急がばどうする
「蹴散らせっ! 小勢が勝つには勢いの他はないぞっ!」
「退けっ、退けぇぇぇ!!」
戦闘は予想どおり、2時間せずに決着した。
当然、私たちの勝利だ。
向こうが戦上手でなかったこともあるだろうが。
「うーん、ちょっといい気しないね」
「向こうもだろうな」
大剣に付いた血を眺めるアネッサと同じく。
愚かな王のせいで国が無茶苦茶になり、戦争が起きた。
その結果、同胞同士で殺し合っている。
彼らだって本音では、バカバカしくてやってられないだろう。
つまりはお互い予定調和。
敵の被害は非常に少なく、こちらはさらに少ない。
損も得もしていない。
西方方面軍が茶番でも
『倍の敵を退けた』
というトロフィーを手にしたくらいか。
それはそれで、この場面で得られるものは引き出せたかたちだ。
しかし、
あまりにも時間を稼がせなかったからか。
ムートン城では激しい抵抗が予想された。
「「「「「えい、えい、おー! えい、えい、おー!」」」」」
「まだ始まってもいないのに、すごい士気だな」
城が遠目に見えてきたくらいの位置だというのに。
風に乗って鬨の声が聞こえてくる。
「お役目を果たさなければ、大変なことになりますからね」
とりあえず陣を張って、作戦会議をすることに。
テントの中には、私、アンヌ=マリー、モミアゲ、アデライド殿下。
円卓に上座はないと言うが。
あえて言うなら、やはり室内の奥側がそれに当たるだろうか。
そこにおられるのはアデライド殿下。
名目上であろうと立てているだけあって、アンヌ=マリーも席を譲った。
その殿下の真正面。
右手を握って口元へ、わざとらしい咳払いひとつ。
それから挙手したのはモミアゲ。
「確かにムートン城は要塞ではない。
城下町も防衛機構として機能するほど迷路化はしていない。
だが2万に対し4万の力押しでは、一定の被害を覚悟することになる」
ここでもうひとつ咳払い。
どうやらアイツなりの、
『ちょっと不利なことを言わねばならない』
『皆さんの意見や方針と合わない意見を提示したい』
ってときの合図らしい。
「だったらいっそ、『攻めない』というのはどうだろう?
しばらく待つんだ。
向こうも結局は我々を通過させなければならない。
だったら今通行料を払うのは、損と言えるんじゃないだろうか」
一理ある。
対して殿下の右側、東西南北でいうと、殿下が北なら西。
アンヌ=マリーが手を挙げる。
「しかし我々もまた、急がねばなりません。
まんまとベルノで鉄血帝国と鉢合わせにされてはおいしくない」
「それなのだがね。
情報による連中の位置から予想するに。
理論値的行軍速度で1週間、常識的に考えれば2週間ほど掛かるとか。
たとえ我々が数日でベルノにたどり着こうと、正直大差ないのでは?
城攻めに時間を掛けているうちに、結局連中が間に合うだろう。
いっそ城攻め中に横腹を突かれるくらいなら、最初から向き合っていた方が」
「私はゼネヴォンを3日足らずで陥しました。
お忘れですか? ムッシュー」
「うっ」
そういや因縁の2人か。
私を介して『友だちの友だち』状態でつるんでいるんだよな。
マズくなったら介入しよう。
「いやね? アレはまだロージーヌに退くことができたから、戦略的撤退だよ。
でも今回の相手はベルノが最後の砦だ。
絶滅戦争なら話が変わってくるだろう」
「ふむ」
「それならいっそ、少しでも消耗を避けた方がいい。
ハインリヒ派と帝国、敵は多く先は長い」
「であればこそ、速攻で各個撃破に臨むべきでは?
鉄血帝国との戦いも、ベルノを抑え要塞と大義名分を持っている方が有利です」
「ふーむ」
平行線だな。
どっちの意見ももっともだし、
どっちを採用しても、
得るもの、失うもの
有利になること、不利になることがある。
判断が難しい。
「フロイラインはどう思う?」
っていうお鉢をまわしてくるんじゃないモミアゲ。
殴るぞ。
だが私としては、ある程度意見が固まっている。
「いいか。今敵として最も警戒すべきは白十字でも鉄血でもない。
『鉄鹿』だ。
その『鉄鹿』と争った私が言う」
さすがに重みがあったらしい。
モミアゲはツバを飲み、アンヌのマリーの眉も険しくなる。
発言内容というより、顔と声に死闘の記憶が出ていたんだろう。
「結論から言うと、早ければ早いだけいい。
アイツの魔法は地中から火薬を組成する。
先着を許したが最後、あたりの着陣に目ぼしい場所は地雷原にされるだろう」
「おぉ、なんという」
「それだけではない。
これは実際にやられたことだが。
アイツは平気で、軍を置き去りに先発したりする。
一人で皆殺しにできる自信があるからだ。
あくまで大軍勢の行軍速度での
『1週間』
予想は、早いどころか妥当と見た方がいい」
「ふむぅ」
さっきから中身のないリアクションばかりするモミアゲ。
「であればやはり、ここは速攻でムートンを陥落せしめるべし、と」
アンヌ=マリーは深く頷く。
意見が一緒だしな。
というわけで、多数決は2対1
と行きたいところだが。
「そのため、マリアンヌ卿の力を持ってしてでも。
ムートン城を1日中炎で包むことになろうとも。
押していくべきです。
よろしいですか? 殿下」
何よりの懸念は、この方だ。
『国民を守る』というのが、彼女にとって何よりの悲願。
この遠征をする根幹。
対して、直接ではないとはいえ、
『国民を炎で巻く』
というのは、さすがに真反対が過ぎる。
殿下とは同じようなテーマで、幾度となく議論になってきた。
その都度、なんとか言い含めては来たし、
すでに戦は動いているのだ。
なんならご意向を無視することもアリではある。
だが、可能なかぎり、ここは統一しておきたい。
人情もあるし、
私が恥を忍んだ妹魔法でフルール軍騎士を洗脳したように。
逆に殿下を蔑ろにしすぎると、白十字側の結束が瓦解しかねない。
場合によっては、殿下にあの呪われし魔法を使う可能性も視野に入れねば。
うっすら手に汗を握りつつ。
無表情。
読めない様子で座に着いている、殿下のお言葉は




