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輝きの裏には影がある

 廊下にも出るとアネッサが立っていた。

 待機させた覚えはないし、人払いを申し付けてもいない。


 たまたま通り掛かって、入らない判断をしたって感じだな。


「聞き耳立ててたのか」


 時間が惜しいので歩きはじめると、


「あっ、ごめん。つい」


 アネッサが慌てて着いてくる。

 怒られてると思ったか?


「いや、かまわん。


 それより、聞いていたなら内容は知っているな?



 今すぐ出撃の準備に取り掛れ」



「はっ!」


 かまわんし、かまうとしても怒っている時間が惜しい。

 そう、時間が惜しい。

 1分1秒が惜しい。


 なんでそんなに急いでいるんだ、って?

 殿下に『待たせるな』と言われたからか、って?


 違う。


 殿下と言えば、

 実は、



 真に卑怯ながら、アデライド殿下には黙っていたことがある。



「いいかアネッサ。時間との勝負だぞ」

「心得ています」



「1センチでも多くの土地を()る。

 1センチでも多く鉄血どもが得る土地を減らす。


 いいな!」


 それは、



 私たちもハインリヒ征伐に参加した場合、


 どちらが先にベルノに入り、正統な国王となったかに関わらず、


 ヴァリア=フルール王国支配地域

 神聖鉄血帝国支配地域



 祖国が2つに割れる



 ということだ。



 これにより、


「フューちゃん」

「なんだ」

「荒れるね」

「あぁ。



 白十字王国国土は、列強同士の最前線になる。


 下手すりゃ、今まで以上に激しい戦の舞台となるだろうな」



 それだけじゃない。


 場合によっては、引き裂かれる家族もいるだろう。


 なんなら、


「フューちゃんは、いいの?」


 私がそうだ。


 今現在フルール王国、西側にいるが。

 実家は北方のやや東寄りだ。

 確実に支配地域としては別れるだろう。


「覚悟はしてきた。

『辛くない』と言えばウソだが、心の整理はできているさ」


 だが、ほとんどの国民や兵士はそうではないだろう。

 何より、誰より、



 アデライド殿下ご自身が想定していなかっただろう。



 分かっていたら出征をお認めにはならなかっただろう。

 いっそ帝国が白十字全域を支配すれば、国土はひとつのままなのだから。


 民に苦しみを生み出すと知っていたら、


『民を導くための王者の輝き』


 が放たれることはなかっただろう。



 だから私は黙っていた。

 隠していたのだ。



「ねぇ、フューちゃん」

「まだ何かあるのか?」


 そろそろ私やアネッサの部屋だ。

 諸々の再確認も大事だが、荷物をまとめなければならない。

 世間話程度ならあとにしてほしいものだが、



「そうまでして、両殿下が王位につかれることにこだわるんだね」



 目的意識なら擦り合わせておかんとな。

 ここに齟齬があるとアネッサが


『よかれと思って』

『こうするのがベストだと自己判断して』


 思惑とは逆のことをしかねない。

 副官が比喩でも


『手足のごとく』


 なら、それこそ一心同体、以心伝心であるべきだ。

 変に他言もせんだろうし、話しておくか。


「そりゃな」

「出世とか、やっぱり自分が仕えてる人にトップになってほしい感じ?」

「そうではない。ただ、



 私は


『白十字王国がどう』


 とか


『民がどう』


 とか、全部どうでもいいからな」



「ええっ!?」


 密室で内緒話にしたいわけじゃないが、ちょうど自室に到着した。

 中に入るとアネッサも続いてきて、ドアを閉める。


「どういうことなの!?」

「私の目的はひとつ」


 アネッサのリアクションと『どう受け取ったか』は声色で分かる。

 いちいち顔を見て話さなくてもいいだろう。

 荷物まとめを優先するか。



「『両殿下の身の安全』それのみだ。



 それが前王陛下から託された最後の、生涯の命令であるし、

 両殿下の安全安泰がすなわち、私の安全安泰だからな」


「矛盾……」


 アネッサのつぶやきの意味は、私が殿下を戦場へ連れていくからだろう。


 荷物は、えー。

 大体『座り込み』の陣に持っていってるから、多くはないな。


「そうでもないぞ」

「でも戦場は危険だよ? 少なくとも攻められてもいないお城の中よりは」

「戦場が危険なんじゃない。


 戦場に行かなければならない状況が危険なんだ」


「ふーん?」

「オマエも荷物まとめろよ?」

「今日中にできればいいから」


 アネッサが椅子に腰を下ろす。

 長くなると思ったのかもしれない。

 そんな2時間たっぷり講釈垂れる内容でもないぞ。


「こうなっとるのも()()()に、両殿下がお命を狙われているからだ。


 庶子という立ち場は王子の特権どころか、


 他の王位継承者から疎まれたり、

 利用する下心(したごころ)丸出しの佞臣(ねいしん)を呼び寄せたり。


 とにかく敵が多くてロクなことがない。


 一派として巻き込まれる私たちも、命がいくつあっても足りん」

「それはそう」

「だからだ。



 いっそ誰も手出しできんくらい無敵の存在になってもらえば。

 なってもらわねば。



 私たちの安寧は訪れない」



 必要なものはトランクに詰め終わった。

 一度アネッサを振り返ると、


「……」


 アゴに手を当て僅かに首を(かし)げ、私の言葉を咀嚼している様子だ。

 だが、


「今はまた戦うことになるがな。

 役職としちゃ、せっかく騎士でなくなったんだ。

 戦場を離れたんだ。


 命くらい安泰でないと、割に合わんじゃないか」


 アネッサは常々放言している。


『考えるのは私の役割じゃない』


 と。

 副官根性すら超えた何かだ。


 だが今回もそれに(のっと)ったらしい。


「そうだね」


 すぐにアゴから手を放し、笑った。











 翌日、昼まえには前線に戻ると。


 アンヌ=マリーは自身のテントで手紙を書いていた。


「どうでしたか」

「なんとか担ぎ出せたよ。なんなら結構なやる気だ」

「ほう。このまえの演説のように、妙な媚を売りましたか」

「早く忘れた方が身のためだぞ」


 いや、でも実際、そうした方が早かったかもな。

 私も殿下が嫌がるだろう事実は伏せるくせに、何を今更。

 誠実ぶってでもいるのだろうか。


 今度急を要する場面で頑固さを発揮されたら……


 いや!

 私は決して進んで妹属性魔法を選択肢には入れない!


 そもそも関係ないときに想起するのすらNGだ。

 話題を変えよう。


「そっちはどうだったんだ」


 アンヌ=マリーは無言で、書面からも目を離さず


 羽ペンを握っていない左手でOKサインを作ってみせた。


 心配はしていなかったが、モミアゲとの連携約定(やくじょう)を取り付けたらしい。


「これで役者は揃ったか」

「えぇ。あとは舞台に上がるだけです」


 こうして、











 4日後ののち。


「フレデリカ……」

「大丈夫よお母さま。


 ではミュラー卿。万事よろしくお願いいたします」


「なんなりと」


 朝の日差しのなか、



 白十字亡命政権・ヴァリア=フルール王国連合軍は、


 祖国へと出征した。

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