たちは強いのでボロ勝ちするのだ。
えっへん。
これにはアデライド殿下も、
「求めたとおりの勝利を手にし、期待どおりに被害を抑える。
これを完璧なる戦と言い、成す者を国家の上将と呼ぶならば。
求めた以上の勝利を紡ぎ、期待以上に命を救う。
この業を成す者はまさに神将と称されるのでしょう」
と、大層お褒めの言葉をくださった。
やはりこれは報われるし、悪い気はしない。
『神』とか言ってたけど。
だがそれでも。
あるいはだからこそ。
「気が重いな」
ってこともある。
カルツァーヌ陥落の翌日。
我々はすでにベルノを目指し東進。
今はその途上で夜営をしている。
月明かりもやや遮られる森の中。
私たち三大将で、アンヌ=マリーのテントに集まっている。
一応テーブルに地図を広げてはいるが。
腕組み悩む議題は、そこに原因も解答も持たない。
「ムートンやカルツァーヌでは、騎士兵士だけを討てば済んだからね」
「とは言うがなモミアゲ。それでも結構まいったぞ。
殿下の手前口には出さんが、同胞殺しは心に傷を負う」
実際、味方の兵からも厭戦の声が上がっている。
『こんなことはしたくない』
『命を懸けてすることがこれか』
『悪趣味だ。せめてフルール軍がいるのだから、ソイツらに任せればいいものを』
と。
人の命は平等。
相手が何国の何人であろうと同じであるべき。
言うのは容易いが、こればっかりは『ある』。
むしろないのであれば。
『民族』と『国家』のために、長年多くの同胞が死んでいった。
殺し殺されてきた
これほど虚しいこともない。
あのアンヌ=マリー、聖女さますら安易に
『気持ちは分かる』
とも
『分からない』
とも言わないほどだ。
ただでさえそうなのに、
「ベルノは城塞都市だ。広大な都市が城壁の内側にある。
城攻めと市民への攻撃は不可分だろう」
いよいよ市民が巻き込まれることを避けられない。
「フロイライン。そもそも軍の中には騎士ではない兵士もいる。
彼らはもともと責任ある血筋ではなく、志願でもなければ徴兵であり、
殺しも殺されたくもない、覚悟など決めていない、
市民となんら変わらない存在だ。
我々はすでに彼らを用いたり殺したりしている」
「それでもやはり、『市民』とは違うんだ」
自分の足で戦場へ歩いてきたか、戦場が歩いてきたか。
武装か非武装か。
老若男女に妊婦や傷病者、あるゆるものが含まれるからか。
山や草原で軍が戦争すれば、その場はその戦いが終われば終わり。
しかし街を戦場にすれば、殺害だけでなく破壊が行われる。
長きにわたって暮らしを奪う傷跡が残るからか。
『これが理由』というのはハッキリ言えない。
でもあるんだ。
見えない壁が、越えてはいけない壁が。
「感情的な話はさておき。私もいち指揮官としての責任から言わせていただきますが。
マップを拝見したところ、これは城塞都市の常として
『街の区画割り』
『道路の線の引き方』
を行き止まりや曲がり道、迷路状にしている部分が多く見られる。
改めてあなた方に説明するのは、私に説法するようなものですが。
これは
『一般居住区が城の防衛機構として組み込まれている』
ことに他ならない。
敵は平気で市街戦を展開してくるでしょう。
民家の中に、屋根の上にゲリラを忍ばせて。
この時点で市民の被害を避ける、市民との対決を避けるのは不可能です。
なおもって信念を貫くとおっしゃるのであれば、
甘く見て倍の時間と血を支払うことでしょう」
アンヌ=マリーの目がオレンジに光って見えた
のは錯覚か。
だが、彼女も口には出さないが、推奨はしないが存念はある。
その瞳が訴えている。
『私が燃やした方が確実で速い』
と。
聖女に聖女のまま、こんな顔をさせるのだ。
戦争というヤツは。
翌日私たちはミルヒブルグに到着した。
ここには常駐する騎士団もいない、小さな古城がある。
有事の際に砦(城ですらない)として利用されることもあるので、廃城ではいない。
が、今回の有事に使う軍隊は壊滅したので、完全な空城ではある。
そこに入って小休止、昼食を摂るおり。
私たち三大将は、玉座の間に入られた殿下に拝謁した。
「明日にはベルノに到着いたします。
白十字、御兄君との戦。
鉄血、御姉君との戦。
長く凄惨なものが幕を開けるでしょう」
殿下は以前にも覚悟を示されていたが。
ある意味で私たちはそれをふいにし、市民を守る戦をした。
それがお心を揺らがせていないか。
改めて問う必要があったのだ。
ひざまづく私たちに対し、壇上、玉座のアデライド殿下は、
背筋を伸ばし、足先まできちんと揃えて、静かに告げられた。
「ときに、竜の口の中へ飛び込み、槍や剣で貫く英雄の話があると聞きます」
その後も進軍を続け、疲労を持たず現地入りできるよう調節し、野営。
翌朝、日が昇ると同時。
森を抜けた先、東の朝日で大きな影となっているのは、
「騎士団傾注。
王都ベルノである」




